今月もB'z関連の動きはすごいゾ! 6月の稲葉浩志ソロ、7月のB'zニュー・シングル「野性のENERGY」リリースに続き、今度は8月27日、松本孝弘ソロ・プロジェクト・シングルのリリースだ。しかも、ヴォーカルにはなんとZARD坂井泉水を迎え、さらに曲目はあの70年代の邦楽ポップの名曲、久保田早紀「異邦人」と驚きのトリプル・コラボレーション。最近流行のただのカヴァーでもフィーチャリング・ヴォーカルでもない、松本孝弘ならではのこだわりに満ちたこの作品を徹底分析する。
いやはや、B'z結成15周年。だからお祭りだ、というわけなのか、このワーカーホリックな、執念にも似たリリース・ラッシュはなんなんだ。いくらなんでもすご過ぎやしないか。今までもコンスタントに作品をリリースし、ライヴ活動を行ってきたB'zだが、こんなに毎月B'z関連のリリースが重なったのは90年以来くらいじゃないだろうか(あの、B'zがブレイク・スルーしていく時期のリリース・ラッシュも半端じゃなかった)。今、ざっと今年のリリースを振り返ってみると、3月26日のニュー・シングル「IT'S SHOWTIME!!」&旧作シングル10作品一挙12cmマキシ・シングル化に始まり、6月11日の稲葉浩志マキシ・シングル「KI」、7月16日のB'zニュー・シングル「野性のENERGY」、そしてこの松本孝弘プロジェクト「異邦人」8月27日リリースと、特にここ3カ月は毎月リリース作品が目白押しだ。
しかもそれだけではない。B'zファンならご存知のように、TV-CMなどでOAされているけれどまだ発表されていない新曲もこのところかなり多い。この際、それも列挙してみると、B'zの新曲では、NHK BS2「時空冒険記ゼントリックス」テーマ・ソングになっている「CHANGE THE FUTURE」、アサヒスーパードライのCMソングでマンタの映像と共に流れている「WAKE UP, RIGHT NOW」、またスカイパーフェクTV、The Music 272内で現在放送中の「2003 NBA Japan Games」チケット情報TV-CMには「儚いダイヤモンド」という新曲が使用されている。さらに、松本孝弘のソロ作品ではフジテレビ系「感動ファクトリーすぽると!」テーマソングとなっている「RED SUN」、JR東海CMソングでは「MY FAVORITE THING」が流れているといった具合。新しい作品だけでもこれだけの量があるというのに、すでにライヴ・ツアーも始まった。盆、暮れ、正月がいっぺんに来てしまったような怒濤の15周年企画である。
以前、雑誌のインタビューで2人は、おおむね毎年のツアーが終わった頃に、次の1年の構想を練る、というようなことを語っていたが、ということはこの15周年プロジェクトは昨年の“GREEN”ツアー終了後より動き出していたのか? いや、そうでなければこれだけ鮮やかなシフトのリリース&ライヴ・ツアーは組めるわけがない。恐るべし、B'zのモチベーションと創作意欲。浮かれた新人バンドに爪の垢でも煎じて飲ましたいくらいだ。これだけやっていても、彼らの中の自然体の思いがそうさせた、という感覚がどの作品にも滲み出ており、これはまた考えられないくらいにすごい。
というわけで、えらく前置きが長くなったが、本題、この松本孝弘の邦楽ソロ・プロジェクトの説明に入ろう。
1970年代に多感な青春期を過ごした松本と同年代の人物なら(ちょうど今30代後半から40代くらい)、この久保田早紀の「異邦人」と聞いたらそれだけでグッとくるだろう。これは当時の大ヒット曲であり、永遠のスタンダード・ナンバーともいえる作品なのだ。
この選曲だけでも、松本の思い入れが十分伝わってくるが、もともと、この企画は96年の松本のソロ・カヴァー・プロジェクト“ROCK'N ROLL STANDARD CLUB BAND”に遡る。この時、松本は海外の洋楽ロック・アーティストの名曲を完全コピー。松本がルーツに持つ、彼のリスペクト・ギタリストに対するトリビュート・アルバムのような内容だった。その時は、レコーディング・メンバーとライヴも行い、純粋にそういった曲をカヴァーしたのがすごく楽しかったそうだ。そして、その頃からいつか邦楽のアーティストの曲でもやってみようと思っていたらしい。
そうして、実現したのが今回の松本プロジェクト、邦楽アーティスト編だ。現在、公式発表されているこの作品は「異邦人/久保田早紀 (フィーチャリングZARD)1979年作品」、「雨の街を/荒井由美(フィーチャリング松田明子<RUMJET PULLEY>)1973年作品」、「イミテーションゴールド/山口百恵(フィーチャリング倉木麻衣)1977年作品」、「私は風/カルメン・マキ&OZ(フィーチャリング中村由利<GARNET CROW>)1975年作品」の4曲。
選曲は、もちろん松本自身が厳選。1973〜1979年頃のナンバーを中心に、彼が中学生〜高校生の多感な時期に慣れ親しんだナンバーが並んでいる。しかしこの時代、実は日本の音楽シーン的にも非常に歌謡曲とニューミュージックとロックが渾然一体となった現在のJ-POPにつながる音楽の黎明期にあたっていたのだ(現在でも、例えばモンゴル800とアヴリル・ラヴィーンとSMAPが並列で語られるような日本の音楽状況の土壌は、この時代辺りで確立されたと僕はにらんでいる)。TV番組では「ザ・ベストテン」「トップテン」「夜のヒットスタジオ」など音楽番組全盛時代。ありとあらゆる音楽的要素がTVというメディアを通して流れ出していた。そんな時代に育った松本が選んだ楽曲は、確かに現在にも通じるメロディや雰囲気を持った秀曲揃い。興味深いのは、いわゆる当時の歌謡曲ナンバーのセレクト方法。決して当時ヒットした歌謡曲だけでという括りでセレクトしたのではなく、あくまでも『ROCK'N ROLL STANDARD CLUB』の邦楽盤的な要素を持っており、当時松本自身が感銘を受け、今でも記憶に残っている邦楽曲でのセレクトだ。そして、その松本のこだわりがさらに現れたのが、今回のゲスト・ヴォーカリストの選択だ。GIZA studio系のアーティストでフィーチャーした人選は、原曲のイメージありきでヴォーカリストを決定。ちなみに「異邦人」は、初めから「ZARD、坂井泉水さんで」という松本のオーダーがあり、坂井もそれを快諾。松本、坂井共に満足のいく仕上がりになったそうだ。
それともう一つ、松本のカヴァー曲に対するこだわりに、アレンジは原曲に忠実に行うという鉄則がある。彼自身が通ってきた時のままのものを自分なりにやりたいというその思いは、カヴァーするアーティスト、楽曲へのリスペクトと共に、音楽を一生の糧とした男のロマンを感じさせる。
そんな松本孝弘のこだわりが創り出した「異邦人」を聴いてみた。原曲のイントロのオリエンタルなメロディー・ラインをそのまま生かしたギター・ソロ、ハ−ドなB'zサウンドの面影を残しながら、よりメロディアスでエキゾチックな哀愁を漂わせるギター・サウンド。そしてヴォーカル部での坂井泉水の声は、しっかりと「異邦人」のメロディーをトレースし、かつどこを聴いてもZARDの坂井泉水らしさを損なっていない。慈愛に満ち、かつ張りつめたテンションを維持した素晴らしい歌声だ。1979年の名曲のエッセンスが凝縮され、さらにそこにB'zとZARDのサウンドのエッセンスが見事に調和、融合し、新たな生命を吹き込んでいる。にわかには信じ難いが、これは「異邦人」の楽曲ファンにもB'zファンにもZARDファンをも納得させる出来栄えの作品だ。
片やカップリング曲「雨の街を」。こちらは、73年、ユーミンがまだ結婚前、荒井由美と名乗り、感性豊かな天才シンガー・ソングライターとして登場した当時のアルバム『ひこうき雲』に収録されていた幻の名曲。それをRUMJET PULLEY松田明子が歌っている。今度は、松本のギターも全編に渡って控え目に、しかもメランコリックなフレーズを情感豊かに綴っている。松田の瑞々しく繊細なヴォーカルは、まるで70年代のユーミンの再来だ。単なる懐古趣味とは一線を画す現代に生きる名曲として、名演奏が蘇らせた奇跡的な作品と言えるかもしれない。
さて、そんな8月27日リリースの2曲を拝聴しただけでも、この新たなコラボレーションには動揺を隠せない。「えっ、こんないい曲が、こんな豪華な組み合わせで、こんなに新鮮に聴こえるの?」という感じ。まずは、聴いてみて下さい。
この松本プロジェクトの後、いよいよ来月にはB'zオリジナル・アルバムが発売される。来月号では、そのB'zのニュー・アルバムの全貌を明らかにするのでお楽しみに!
(斉田才)
...TAK MATSUMOTO Interview...
●今回の話を聞いて思ったんですけど、ROCK'N ROLL STANDARD CLUB BANDで洋楽のカヴァーを過去にリリースしていますが、邦楽編を作ろうという構想はありましたか。
松本孝弘(以下松本):その時から日本版をやろうとは思っていました。
●それっていうのは、1人のアーティスト・松本孝弘さんとして邦楽の影響が絶対的にあるという事ですよね。
松本:それはすごくありますよ。
●まずシングルが2枚リリースされる訳ですが、今のユーザーがこれをどういう風に受け取るか予想してますか?
松本:予想は付かないよねえ。今のリスナーには原曲を聴いた事がない人達はいっぱいいるからね。
●下手したら大半がそうかもしれないですからね。
松本:それはそれでもいいと思うけどね。いいものはいいんじゃないですか。
●基本的に切ないものが好きですよね。
松本:好きですね。好き。基本的に能天気に明るいのは好きじゃないかもしれない。
●どの曲もマイナー調というか、どこかに泣かせの部分てあると思うんですけど。
松本:それは今もB'zに反映してる所だよね。
●そういうのって知らない内に自分の中にすり込まれてたものなんでしょうかね。
松本:そうですね。やっぱり日本人てそういう所があるんじゃないかなって思うんだけどね。
●ところで収録曲の中で一番新しい曲が久保田早紀さんなんですけど、これが79年なんですね。
松本:もう(70年代)終わりの頃だね。当時は歌謡曲番組ってまだまだいっぱいあったじゃないですか。「ザ・ベストテン」とか、「トップテン」とか、「ベスト30歌謡曲」とかさ(笑)。その中でちょっと他の歌謡曲と違って異色に聴こえたんですよね。
●久保田さんはピアノで弾き語りでやっていらっしゃったような。
松本:いやいや。僕がベスト10番組で見てた時は、レコードの音みたいな感じでやってましたよ。確か、彼女は歌番組の時はバンドがちゃんと付いてた。それも妙に新鮮だったと思うんだよね。歌手って言われてた人達は、いわゆるダン池田とニューブリードとか、フル・バンドが付いててやってて、この人(久保田早紀)達はシンガー・ソングライターと言われていたんだよね。
●ユーミンの「雨の街を」はリアル・タイムでした? リリースされたのは、松本さんが12歳の時ですね。
松本:12歳の時ですか。僕が好きで聴いてたのは19歳の頃。『ひこうき雲』も持ってた。
●高校を卒業されて、ジャズの専門学校に行かれてた時ですね。
松本:そうですね。よく聴いてたのは、そんな頃ですね。だから荒井由実さんは後聴きなんですよ。でも、中学時代に、みんなで溜ってた喫茶店で流れてたけどね。ユーミンの曲ばっかりかかってる喫茶店だったな(笑)。
●曲だけが印象に残ってる感じなんですね。当時はギターがだいぶフィーチャリングされたサウンドがすごく主流な時代だったような気がしますし、自分ではそういう所もあってだいぶ影響を受けたと思われますか?
松本:そうですね。歌謡曲でも何でも自然にギターが入ってるものを選んでたからね。テレビでやってるものでギター・ソロが入ってるものは何でもコピーしてたよね。
●その頃から既に、自分の好きな曲が歌謡曲であろうが洋楽であろうが区別はなかったという事ですよね。
松本:そうですね。きっと音楽が好きだったんだと思う。だって小学生の時、毎週土曜日とかになるとベストテン関係のラジオとかがやってて、その中で好きな曲だけ録音して自分のカセットテープとか作ってたもん。やっぱりすごく好きだったんだろうね。
●僕はカルメン・マキ&OZの曲では、この曲しか知らないんですよ。
松本:ほんとに? 他にもいい曲ありますよ。僕は実際にマキさんのツアーで一緒に廻ってた事があって、「私は風」も一緒にやってた事もあるんですよ。
●歌に関してはしっくりきたものを選んだんですか?
松本:やっぱり歌ものだから、歌が良くないと聴いてても面白くないじゃないですか。だから、実際に参加してくれた方達も、色んなものにトライして、そのアーティストにあってる曲を選びました。
●今回の作品は73年〜79年までなんですよね。どの曲も、オリジナルに忠実という訳じゃないんですけど、パッと聴きの印象が(オリジナル曲と)いっしょに聞こえるんですよ。松本さんの思い入れみたいなものが強いからなのかなって。
松本:そうですよね。アレンジ変えちゃうのって、自分ではなんかちょっとね。昔の曲と全然アレンジ変えてやってる人も沢山いるけど、僕は自分が通ってきた時のままのものを自分なりにやりたいというのがあったから。
●全編に渡って、今回松本さんは楽しんでいらっしゃってますよね。
松本:それは、前の時もそうだし、カヴァー・アルバムって楽しいですよ(笑)。
●こういう言い方をしたらすごく失礼かもしれないんですけど、一人の音楽ファンがスタジオに入って自分の好きな曲をひたすら嬉しそうに演奏しまくってるという姿が目に浮かぶというか。
松本:本当にそういう感じです。しかも、こんなに色んな方が歌って下さって。本当に言う事ないですね。
INTERVIEW & TEXT:鈴木大介(アンダウン編集長)
「アンダウン」vol.67(8月下旬発行予定)より一部抜粋
●配付に関する問い合わせ先:アンダウン編集部(TEL:03-5411-8429)
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