9月11日にリリースされた最新シングル「無色」が、オリコンのシングル・チャートで初登場5位を記録。この曲ではインストア・イベントが行われたりテレビ番組に出演を果たしたりと、世間の話題をさらっていた上原あずみ。その「無色」が今だにロング・セールスとなっている中、待望の1stアルバム『無色』が11月6日にリリースされた。今作には、2001年10月31日に発売され、いきなりオリコンのシングル・チャートで初登場9位をマークしたデビュー・シングル「青い青いこの地球に」、本人のCM出演が話題となったNTT ドコモ「M-stage music」CMソング「Special Holynight」、今年3月にリリースされた60's風GSテイスト溢れる「Bye Bye My BLUE SKY」、漠然とした物足りなさや苛立ちをストレートに表現し、作詞面でも成長を見せた「Lazy」、そして最新シングル「無色」のシングル5曲を含めた全12曲が収録されている。歌詞の世界で内情を吐露したり歌を覚えた事によって、またそれを多くの人に受け入れてもらう事によって、生きる事さえも息苦しかった彼女が自分の存在意義を見つけ出し、少しずつ未来に対する希望や光が見つけられた。そしてそれまで否定していた、愛する事や人を信じる事など、新しい感情も芽生え始めて来たと言う。このアルバムにはデビューからたった1年でありながらも、作詞やヴォーカルといった作品面だけではなく、人間的にも飛躍的に成長を遂げた“上原あずみそのもの”がぎっしりと凝縮され詰め込まれている。このディープな空間を是非とも堪能して貰いたい。本作やこの1年間の変化について本人に話を聞いてみた。
●シングル「無色」ではインストア・イベントを行ったり、テレビ出演をされてましたね。
上原あずみ(以下上原):CDを聴いてくれている方と直接触れ合う事がしたかったので、インストア・イベントはずっと前からやりたいと思っていたんです。どういう方がいつも聴いてくれているんだろうって。分かんないじゃないですか。だからすごく興味があって。握手&トーク会っていう感じだったんですけど、握手の時に「あずみちゃんの歌に支えられてます」とか「励まされてます」とかそういう言葉をかけて下さる方がいて、私の方が逆に支えらえてるなって思ったし。どんな会場でもすごい感動してボロボロ泣いてしまって。得たものというか、与えられたものが大きかったです。
●腕立て伏せまで披露したそうですね。
上原:調子に乗ってやってしまいました(笑)。楽しかったですね。
●TV出演はいかがでしたか?
上原:カメラが回っている時はぜんぜん緊張してなかったんですけど、家に帰って自分が出たビデオを見たらすごく恥ずかしかった。普通の仕種とか表情も自分の知らない姿だったりして、「ああ自分ってこういう表情するんだ、こういう仕種するんだ」って新しい自分を知った気分です。
●夏に行われた「HOTROD BEACH PARTY」のライヴは、オーディエンスの前で歌った初ライヴになりましたね。
上原:人前じゃ絶対に歌えないって思っていたので、本当に自分でもびっくりでした。その時の映像を見ると本当にニコニコしていて、自分のこんな嬉しそうな顔を見た事がないって。しかも、それが何千人って大勢の方の前だったから、余計に驚きでした。テレビもそうなんですけど、実際に聴いてくれる方がいた方が自分の中で気分が盛り上がって楽しめたりするんだなって。これもまた新たな発見でしたね。
●1回経験したら、もっとやりたいなって思いますか?
上原:今までは無理だと思ってたんですけど、この経験で興味は湧いてきました。歌っている時に手拍子してくれる方がいたら嬉しいし、直にそういう反応が返ってきたりするのはすごく面白かったから。
●1stアルバム『無色』を作り終えた、今の感想や気持ちを教えて下さい。
上原:今回のレコーディングは、HOTRODのライヴがあったりテレビやイベントもあって一番忙しい時期だったので、やっと出来たっていう安心感がありますね。あと、詞を書けなくなった時もあったので、そういう時を過ごしつつ出来上がったから、すごく嬉しいしスッキリした気分です。
●アルバム・タイトルがシングル「無色」と同じになっていますね。
上原:「無色」っていう曲は今まで以上に感情移入して、詞を書く時も歌う時も入り込んでボロボロ涙を流して作っていった感じだったんです。それだけ自分が入り込む事ができたし、今までの作品の中でも多くの方に聴いて貰った曲になったので、アルバムのタイトルも『無色』にしようって。
●アルバムを作る時にこういう事を伝えたいとか、こういうテーマでっていうものがあったと思うんですけど。
上原:現実にある光の部分も影の部分も含めて「上原あずみ」っていうものを綺麗ごとじゃなくて、ありのままに表現できたらって。「上原あずみ」っていう人間を色々な角度から見て書いた詞なので、新たな面も出ていると思います。
●ライナーノーツに“本当の気持ちをなぜ閉じ込めるんだろう”って書いていますが、今は歌詞の世界で自分っていうのをすごく主張出来るようになったと思うので、これは上原さん自身が昔感じていた事なんですよね?
上原:そうですね。でも今も、言葉じゃけっこう伝えられなかったりするんです。詞を書くって事でなら伝えられたりするのですが。詞を書いたり歌ったりする前は、どうやって気持ちを表したらいいのか……とか、まず話をして気持ちを伝えるって事が出来なかったから、ずっとモヤモヤした部分があったんです。
●初取材の時に「後ろ向きは前向きの準備段階」って言っていて、今も上原さんの歌詞の世界ではそれが貫かれていますが、下手したらネガティヴになっていく可能性があるのに、聴いた人が作品に共感してくれたり、前向きになれると言ってくれている事についてはどう感じていますか?
上原:素直にすごく嬉しい。自分の持っている事に対して周りの人の気持ちっていうのを聞く事がなかったので、どうなんだろうって思ってたけど、詞を書くようになってから私と同じような事を感じている人ってすごく一杯いるんだなって、驚いています。苦しい事や悲しい事、不幸だったりするのはそれだけじゃない、そういう事があるからこそ、幸せを感じられると思うって。だから不幸は不幸じゃないと、どんな事も無駄じゃなかったのかなって思えますね。
●それが上原さんに安心感を与えて、そこからもっと強く深く自分の想いを伝えようってなっていったのかなって。デビュー作と5枚目の「無色」を比べても世界がよりディープになっているから、もっと自分を出して行こうって気持ちがこの歌詞に到達させたのではないですか?
上原:最初は素の自分を出す事にやっぱり戸惑いっていうのがすごくあったんですけど、 そうやって共感してくれる方がいる事で、私自身を出していっていいのかなって。「私を必要としてくれる人がいる」って感じられるようになったのが大きいですね。前はぜんぜん思わなかったんですけど、最近はすごくそれを実感していて。最初は自分のための歌だったけど、今はそうやって自分の歌を楽しみにしてくれたり、待っていてくれる方がいるから、そういう人にちゃんと自分の気持ちを届けたいし、聴いて貰いたいなって思いがすごく出てきてるんです。歌や音楽っていうものに対しての考え方がすごく変わりました。インストア・イベントを通してさらに深くそう思えるようになりましたね。
●前まではあんまり人の事を信じてないって感じだったのが、今は「信じたい」っていうようなフレーズもありますね。 「Tear Drop」なんかは最後のフレーズで、そういうものを探して行きたいってなっているから、今まさに意識改革をされている途中なのかなって。
上原:そうですね。やっぱり考え方自体もすごく変わってきていますね。今までは信じるってどういう事かわかんないって思ってたけど、今は信じたいものがあるから。この曲自体は前の自分と今の自分の気持ちを照らし合わせて書いた詞なんですけど、今は諦めるだけじゃなくて、そういう新しいものも探していきたいなっていう、いい向上心があると思います。けっこう色々考えたりする事があっても、最近は最終的には前向きになっているし、自分の事を前よりも認められるようになったので、それはすごく大きいんじゃないかな。
●今、信じたいものは何?
上原:まずは自分自身だし、自分を支えてくれる周りの人達だったりとか、必要としてくれる人達かな。
●今は自分の事が好きになれた感じですか?
上原:そうですね。前までは「なりたい」っていう意識もなかったんですよ。でも最近は、やっぱり自分の事は……。ちゃんと自分の事を自分で受け止めないとっていう気持ちがあるし、何よりも私を必要としてくれる人もいるわけだから、前よりもなんかすごい前向きになりました。
●恋愛の歌はまだ書けないと言っていたけど、「Deep Black」は“あなた”っていう存在が出ていてちょっとラヴ・ソングっぽいですね。
上原:「Deep Black」は真っ黒な景色っていう意味を込めて付けたタイトルで、私自身に実際にあった事を描いているんです。“信じるという事がわからない ”“人の愛し方がわからない”って言った時に、そういうのって可哀想だよねって言われて。でも、こんな私だけど可哀想だとは思わないなって、私はそういうものなんだからって。
●可哀想とまでいかなくても、ちょっと悲しいなって思ったりはしない?
上原:信じるって事がわかんなくても、信じたいって思える人がいたらいいなって気がしているので。そういうのって形がないものだから確認できないし、基準とか根拠って人それぞれだと思うから、自分がいいと思えるならそれでいいんじゃないかなって思います。
●最後に“生きる意味を探す事なんて依存するものを探す事よ”ってフレーズがありますが。
上原:私はそこがすごく好きなんです。私が詞を書く上でのテーマはやっぱり「生」と「死」で、どれもそういうテーマに行き着いたりするんですけど、そういう生きる事の意味ってなんだろうって考えた時に、その意味を探す事は悪く言えば依存するものを探す事だなって思って。私の場合は不器用なので両立とかがあんまり出来ないので、1つをやり始めるとそれだけって感じになってしまうから上手くいかなくなるんじゃないかなって。答えのない事かもしれないけど、いつかは見つけたいなって思いはあるんですけど……。この詞はけっこうひねくれた解釈で、素直になりきれていない時の自分を書いています。
●「I LOVE YOU」ではラヴ・ソングに挑戦していますね。
上原:恋愛の歌詞を書いた事は、自分の中では大きいと思います。こういう詞は今までの上原あずみを見てきてくれた方にはすごい新鮮だと思うし、本当に新しい一面を出せた詞じゃないかなって。
●これを書こうと思ったのはどうして?
上原:アルバム全体を通して聴いた時に、すごく暗いというかダークな曲ばっかりになっちゃって……。それで穏やかな優しい曲も入れたいなってデモ・テープを探していた所に、この曲を頂いて。聴いた時にこの曲には恋愛の詞を付けたい!って思って、書いてみようって。絶対に自分には無理だと思ってたんですけど、意外にスラスラ書けてびっくり。
●恋愛の歌詞を書こうって思う事自体が挑戦になりますよね。
上原:そうですね。今まではアップテンポの曲が多かったんですけどスローな曲もあったり、懐かしい曲調だけじゃなくて優しい感じのものもあったりして色々な楽曲を歌っているので、このアルバムを制作する事で視野も広まったなって。
●前から恋愛が出来ない理由として言っていた言葉が最初のフレーズ“始まるから終わりがくる それなら何も要らないと思った”で綴られていますけど、でも、それだけじゃないって事に気付けたからこの歌詞が書けたんですよね?
上原:始まるから終わりが来るけど、終わりが来るからまた始まりが来るのかなって思えるようになって。出会いがあれば別れがあるけど、別れがあるから出会いがあるんだなって。1つの出来事に対して、前よりも色んな見方が出来るようになりました。
●歌っている時はどうでしたか?
上原:歌い終わって家に帰って詞を見たら、やっぱりこれは恥ずかしいなって。今もこの曲が入るのはちょっと恥ずかしいです。新鮮だけど、今まではそういう面を出した事がなかったから、ちょっと恐ろしいような……。
●“大好きだよ”なんてフレーズは今までにはないですからね。
上原:あ〜もう恥ずかしい(笑)! 周りの人にとっては、私がこういう詞を書くっていうのは本当に考えられないと思うので。でもそういう面も出していいのかなって思えるようになったし、受け入れて貰えるのかなって。
●2ndアルバムが出た時に全部が恋愛の歌だったら……。
上原:いや〜どうなんでしょうか(笑)!! でも、これからももっと恋愛の詞は書けるようになるとは思うし、絶対に自分はこれからも変わっていけるような気がしています。
●自分の書いてきた歌詞を読んだり、アルバムを聴いていると改めて自分の成長を感じたのではないですか?
上原:特にデビュー前と歌を歌うようになってからでは、ぜんぜん違うなって思っています。自分がこういう仕事を出来るなんて思ってもいなかったし。私はまず歌を歌うか歌わないかって所から始まっているので。最初は歌っていうのは自分だけのもので、自分だけの事かなって思ってたんですけど、でも実際は違って1曲歌うごとに本当にたくさんの方が関わって下さって、応援してくれたりして、けっして1人でやっている事ではないんだなって。その責任の重さも感じるし。でも、責任があるからこそ、今は自分が得たものがすごくあるなって実感しています。
●生きるのも息苦しいって感じだった昔に、ここまで変われるって想像は付きましたか?
上原:ぜんぜん想像できなかったです。でも、息苦しいとしても、どこかに何か救いがあるかなって思いはあったので。
●まさに歌との運命的な出会いですね。
上原:すごく迷った時期もあったんですけど、歌っていいなって。ぜんぜん思ってもみない所に、そういう大切なものってあったんだなって思いました。
●デビューから丸1年経って、一番変わったのはどこだと思いますか?
上原:自分だから出来るっていうものを持った事と、すごく大きな責任を背負うようになった事かな。
●今後、こうなって行きたいってビジョンはありますか?
上原:歌の面では自分の素直な気持ちを表現していきたい。後は色々なものを見たりとか聞いたりして、もっと人間的に成長したいなって。色んなものを吸収して、いい方に変わっていけたらなって思います。
●アルバム制作の中で一番印象に残っている事は?
上原:やっぱりすごく感情移入した所。攻撃的な歌は自分もそういう気持ちになっていたし、悲しいとか切ない歌は自分もそういう気持ちでボロボロ涙を流していたので。今までは歌う事に意識がいってて、感情を入れるのがなかなか出来なかったんですけど、詞に込めた自分の気持ちをより伝えたいなってちゃんと意識するようになってからは、そっちにも目を向けられるようになりました。
●9月号のキーワードの「涙」で“泣く事は弱い事でいけないと思っていたけど違った”って書いていましたけど、そういう風にレコーディングでも自然と泣けるようになったのはどうして?
上原:泣くのを我慢し過ぎると、泣けなくなるんだって気付いたんです。強い人なんていないんじゃないかなって最近は思っていて。みんな弱い部分とか悩みや傷を持っていて、強そうに見える人でも強いフリをしているだけだったりするので、本当はみんな人間って弱いもんじゃないかなって。強いだけだったら、弱い人の気持ちはわからないかもしれないし……。どんな事も無駄じゃないって思えるようになったので、別に弱くてもいいんじゃないかって思えるようになりました。前は許せない事が多かったりしたんですけど、最近は何でも受け入れられるようになったというか、何でも許せるようになったし。自分の事がすごい嫌いだったっていうのが大きいと思うんだけど、変な固定観念があって、特に自分に対しては厳しかった。本当は小さな事なのに、自分で出来事を勝手に大きくして、自分で自分を責めているような所があったから。
●今は?
上原:自分を好きでいるのってすごく難しいけど、重要で大切な事だなって。自分の事を好きにならないと、他の人の事も好きになったり、許せたりはしないかなって。
●1stアルバムだけど、次作やこれからの上原あずみを期待させる仕上がりですよね。
上原:自分でもこのアルバムを制作した事ですごい成長したなって感じています。
●このアルバムを一言で表現すると?
上原:「上原あずみそのもの」ですね。「私の分身」「私自身」って感じです。
●残り2002年の予定や目標はありますか? また2003年にやってみたい事は?
上原:2002年は歌をもっと練習したいです。詞では表現できても歌を通してってなるとけっこう難しいので、もっと自分の気持ちを伝えられるようになりたいなってすごく思います。2003年はどういう形でもいいので、また人前で歌いたいですね。
●このアルバムをどういう人に、どのように聴いて貰いたいですか?
上原:自分の書いている詞は綺麗ごとだけじゃないし、本当に今まで以上にストレートに書いてあるから、また新しい面が出せていると思うので、より上原あずみっていうのを近くに感じて貰えるといいなって。解釈の仕方はその聴く方々で違うと思うし、好きなように感じて貰えれば。あと「青い青いこの地球に」「Bye Bye My BLUE SKY」「Special Holynight」とシングルでは歌い直している曲もあるので、聴き比べる楽しみ方もありますね。
●歌い直している時って、デビュー当時の事が蘇ったりした?
上原:その曲を作っていた時期を思い出して、あの頃は自分はこうだったなって色々思い返したりしてました。たった1年なんだけど、今まで生きてきた中で一番充実していたし、一番時間が早かったから。でも流されないで、毎日自分は生きてるんだって実感していたいなって。前までは平坦な毎日がいいかなって思ってたりしたんですけど、今は毎日色んな事があって、色んな事を考えていて、すごく浮き沈みもあるけど人間らしいっていうか、そんな毎日を送れているかなって思っているので。
●連載「日々精進」もすごく評判が良くて支持されていますよ。
上原:すごく嬉しいですね。詞を書く時の私とは違って、本当に素というか普段の何気ない出来事を日記みたいに書いているので、それを面白いって言ってくれる方がいるなんて。これからも続けていきたいと思うので宜しくお願いします!
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