いよいよ真打ち登場! 祝B'z15周年ということで、ここ数ヶ月連続でリリース・ラッシュが続いたB'z関連の新作群。その中で今か今かと待ち望まれていたB'zのニュー・アルバムが遂にリリース! 『BIG MACHINE』と名付けられた13作目のオリジナル・フル・アルバム、全13曲収録の本作についてじっくり掘り下げてみよう。
B'zファンを自認する方なら薄々は気付いていただろう。B'z15周年プロジェクトの中でニュー・アルバム・リリ−スのXデイはいつなのか? 今年3月、ニュー・シングル&過去10作品シングル・マキシ化に始まり、6月の稲葉浩志ソロ・シングル「K I」、7月のB'zニュー・シングル「野性のENERGY」、8月のTAK MATSUMOTO featuring ZARDソロ・シングル「異邦人」リリースと、特にここ3カ月はリリース・ラッシュ。その上、“The Final Plaesure”と名付けられたライヴ・ツアーも開始とあっては、「次はいよいよニュー・アルバムか?」と期待しないわけがないだろう。
もちろん、そういった全国1千万人B'zファンの期待に真っ向から応えるべく、9月17日、いよいよB'z満15周年の秋、13枚目のオリジナル・フル・アルバム『BIG MACHINE』が届けられた。
このニュー・アルバム、色々な部分で思いを巡らせるところがある。まず、リリースが前作アルバム『GREEN』から1年2カ月振りと、比較的短いインターバルになっている。これまではおおむね約1年半程のペースだったのが、ここにきて通常よりも3カ月もリリースが早い!
そのことからも、この15周年目のアルバムにかける2人の意気込みが並々ならぬものであることが伺える。それを裏付けるように、今作収録の楽曲は、松本の弁によるとすでに昨年6月から曲作りを始め、昨年中には20曲程のストックが出来ていたそう。また、曲作りも松本1人でプリプロルームに入ってある程度の形を作り、曲のイメージが固まったところでレコーディングに望むという効率的かつストイックな作業で進行していったという。今回も基本的なレコーディングはロサンゼルスで行われている。ただし、その前に徳永暁人としっかりアレンジを固めた上での渡米だった。そして、稲葉はそれらのオケに対してレコーディング現場で次々と歌詞を書き、歌入れを行っていったという。2人にしてみれば、いつも通りのレコーディング風景だったかもしれないが、15年の流れの中で培ってきたからこそ出来る優れたコンビネーション・プレイだ。他でそう簡単に真似出来るものではないだろう。
収録曲全13曲というのもなかなか多い。もしかして13枚目に引っ掛けてその曲数にしたのか?と勘ぐったが、稲葉によると構成上の理由だそう。そう、その構成も後述するが、なかなか興味深く展開していくのもこのアルバムの特徴だ。
そして、このタイトル『BIG MACHINE』だ。これまた稲葉の弁によると曲のタイトルをそのまま持ってきただけで、それほど深い意味合いがあるものではないと言う。ただ、タイトルが決まったのはごく最近、という説明になっている。だが、これはまるで今や巨大化してしまったB'zの存在そのものを比喩したようなタイトルになっていないだろうか? それでもそのシステムをねじ伏せ、コントロールしていこうという2人の新たなる決意、意思が僕には感じ取れるのだが如何だろう? また、余談ではあるが単語2語からなるアルバム・タイトルは、ここ最近のアルバム・タイトルでは珍しい。今まで簡潔に1語でそのメッセージを伝えてきたタイトルが2語になっただけでその変化を感じとろうとするのは、これもまた、ただのファンの思い込みに過ぎないのだろうか?
続いて、気になるこのアルバムのサウンドの全体像だ。これもまた一聴して誰もが“これぞB'z!”と頷くサウンドに仕上げられている。けれど、前作『GREEN』が、わりとポップでカラフルなB'zサウンドを追及していたのに対し、今作はより妥協を許さないB'z流ハードロック・サウンドの再構築がなされている。特に前半6曲立て続けにくるアップなナンバーの数々は、松本孝弘がルーツを共にしたギター・サウンド&リフへのオマージュが伺える。また、代わってアルバム後半部は、各自がソロ活動で見せたアプローチを再びB'zに持ち込んで昇華したような楽曲、これからのB'zの展開を想像させる楽曲が並んでいる。また、このアルバムの特色を印象づける上で、全編に渡っての外国人ドラマーの起用も見逃せない。デジタルなプログラミングの要素は使えども控えめ、よりラウドな生の感触を伝えるアルバム像。それこそまさに88年結成当初からB'zが唱えてきた「デジタル全盛の中にあって、デジタルで伝えられないものはヒューマンなギターとヴォーカルである」という大命題の証明に他ならない。これはそのポリシーを貫いたアルバムともいえるのではないだろうか。
結成15周年にしてB'zの音楽性の根幹はいささかも揺らいでいない。それでいて“最先端は加速する”。B'zの歴史をルネッサンス(=再構築)へと導くアルバム『BIG MACHINE』。続いては、各楽曲についてもう少し言及していってみよう。
1. アラクレ
アルバムのオープニング・チューンに相応しい勢い十分のハードロック・ナンバー。野太い松本のディストーション・ギター・リフのイントロ、それに覆いかぶさるようにして絡むシェーン・ガラースのドラミングが迫力だ。Aメロではハード・ロックの古典的手法8ビート・リフのギターが復活、その上で気持ち良くシャウティング・スタイルのヴォーカルを響かせる稲葉とのコンビネーションはこれぞB'zロックの真骨頂。勢いに任せて歌われるボヤキ節入った歌詞も相変わらず。爽快な松本のギター・ソロもいい。
2. 野性のENERGY
イントロが軽めなタッチのクリーン・トーンのギター・カッティングで入ったり、歌メロもサビ部分から入るとか、B'zにしては珍しいアプローチがいくつか見られるナンバー。メロディも全体的に爽やかでB'z流“夏を意識したサウンド”といえるか。ストレートな輝きに満ちた歌詞も好感度大。TV朝日ネットワーク・スポーツ2003 テーマソング。
3. WAKE UP, RIGHT NOW
巨大なマンタが大海原を泳いでいるシーンが印象的なアサヒスーパードライのCMソングにもなっているナンバー。いきなりL.Aメタルを彷佛させるようなギター・リフで始まり、Aメロ・ヴォーカル部でのギター・リフと掛け合うような歌い方も新鮮。といったところで、転調してサビ・メロ部分はガラッと爽やかな曲調に変化させるあたり、かなり意表を付く展開。そのメロディに合わせるかのような前向きな稲葉の歌詞も注目に値するフッ切れ方。松本のユニゾンのギター・ソロは職人芸の美しさ。
4. 儚いダイアモンド
松本は今回のアルバムでも作曲は基本的にメロディ先行でそれに後づけでギター・リフを考えていったそうだが、この曲などは、まるで70年代のロック・ミュージシャンのようにギター・リフから作曲していったようなイメージを彷佛させるカッコいいギター・リフが印象的だ。しかもギター・ソロでは超速弾きトリルが登場するなど、この曲の松本のプレイはまさしくハードロック・ギター・ヒーローのそれ。そんなハードなナンバーをボトムで支えるブライアン・ティッシーのドラムのキレの良さ、曲の疾走感を加速させる稲葉のヴォーカルと体育会系の匂い満載の痛快ナンバー。NBAタイアップソング。
5. I'm in Love?
これはまた前述の「野性のENERGY」とは違ったタイプの爽やか系ナンバー。どちらかというと「KOI-GOKORO」や「Blue Sunshine」系に通じるゆったりしたテンポ感が心地よい。こういうちょっと甘酸っぱいメロディに、恋の始まりを告げるときめきを搭載した稲葉の歌詞とのコンビネーションも、実はB'zの歌にとって捨てがたい魅力の一つ。いくつになってもこういうポップなラブ・ソングは作り続けていって欲しいものだ。
6. IT'S SHOWTIME!!
TV ASAHI NETWORK SPORTS 2003のテーマソングとして、もう聴き馴染み深いシングル・ナンバー。制作時から体育会系アスリート達をイメージして作られただけあって、どこを切っても熱血アドレナリン放出値を上げるべく構成された出来栄え。だが、このようにアルバムの中盤に挿入されるとまた聴いた感じもどっしりと、違った魅力が見えてくる。例えばここでは、稲葉の絶妙な言葉ノセ歌詞をつぶさに堪能しつつ、サビ部分での松本の超絶技巧バッキング・ギター・プレイやシェーン・ガラースの強力なドラミング(シングルは打ち込み)にも注意して聴いてみて欲しい。この曲がB'zの次なるスタンダード・ナンバーになるべく運命づけられた曲であることが分かるはず。マストでライヴ体験したい一曲。
7. 愛と憎しみのハジマリ
中盤から後半にかけてのこのアルバムは、ただ勢いだけでない様々なテイスト、そしてB'zのディープな側面を見せた楽曲が登場する。そのきっかけともいえるようなミディアム・ナンバーがこの曲。タイトルといい、不安を掻き立てるようなシンセのイントロといい、何かを暗示させる雰囲気に満ちている。その曲調や社会性を汲み込んだ歌詞の世界観からかつての「BE THERE」のイメージも湧いてくる。サビ部分での切ない明るさを灯すメロディはえもいえぬ哀愁を感じさせて、これが大人の恋?かと思わせる。言葉面は分かりやすい歌詞だけれど、じっくり読み込みながら聴き込むとまた違った魅力が滲み出てきそう。
8. BIG MACHINE
アルバムのタイトル・チューンともなっているナンバー。現時点での最も新しいB'zのヘビーロック・チューンではないかと僕は思う。極上にヘビー&ラウドなギター・サウンド、サビメロでのシャウティング・ヴォーカルは、90年代以降のヘビーロックを受け入れ消化した耳でなければ出し得ないサウンドだ。一口にディストーション・サウンドと言っても、このアルバムで松本はロック50年の歴史が築き上げてきた様々なギター・ヒーローのディストーション・サウンドを惜しげもなく披露している。そんな中での最新ディストーション・サウンドがこの曲では表現されている。B'zサウンドに新たな1ページを付け加える斬新なナンバーだ。
9. Nightbird
9曲目にして初めて登場したバラード・ナンバー。イントロでのピアノに被る松本のジェフ・ベックも真っ青のウーマントーン・ギター・サウンドは聴き逃せない。随所で聴かせる稲葉のファルセット・トーンのヴォイスもヤバいくらいのセクシー度。稲葉が一連のソロ作品で見せた内省的な歌の世界観が、この曲のヴォーカルに上手くフィードバックされてフィットした感じ。それに加えてこの散文的な稲葉の歌詞、じっくりと味わってみて欲しい。
10. ブルージーな朝
このアダルトな雰囲気のナンバーは、B'z15年の系統で分けるとするなら、やはり一連の『FRIENDS』シリーズで聴かせたAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)の流れを汲むナンバーだろう。この曲調に合わせて、しっかりドラマーもこの曲だけクリス・フレイジャーというドラマーだ。「ブルージーな朝」というタイトルからしてお洒落なイメージを喚起しながら、そこは歌詞の中に“フライデー”とかの一語を挿入し、あくまでハズしの線を入れておくのがB'z流。こういう大人なナンバーと若々しいロック・ナンバーの共存が計れているのが最近のB'zアルバムの特徴か。その音楽性の振り幅の広さも、B'zのオリジナル・アルバムを聴く楽しみの一つと言えるのかも。
11. 眩しいサイン
この曲は、例えば「B'zを聴き始めたあの頃は眩しかったなぁ」なんて今はもう???と考えている人たちに聴いて欲しい。いつの間にやら15年、でもなんだかあの頃のB'z初期の懐かしい、いい感じのメロディやギター・リフがこの曲にはたっぷり注入されて息づいている。シンプルな演奏、シンプルなメロディ、ストレートな歌詞、抑制された色気のあるヴォーカル。聴き馴染みのあるB'zメロディの王道ナンバーかもしれないけれど、意外とこんな感じの曲がすごく心に残ったりするものだ。松本ファンなら往年のギター・サウンドが響くギター・ソロにも注目したい。
12. CHANGE THE FUTURE
このアルバム中、最もドラマティックな香りのするナンバーといったらこの曲だろう。過去にも「The Wild Wind」や「Everlasting」といった劇的ナンバーはあったけれど、この曲もそれらに勝るとも劣らぬ重量感を湛えて刺激的だ。そのタイトルに相応しく、聴いているだけで、なんだか未来を変えられそうな気力が満ちてくる。多分、この曲でまた勇気が湧いて救われる人も多いだろう。NHK BS2アニメ「時空冒険記ゼントリックス」テーマソング。
13. ROOTS
ドラマチックな曲の後にクールダウンさせてホッとするラスト・ナンバーが隠されていた。肩の力の抜けたヴォーカルを聴かせる稲葉とゆったりとしたミディアム・テンポでアルペジオをつま弾く松本。派手さはないけれど、この曲の持っている平和な感触には、捨てがたい魅力がある。また、歌詞に“僕ら”という複数形表現が出てきたのは珍しい。これは、きっとこのアルバムを聴いている“僕ら”の意味も指すのだろう、と深読みしながらアルバム・ラストの余韻に浸るのも悪くないだろう。
以上、B'zの最新アルバム『BIG MACHINE』について語ってみた。いつもながらにB'zらしいオリジナリティに満ち、相変わらず絶妙のバランスで聴き手を裏切る部分と満足させる部分を併せ持った作品である。
本人達が望むと望まざるとに関わらず、これだけ巨大になり、彼らの音楽活動の一挙手一投足が日本の音楽シーンに影響を与えるようになってしまったB'z。そんな“BIG MACHINE”を操り続ける体力もスキルも並大抵のものではないだろう。それでも彼らは昇り続ける。まだまだ真摯な“音楽人”としての姿勢を保ち続けながら……。
時代は変わり、15年という歳月もまた通り過ぎていく。そんな中にあって変わらない優れたメロディと歌を作り続けるB'z。それはまさしく“正義”の所業に違いない。
このアルバムの“正しき重さ”については、10年後にもう一度検証してみたい。(斉田才)
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