TAK MATSUMOTO

Solo Project Cover Album
『THE HIT PARADE』

11.26Release!




TAK MATSUMOTOのソロ・プロジェクトは2枚のシングルだけでは収まりきらなかった。今度は、なんとフル・アルバムでの登場! TAKが感銘を受けた邦楽の名曲をカヴァー収録したアルバム『THE HIT PARADE』がいよいよ11月26日にリリース。全17曲収録のその豪華な内容について探ってみた。

 10月8日にリリースされたTAK MATSUMOTO featuring 倉木麻衣の「イミテイション・ゴールド」は、オリコン・シングル・チャート初登場1位、その前に発表されていたTAK MATSUMOTO featuring ZARDも20万枚を越えるヒットを記録し、未だにロング・セラー続行中と、今やB'zファンのみならず幅広いリスナー層に向けて訴求している今回のTAKプロジェクト作品。もともとは、TAKの音楽的ルーツの一つである70年代JーPOPへのオマージュという形で始まったものが、予想以上に数多くのリスナーの耳を捉えて離さなかったようだ。
 そんな松本孝弘=TAKのソロ・プロジェクト作品、ZARD、倉木麻衣とそうそうたる女性アーティストをフィーチャーしてきたが、実はそれだけではなかった。なんと、このプロジェクトは奥深く、フル・アルバムとしてリリース出来るほどにレコーディング作業は進んでいたのだ。それが11月26日にリリースされる『THE HIT PARADE』と名付けられた全17曲収録のアルバムだ。
 そのタイトルに偽りなく、このアルバムに収録されたナンバーの数々は1970年代〜80年代初期を象徴するヒット・ソングの名曲揃い。しかも、すでにシングル化された久保田早紀、山口百恵などのカヴァーで予想が付くとはいえ、今度は沢田研二、キャンディーズ、中森明菜はもとより、ニュー・ミュージック系では山下達郎や尾崎亜美のナンバーが、ロック系ではクリエイションや外道までが並ぶという輪をかけてヴァラエティ豊かな内容。そのすべてのジャンルをまんべんなく吸収してきたギター・キッズ、TAKもすごいが、確かにあの頃ってそんな時代だった。TAKの言うように洋楽も邦楽も関係なく、ロックもフォークも歌謡曲も垣根なくお構いなしに耳に入って収まりが付く、そんな音楽シーンが存在していたのだ。

 懐古趣味でこのアルバムを聴くのももちろん大正解だと僕は思うけれど、もっと突っ込んで新鮮なコラボレーションの全く新しい作品として捉えても興味深い。特にTAKはこのレコーディングに当たり、作品毎にわざわざその作品のイメージに合うであろうヴォーカリストに依頼。1996年に感銘を受けた洋楽曲をカヴァー収録したアルバム『ROCK'N ROLL STANDARD CLUB』と同様に、TAKが楽しんで収録した一面が見受けられる作品集でありながら、ある一線では妥協を許さないTAKのプロ根性がこの作品をして、そんじょそこいらのカヴァー集ではない作品たらしめている。それでは、さっそくその収録曲17曲を一挙に紹介してみよう。



1. 勝手にしやがれ(沢田研二) featuring 稲葉浩志
 なんと、オープニングからやってくれたのは、沢田研二77年の大ヒット曲をB'zのヴォーカル稲葉浩志がカヴァー。沢田研二といえば70年代、ジュリーの愛称で、毎回「ザ・ベストテン」などの歌番組の常連。その妖艶なコスチュームとメイクで「日本のデビッド・ボウイ」とも形容されていた大ヒット・メーカー。稲葉のヴォーカルも心なしか歌謡曲チックなヴォーカル・スタイルを披露している。けれど、このベタなメロディを下世話になる直前でB'z直系のサウンドにもっていくあたり、松本&稲葉コンビのすごさはさすがに侮れない。現在この曲は、TVドラマ「あなたの隣に誰かいる」でも流れているが、僕はこれを聴くと、つい70年代の「太陽にほえろ」という刑事ドラマのシーンを連想してしまう。皆さんはいかがだろう?

2. 異邦人(久保田早紀)featuring ZARD
 TAK MATSUMOTOソロ・プロジェクトの存在を一躍世に知らしめた第一弾シングル。久保田早紀を知らなくてもこの曲は聴いたことがある人が多数の永遠のスタンダード・ナンバーは79年にリリースされ、デビュー曲にしていきなりのミリオン・セラー。印象的な中近東風のイントロをギターで豪快に引き倒したTAKの力量とZARD坂井泉水の気合いが入ったピュア・ヴォイスとの絶妙なコラボレーションがこの曲をただのカヴァーでなくそれ以上のオリジナリティ溢れる作品にリニューアル。それにしてもこの曲のあらゆるメロディって今聴いてもものすごく斬新。

3. 涙の太陽(エミー・ジャクソン、安西マリア)featuring 愛内里菜
 オリジナルは65年のエミー・ジャクソン。それを73年に安西マリアがカヴァーしたヴァージョンをTAKは聴いて衝撃を受けたらしい。60'sの匂い溢れる和製洋楽ナンバーをTAKは大胆にハード・ロック風にアレンジ。オープニングのトリル奏法といい、中盤のテケテケギターといい、随所にギタリストの遊び心を盛り込んだところがニクイ。それをこれまた日本人離れした歌唱力で定評がある愛内里菜が歌っているのだから、この曲にこのコンビネーションは最強だ。古新しいこのナンバー、愛内里菜も自身のライヴで早速披露していたそうだ。

4.その気にさせないで(キャンディーズ) featuring 三枝夕夏・ 北原愛子・高岡亜衣
 キャンディーズといえば70年代に青春を送った人にとっては忘れられない実力派アイドルの大定番。最近ではNHKの連続ドラマに出演している伊藤蘭さんを女優として見ている人も多いかもしれないが、実は彼女、元々キャンディーズの一員です。それはさておき、アイドルと言っても当時からそのコーラス・ワークで定評のあった彼女達のヒット曲を歌うのは三枝夕夏・北原愛子・高岡亜衣(新人)の3人娘。この3人が、キャンディーズ・コーラスを見事に忠実に再現。というか、この歌声の愛くるしさはオリジナルに肉薄する魅力たっぷり。加えてディスコ風のリズムとハードロック・ギターで味付けしたサウンドはあくまで現代的。このヴァージョンは、キャンディーズを知る者にとっては衝撃的な朗報である。

5.イミテイション・ゴールド(山口百恵) featuring 倉木麻衣
 今もなお伝説的な人気を誇る70年代歌謡界アイドルの最高峰、山口百恵。77年のこの「イミテイション・ゴールド」は阿木耀子&宇崎竜童コンビのナンバーとしても話題を呼び、当時で50万枚を記録した大ヒット作。憂いを秘めた暗さが山口百恵オリジナルの魅力だったけれど、これを現代の歌姫、倉木麻衣がカヴァーすると、その暗さが幾分ソフィティスケートされて聴き当たりは滑らかに変化。逆にTAKのディストーション・ギターのサウンドがオリジナルより迫力ある分、その対比が新鮮だ。ただ、どちらにも共通して言えるのは、やっぱりこの歌と演奏には、山口百恵オリジナルへのリスペクトがたっぷり詰まってるということ。まさにトリビュート。

6.港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ (ダウンタウン・ブギウギ・バンド)TAK MATSUMOTO
 70年代のダウンタウン・ブギウギ・バンド、80年代の横浜銀蝿、そして現代の気志團?といえばツッパリと呼ばれる連中にとっては忘れられない存在。白のツナギ姿で登場した宇崎竜童率いるダウンタウン・ブギウギ・バンドはこの曲の“あんた あの娘の何んなのさ”という名フレーズで一世を風靡。今、聴くと語り口調のこの曲は和製ラップの先駆けとも言えるナンバーかも? そんな75年の大ヒット曲をTAK自身がなんとカヴァー。アルバムの中でも異色の意欲作。

7. 雨の街を(荒井由実) featuring 松田明子
 ダウンタウン・ブギウギ・バンドの選曲がTAKのお茶目な一面をのぞかせているとするなら、この「雨の街を」はTAKのロマンチストとしての一面をストレートに表現した1曲。ここでは松田明子の起用で松任谷由実になる以前の天才少女、荒井由美のナンバーを繊細に表現。ギターも控えめなアレンジの中にTAKの70年代の切ない思い出がたっぷり詰まっているようだ。

8. Paper Doll(山下達郎)featuring Fayray
 この選曲もまたTAKが少年時代から様々なジャンルの楽曲をどん欲に吸収していたことを伺わせる。山下達郎の比較的マニアックなヒット曲、そしてカヴァー曲のヴォーカリストにはFayrayとちょっと意外な取り合わせの印象も受けるが、どっこいこのアーバン・リゾートなAORの感触は、逆に今こそ新鮮な感触を僕らに届けてくれる。Fayrayのヴォーカルの表現力の深さ、TAKのカッティング・ギターのルーツを感じさせて、アルバム中でも貴重な1曲。

9. 「いちご白書」をもう一度(バンバン)featuring 菅崎茜
 荒井由実作詞・作曲の75年の大ヒット曲は、そういえばB'zの初期ライヴでも演奏されたことのあるナンバー。こういったマイナーメロディ・ナンバーはやはりTAKのメロディ・メーカーのルーツ的資質として押さえておかなければならない。原曲は男性デュオのヴォーカルだが、ここでは若干14才の女性ヴォーカル、菅崎茜が担当。菅崎の切ない歌声と70年代の切ないメロディのカップリングは、かなり涙腺に訴えかけてくる。その上にTAKの泣き節ギターとくればもうメロメロだ。

10. Foggy Night(尾崎亜美)featuring 滴草由実
 これは82年の作品。ディスコ調のリズムにAORの香りを乗せたこのナンバーがリリースされた頃は、TAKもすでにプロ・ギタリストになるべく明確な目標を持っていた時代では? ここでは単なる曲が好き、というよりは楽曲の構成や演奏力などにも惹かれていったのだろう。どちらかというとこの選曲、TAKのマニアックな音楽性の一面を知る上で興味深い。そして、こういう曲調のナンバーに本格派R&Bヴォーカリストの新星、滴草由実を起用するあたり、絶妙である。滴草の野太く伸びるヴォーカルは、まさにあのディスコ時代全盛のロマンを思い起こさせてあまりある。

11. 少女A(中森明菜)featuring 上原あずみ
 松田聖子と並び、80年代歌謡界を背負っていた中森明菜、ブレイクのきっかけを作った82年の2ndシングル「少女A」。当時からロック・テイストのギター・サウンドが印象的だったこの曲を今回カヴァーで歌っているのは上原あずみ。ちょっとハスに構えた少女を演じたこの曲に上原のキャラクターはよく似合う。TAKのギター・プレイも若々しい躍動感にあふれていて、この曲への愛着度が伺える。

12. ビュン・ビュン(外道) featuring 川島だりあ
 これはまたアップ・トゥ・デイトな選曲というのだろうか。現在21年振りのアルバムもリリースし、にわかに再び脚光を浴びている外道。彼らの74年のシングル・カット曲「ビュン・ビュン」はいかにも暴走族にも支持された外道らしいロック・ナンバー。ゴリ押しリフのこのナンバーを引き立てるヴォーカリストは元FEEL SO BADの川島だりあ。ドスの効いた歌詞でも彼女が歌うとサマになってしまうから面白い。TAKのハード・ロッカーとしてのルーツを伺わせる選曲だ。

13. パープルタウン“You Oughta Know By Now” 〜“パープルタウン”(八神純子) featuring 竹井詩織里
 代わっては、この人も70年代後半〜80年代前半にヒット曲を連発し続けた八神純子。「パープルタウン」は80年リリースの彼女の代表曲。そのナンバーを原曲のイメージを損なわずに丁寧にかつ現代風にアレンジしたTAKの手腕は言わずもがなだが、八神純子の歌声を若々しく蘇らせたかのような新人、竹井詩織里の歌声の魅力も捨てがたい。今どき、あの頃のニュー・ミュージックの魅力を再認識できる良曲だ。

14. 時に愛は(オフコース) featuring 宇徳敬子
 現在ソロとして活動を続ける小田和正が80年代に一時代を築いたバンド、オフコース。彼らの情緒的かつモダンさを兼ね備えた80年リリースのこの曲も、ある時代のリスナーにとっては心の琴線を揺さぶられずにはいられないだろう。ここでのヴォーカルは、オリジナルの女性的なハイトーンの小田和正調ではなく、逆に宇徳敬子の落ち着いた女性ヴォーカルでじっくり聴かせている。TAKのメロウなギター・プレイにたっぷり酔いしれるのもいい感じ。

15. SPINNING TOE-HOLD(クリエイション) TAK MATSUMOTO
 日本のロック・シーンにとって忘れられないギタリスト、竹田和夫。その竹田和夫率いるクリエイション77年の代表曲。ジェフ・ベックばりのギター・インストゥルメンタル・ナンバーをTAKは揚々とプレイしている。洋楽のみならず邦楽アーティストにも影響を受けたというTAKの懐の深さを見せる選曲。本当に70年代のTAKはこういう楽曲を必死でコピーしていた根っからのギター・キッズだったんだろうな。

16. 一人〜I Stand Alone〜(井上堯之) featuring Jeffrey Qwest
 この井上堯之も70年代の日本のロック・シーンにとって忘れられないギタリスト&ヴォーカリスト。というよりもその頃少年だった世代には「傷だらけの天使」「太陽にほえろ」他一連の刑事TVドラマで彼の曲が使用されていたことで耳馴染深いアーティストだろう。この「かずと」と読むナンバーは「傷だらけの天使」の最終回で使われていたナンバーだそうだが、枯れた味わいのあるブルージーなナンバーを、なんと倉木麻衣のサポート・バンドEXPERIENCEのギター&ヴォーカル、ジェフリー・クエストをフィーチャーしてカヴァー。ジェフリーが歌う日本語ヴォーカルが渋い。一聴の価値あり。

17. 私は風(カルメンマキ&OZ) featuring 中村由利
 アルバム・ラストを飾るのは70年代JーROCKを語る上で欠かせないバンド、カルメンマキ&OZの名曲「私は風」。TAKは80年代初頭、キーボードの増田隆宣等と幻のプログレッシヴ・ロック・バンドを結成していたそうだが、このカルメンマキのハード&プログレッシヴなナンバーを選ぶあたり、ロック・アーティストTAK MATSUMOTOの神髄を伺わせる。また、実際TAKはカルメンマキと共にこの楽曲を演奏していたことがあるそうだから、この楽曲に対する思い入れのほども察しがつく。そして、この複雑な構成のナンバーを歌いこなしたのはGARNET CROWのヴォーカリスト中村由利。ここでの中村のヴォーカルはオリジナルに勝るとも劣らぬ会心の出来。70年代ロックの醍醐味を存分に感じさせている。ロック・ファンならこれは聴くべきだろう。



以上、全17曲トータル・タイムにして67分に及ぶこのアルバム『THE HIT PARADE』。TAKの音楽的ルーツを見せるだけでなく、ここには70年代〜80年代初頭の日本の音楽シーンの縮図が凝縮されている。豪華な演奏と思いもかけない客演、そして原曲の魅力を最大限生かしたアレンジ。ヴァラエティに富みボリューム感いっぱいのこのアルバムは、まるでグランド・シェフのフルコースを味わっているかのようだ。心して堪能して欲しい。(斉田才)


TAK MATSUMOTO

Solo Project Cover Album
『THE HIT PARADE』

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