7月3日にリリースされたB'z最新のオリジナル・フル・アルバム『GREEN』。タイトル“GREEN”から想像される単語は、若々しく自然の生命力を喚起する色、緑。しかし、このタイトルに込められた意味は、歌詞にも所々出てくる“青二才”であり“未熟さ”である。キャリアを積んだ2人が今もなお自らの未熟さを問い詰めていく根元はどこにあるのであろうか。地位にも名誉にも名声にも安住することなく、いやむしろ、そういうレッテルに対抗するがごとく、このアルバムは作り上げられたのかもしれない。全12曲に込められた松本孝弘と稲葉浩志からのメッセージ。瑞々しい感性とメロディが交錯し、挑戦的かつ王道のB'zサウンドで埋め尽くされたNEWアルバム『GREEN』。第一線を突っ走り続けるB'zのこの爽快な作品について早速考えてみた。
史上最強の青二才! B'z最新アルバム『GREEN』全曲紹介
01. STAY GREEN 〜未熟な旅はとまらない〜
アルバムのトータル・イメージを象徴するオープニング・ナンバー。STAY GREENとは“青二才のままでいてやろう”という世の中に対するある意味宣戦布告であるかもしれない。そしてサブ・タイトルの〜未熟な旅はとまらない〜とは、“初心忘るべからず”の表明だ。イントロで稲葉が語りかける言葉は、まさにこの意味合いを象徴している。そして、その後に続く野太い松本のディストーション・ギター・サウンドは、“最後までSTAY GREEN”へと続く、B'z サウンドの雄叫びだ。
02. 熱き鼓動の果て
B'z 2002年最初のシングル曲であり、「TV ASAHI NETWORK SPORTS 2002」テーマ・ソング、そして、「パンパシ水泳横浜2002」大会公式テーマ・ソングというタイアップで、FIFAワールドカップの時もテレビではオンエアされていたので、御存知の方も多いだろう。このスケール感溢れるナンバーは、いきなり稲葉のヴォーカルの歌い出しと松本のアコースティック・ギターのみのサビ・メロで入る斬新なオープニングといい、ドラマティックなサウンド展開といい、2002年度のB'zの代表曲に相応しい。稲葉の歌詞ももちろん体育会系の血潮をたぎらせる詞であり、普遍的な作品として完結させている。記録的には、オリコンのシングル・チャート初登場1位29作連続となり、前人未到の記録を更新する作品となった。
03. Warp
この曲は、アルバム収録曲の中で最後に作られた楽曲。アップ・テンポでハネた感じは、最近のB'zソングではありそうでなかったパターン。また、B'zのナンバーでは珍しく、パートによっては稲葉の詞が先に出来上がっていて曲をあてはめるといういわゆる詞先で出来た曲。時間の経過と共に見えてくる愛情とも友情ともなんともいわれのない気持ちの感情を“きらいなわけないだろ”の一言に集約した稲葉の言葉の威力。evergreenな感情が甘酸っぱいナンバーだ。
04. SIGNAL
信号待ちの情景を歌った恋愛バラード・ナンバーとしては、過去には90年のアルバム『Break Through』に収録され、ファンの間では秘蔵の名曲として親しまれていた「今では…今なら…今も」というナンバーがあったが、この曲はモチーフは近くとも歌詞に込められた愛の意味合いはかなり異なっている。平和な中にもほろ苦さが垣間見える大人の感情を歌った歌詞、これは一筋縄の青二才では想像だにできないだろう。松本の作り出す哀愁のメロディもそんな感情の揺れを表現して繊細だ。自らの経験と照らし合わせながら、つい想像力を掻き立ててしまう、メランコリックなナンバーではないだろうか。
05. SURFIN' 3000GTR
僕の記憶する限り、今だかつて“サーフィン”という夏単語がタイトルに明らさまについたB'zソングはなかったのでは。熱いサウンド全開で押し寄せてくるが、ここで特筆すべきは、あのベンチャーズばりのテケテケサウンドを松本孝弘が弾いている! しかも波乗りのような「フゥワー」というコーラスまで入っている。あくまで全体はB'zサウンドには違いないけれど、今までのB'zでは聴いたことのないサウンドが散りばめられている。まだまだB'zには、学ぶことがある、という信条を地でいったようなナンバーだ。
06. Blue Sunshine
「SURFIN' 3000GTR」に続き、こちらも夏を感じさせる、今度は爽快なナンバー。前2作のアルバムではあまりお目にかかれなかった感じのB'zサウンドが楽しめる。このポップなテイクに対して、実はもう少しハードなタイプのテイクも存在するそうだが、アルバム全体の流れなどからこちらが採用になった。愛すべきアルバム・ナンバーとしてB'z ファンの間では人気が出そうだ。
07. ultra soul
2001年3月にシングルとしてリリースされ、21世紀最初のB'zの代表曲となった、力強く闘争心をみなぎらせるウルトラ・ソング(世界水泳福岡2001 大会公式テーマソング)。アルバムでは“オルタネイティヴ・ギター・ソロヴァージョン”を収録し、シングルとは一味違った松本孝弘のギター・ソロが聴ける。
08.美しき世界
ピアノのイントロで始まり、朗らかにメロディが流れ出す。稲葉の抑えた歌い声と甘い松本のアコースティック・ギターの響きがAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)な雰囲気たっぷり。96年発表のミニ・アルバム『FRIENDS II』の世界観を聴いたことのある方なら、こういった大人なタイプのナンバーも納得するだろう。逆に最近のロック的世界観のB'zサウンドから入ったファンには新鮮な魅力をもって迎えられるのでは。制作的には、こういったバラード・タイプでリズム・トラックが打ち込みなのはB'z としては珍しいのでは。
09. Everlasting
映画「名探偵コナン ベイカー街の亡霊」の主題歌ナンバー。ドラマティックな展開にするために様々な点でアレンジを変更。当初に比べてかなり大胆でドラマティックなサウンドに仕上げられた。「LOVE PHANTOM」や「Calling」に通じる壮大なオーケストレーション、重圧なコーラス・ワーク、丁寧な匠の技が光る、これも一つのB'zの王道サウンド。
10. FOREVER MINE
「ultra soul」「スイマーよ!」などのアレンジ、そしてベース・プレイでコラボレートした徳永暁人と作り上げた直球勝負のB'zのロック・サウンド。この重圧で畳みかけるギター・サウンド、ヴォーカル、リズム・トラック、どれ一つとってもB'zファンにはたまらない、一つの完結した美学がこの曲にはある。
11. The Spiral
B'zにしては意外なダークなAメロが印象的なナンバー。シンプルなサウンドの部分とサビのドラマティックなサウンドの部分との対比も面白い。また、稲葉の歌詞もこの曲のメロディに影響されてか、いつになくシリアス・ムードのみで完結させている。また、エンディング部のヴォーカルのみでフッと終わってしまうところも今まであまり例がないパターン。数あるB'zの曲の中でもかなり異色な部類に入るナンバーだろう。
12. GO★FIGHT★WIN
「GO★FIGHT★WIN」は、英語のニュアンスとしては軽い意味での「ガンバレ!」という意味らしいが、B'zは、やはりより重い意味での「GO!」「FIGHT!」「WIN!」という意味合いを込めてこの曲をラストに持ってきたのではないだろうか。いわばアーティストにとってもこれを聴くリスナーにとっても「叱咤激励」の歌。様々な物事と闘い続ける、そして闘い続けなければならない宿命を背負ったハードボイルド作品。決めの鮮やかなエンディング曲であり、このアルバムのラストを締めくくるに相応しい壮絶なナンバーだ。
(音楽ライター/斉田才)
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