デビュー以来、これほどまでに倉木麻衣が活発に姿を見せてくれた事はあっただろうか? 作品のリリースはもちろん、CM出演に全国ライヴ・ツアー、ファンクラブ・イベントと、今年に入ってからこれでもかと言うぐらいにアグレッシヴな一面を見せてくれている。さらに7月17日には、同レーベルの仲間達とコンピレーション・カヴァー・アルバム『GIZA studio MAI-K&FRIENDS HOTROD BEACH PARTY』をリリースし、それとリンクしたシーブリーズ主催のツアーも全国5ケ所で決行。7月30日に逗子マリーナで行われたライヴも、大盛り上がりの内に幕を閉じた。今回の取材は、その翌朝の10時半に編集部にて行った訳だが、その時もまったく疲れや眠気を感じさせなかった彼女。細い身体のどこに一体そんなパワーがあるのか……と思ってしまうが、話を聞いてみるとそれはやっぱり歌う事が好きだから、どんな活動でも楽しく行えているのだと実感した。9月4日にはニュー・シングル「Like a star in the night」(テレビ朝日系「ダーク・エンジェル」エンディング・テーマ)がリリースされている。これまでの活動や新曲、そして今後の事について話を聞いてみた。
●昨日逗子で行われた「HOTROD BEACH PARTY」のステージはいかがでしたか?
倉木麻衣(以下倉木):今までのライヴとは違って、同じレコード会社の人達とMAI-K&FRIENDSとして野外で出来たのですごく楽しかったです。
●野外は倉木さん自身も初めてですか?
倉木:東京スタジアムで経験がありますけど、それはFIFAのオフィシャル・コンサートのゲストとしてだったので、自身のライヴでは初めてですね。
●大好きな夏に海の近くで出来た訳ですが、やっぱり雰囲気が違いましたか?
倉木:嬉しかったですね。開場前に客席からも観てみたんですけど、ステージの後ろに綺麗な海があって、やっぱり野外はいいなって思いました。特に逗子はステージの横に海が見えるし、場内もけっこう広かったので。
●ステージ慣れしてきたというか、あんまり緊張しているとは感じなかったのですが。
倉木:ステージは出て行くまでが緊張します。出た後は、どう動いていいのかなって最初は思うんだけど、だんだんライヴをしていく内に、自然と動けるようになって。でも未だに片寄って、こっち(右)に多く行ってしまうんです。マイクを右手に持ってるからなのか、どうしてもそっちに行ってしまうんです(笑)。
●ファンの人は右側の席に当たるとラッキーですね(笑)。今回のライヴで感じたかもしれませんが、後輩が続々とデビューして倉木さんはもう先輩になるんですけど、そういう実感はありますか?
倉木:先輩になったっていう実感はあまりないんですけど、そういう仲間が一杯増えていくっていうのは、色んな意味で刺激があります。競争心が出て、いい意味でのライバルって感じで、みんな頑張ってるんだ、じゃあ私もやるぞって。
●そういう姿を見ると自分のデビュー当時を思い出したりしますか?
倉木:思い出しますね。あの時の気持ちが分かるから、「きっと今こうなんだろうな……」とか。ちょっとずつそういう気持ちが蘇ったりして。
●倉木さんに憧れている人や、オーディション番組で倉木さんの曲を歌っている人もいたりしますが。
倉木:前までは自分が違うアーティストに憧れてデモテープを作ったりしたんですけど、今度はその逆の立場になったっていう、何とも言えない不思議な感じ(笑)。でも自分の曲を色んな人が知って歌ってくれる、そんな嬉しい事はないと思う。
●「Like a star in the night」はシングルとしては初の本格的バラードになっていますが、曲を最初に聴いた時の印象は?
倉木:これはピアノの弾き語り風のデモ・テープで、歌詞を書く時「あ、これはin the darkだな」って、何か暗闇の中って感じがしました。
●聴いた時にそういう映像が浮かんできたんですか?
倉木:星とか夜って感じがしたし、TVドラマ「ダークエンジェル」の主題歌になるって聞いて、ちょうど暗闇っていうのが合ってるかなって。そこからイメージを膨らませて歌詞を書きました。「Like a star in the night」っていうタイトルは、暗闇の中に光っている星が自分自身を照らしてくれて何かを決意するっていう、星を希望に例えて書いてみたんです。
●暗闇が浮かんだけどそこは真っ暗ではなく、何か光が射している感じの勇気付ける曲が書きたかったんですね。全体的には恋愛をテーマとしていますよね?
倉木:付き合っている2人がいるんですけど、すごく幸せ過ぎて不安になっちゃうっていう心情。以前に2人で一緒に海が見えるガードレールに来て車を止めて眺めていたんですけど、そこで「このままずっと一緒にいられるのかな?」って不安な気持ちが出てくるっていうのが1番の歌詞なんです。2番の詞では、彼女が1人でその場所に来てみると、2人で来た過去の事を思い出すんです。その時にちょうどサザンクロス(南十字星)が出ていて、その星座の一番上にすごく輝いている星があるんですけど、その星を見ていたら不安な気持ちが消えて、このままずっと一緒にいようっていう気持ちになって。それで舗道を歩き出して、彼の元に今すぐ会いに行くっていう内容なんです。
●ちょっと漠然とした世界でもあるので、片想いの歌詞と感じたり、恋愛とはまた違った風景にも取れるなって思ったんです。
倉木:一応、恋愛の歌詞を書いてはいるんですけど、それに捉われずに自分の目標なんかに例えて、聴いたその人自身で感じて頂けたら嬉しいです。
●幸せ過ぎて不安になる……。これは実話ですか(笑)?
倉木:こうだったらいいなって(笑)。映画とかを見て、このシーンがいいなとか。今回は女の子の決意を書いてみたんです。前回はほとんど男の子の決意だったから。
●倉木さんの作品は、女の子が主人公だと片想いが多かったり、何かちょっと悩んでいるシチュエーションが多いイメージがありますね。
倉木:そうですね、わりと多いかもしれないです。男の子を主人公にして書くと「君」とか「僕」って言葉が入るので、ストレートに強い感じが出てくるからやっぱり積極的な歌詞になります。女の子を主人公にするとわりと悩んでたり、少し距離を置いて自分の心情をたくさん書いてみたりとか、そういうのが多くなっているのかもしれないです。
●今回はどうして女の子の強い決意が書けたんでしょうね。
倉木:そういう強い決意を持った女性に憧れているからかな。
●倉木さんが今、そういうモードになっているのでは?
倉木:それはあるかもしれないですね。自分自身が色んなライヴをするようになって、強くなりたいとかもっと自信が持てるようになりたいとか、そういう憧れみたいなものが出てきているのかも。自分自身では分からないけど、そうでありたいっていう強い希望とかがこういう歌詞にさせているのかな。でも、意図的ではないんですよ。特に考えずに、曲からイメージするものを書いていたらこうなっていた(笑)。
●ヴォーカルはいかがでしたか?
倉木:初めがピアノの音だけなので、出だしがすごく難しかったです。静かに入っていくべきか、少し爽やかにした方がいいのかとか。あと、だんだん盛り上がっていくサビの持って行き方も、コーラスでもっと盛り上げてとか、何回も録り直したりして。久し振りにたくさん歌いました(笑)。
●コーラスには大野愛果さんと宇徳敬子さんが参加されているんですよね。
倉木:宇徳さんと大野さんと私とで、女性3人の声が入っています。コーラスってすごい重要だなって今回改めて思ったんです。コーラスが入ると曲の雰囲気もぜんぜん変わって、すごく盛り上がるし。この曲は3人の女性コーラスによって、さらに女性の強さが出ている気がします。
●色んな意味で新しい事が取り込まれた作品になっているんですね。
倉木:そうですね。3曲目には「Like a star in the night〜a capella ver.〜 」が入っているんですけど、「HOTROD BEACH PARTY」のライヴやアルバムでもコーラス参加してくれたアミューズメント・パークスというコーラス・グループが、すごく綺麗に入れてくれたんです。前からゴスペルみたいなハーモニーを1回やってみたいなって思っていたので、この曲がマッチしていてすごく良かったです。コーラスだけでこんなにメロディが綺麗にすんなり聴こえてくるのはすごいなって。いつか私もソプラノやアルトを自分で出して、“一人ハモネプ”状態で全部自分でアカペラを歌ってみたいなって(笑)。
●カップリング「Give me one more chance」は、グルーヴ感たっぷりの洋楽テイスト溢れる曲になっていますね。
倉木:この曲は夏にぴったりな曲だなって思ったんですけど、作ったのは実はすごいギリギリだったんです(笑)。これは片想いの子が告白する歌詞で、シチュエーション的には友達だった男の子と花火大会を見に行って、いつ告白しようっていう女の子の心情を書いてみたんです。ハラハラ、ドキドキな感じで、そのドキドキ感を花火に例えていて、花火がバーンってなる瞬間に気持ちも花咲いて告白の言葉が出てくるんじゃないかなって。
●タイトルを「Give me one more chance」って、“もう1度チャンスを”ってしたのは?
倉木:この子はずっと告白したいって思っていたんですけど、なかなか言えずにチャンスを逃していたんです。自分の夏休みを締めくくるためにも花火大会に彼を誘って、ここで言わなきゃお終いだって。それまでは学校とか色んな所で話をしていたんですけど、なかなか言えなかったから、この夏最後の花火大会で、もう1回だけチャンスを下さいって。それで“Give me one more chance”と。だから、ある意味こちらも決心の歌詞なので、今回のシングルは2曲とも「決心」がテーマになっていますね。
●“シュートのタイミング狙ってる〜”の部分は、ワールドカップが影響した歌詞かなって思ったのですが。
倉木:そうですね。“シュートのタイミング狙ってる”って、けっこう切羽詰まった気持ちを表現しているんです。チャンスとか、ここでシュートを決めないととかを入れると、そういう感じが出るかなと。初めはイエローカードを出そうかなと思ったけど、ちょっとマニアック過ぎるかなって。そういった意味でも、FIFAのライヴに参加したのはすごく大きかったですね。
●それは他のアーティストとステージに立った事が大きかったのか、それともまた他の理由で?
倉木:一番大きかったのは、ワ−ルド・カップっていう大きなイベントを通して、世界中の一人一人が熱く一体となって応援できるというのを知った事ですね。あと、サッカーというスポーツとオフィシャル・コンサートという音楽との関わり方とか、音楽を通してスポーツが応援出来ちゃうんだってのを知ったのも自分の中では大きかった。MCでも3つのキーワードを出して話をしたんですが、サッカーと音楽の共通点は“愛と平和とヴィクトリー(勝利)”かなって、自分の中で勝手に解釈しているんです。音楽やサッカーによって国中が一つになったり、人と人との心が一つになったりっていうのは、やっぱりそういう3つのキーワードがあるから出てくるのかもしれないって。あとは尊敬するローリン・ヒルと同じステージに立てたっていうのも、今年一番の大きな出来事でしたね。
●ローリン・ヒルと同じステージに立ってみてどうでしたか?
倉木:夢を見ているようでした! ローリン・ヒルが歌っている時はPA席の所で見ていたんですけど、「今、同じ空気を吸っている!」って客席の誰よりも見つめていたと思います。ローリン・ヒルの「トゥー・ザイオン」でデモ・テープを作ったのがきっかけで、私はデビューができたので……。
●ローリン・ヒルとの交流はありましたか?
倉木:ちょうど楽屋が隣だったので、隣にいるんだって固まっていました。笑い声がたまに聞こえると、壁に張り付いたりして(笑)。会える事を期待して、彼女のアルバム『ミスエデュケーション』を持っていってたんです。ローリン・ヒルが帰る時に呼び止めて、「I respect you & music!!」と言ってCDを出したら、「OK」ってサインをしてくれ、一緒に写真も撮ってくれて。CDと一緒に大切に家に飾ってあります。実際にお会いすると、私より少し背が高いくらいの小柄な方なんですが、すごくオーラのある芯の強い人だなって感じました。
●今年はそのFIFAライヴとHOTRODライヴの他に、ファンクラブ・イベントやCM出演もあったりとかなり活発ですね。 全部夏に近いっていうのが、“不思議なこの季節(「Feel fine!」)”って感じですね。
倉木:暑いと自分自身も熱くなって、心も開放的になれるんです。夏はライヴも盛り上がるし、HOTRODのライヴもすごく盛り上がったし。今年は自分でも一番、切磋琢磨出来たと実感した年になりました。馬年なので、走馬灯のようにあっという間に駆け抜けた……(笑)。けっこう占いを信じているんですけど、「今年一年は充実した年を送れる」って書いてあって、当たってるなって。でも、そうやって早く流れていく年の中でも、「Stay by my side」というか、波に流されないように一つ一つのイベントだったりを、一個ずつ自分なりに消化して取り込んでいきたい。自分の中ではそういう目標を持っています。
●それを次作に活かしていく感じなんですね。3rdアルバムの方はいかがですか?
倉木:次のアルバムはテーマを決めて、内容的にも歌詞で一貫させた作品にしたいなって思っているんです。曲調的には速い曲が多くて、バラードが少ないかもしれないですね。
●またパワー・アップした感じの作品に仕上がりそうですね。
倉木:ファンクラブ・イベントで握手会をやったんですけど、その時に「3rdアルバム期待してます!」って言われて、「はい!」ってすかさず返事をしていたんです。自分でも頑張らないとって気持ちがあったから、ひと呼吸置く前に気付いたら「はい!」って返事していたみたいなんです。
●自分でも楽しみですよね。アルバムはシングルと違って成長過程が目に見えて分かるものだし。
倉木:アルバムを作るっていうのは、すごく自分でも楽しい。全部が出来上がって初めて聴いた時は、何とも言えない感じ。でも、そこで100%の満足は必ずしもないんですよ。そこで次々と、次のアルバムではこうしようって気持ちが自然と出てくるんです。だから、またやろうって思える。しばらくしてそのアルバム、例えば今なら2ndアルバムを聴き直すと、「今だったらきっと色んな事が出来るんだろうな」って思うんだけど、でもその時は自分がいいと思って全力投球して取り組んだから、それはそれでいいかなって。そういう尽きない面白さがあります。前までは作らなきゃって無我夢中でやっていたんだけど。
●余裕が出てきたんじゃないですか?
倉木:少しは。自分では気付かないけど、振り返って見ると前よりは色々と考えられるようになったし、色んな人との触れあいもスムーズになっています。話すのが苦手だったけど、……今でも苦手だけど(笑)、でも前よりは自分の事が言えるようになったし。やっぱりそういう色んな所が勉強になっているから、3rdアルバムを作ったらまた何か得るものがあるんだろうなって。「3」って言葉も好きなんです。1番はそれ以上はなくて、2番は1番を目指さないとっていうのと3番には負けられないっていうプレシャーがあるんだけど、3番だと気楽に自由にできそう。上を目指す頑張り甲斐もあって、下からのプレッシャーも少なくてノーマークな感じ。アルバムも1枚目はデビュー・アルバムで、2枚目はデビューに続くからどんなものなんだろうって期待があるけど、3枚目はそこから離れてわりと自由に思いきりこうしたいっていうのが出していける。そういう意味で、3番ってけっこう気楽であり上にも目標が持てるかなって。あとは何でも3年経てば分かるとか、3日坊主とか言うし(笑)。
●3日坊主ですか……。
倉木:何で3日坊主なのかなって考えたら、本当は良い意味では使われないけど、私は3日続いたらそれだけすごいっていう事なのかなって解釈しているんです。石の上にも3年ってことわざもあるし。
●アルバムでも3枚目が勝負作だってよく言いますからね。
倉木:出来上がりは頭の中にあるんです。1stアルバムの時はテーマも何もなかったけど(笑)。コンセプトが決まってると作りやすい所もあるし、どんな作品になるのか楽しみにしていて下さい!
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