世の中を眺めてみれば、21世紀に入ってからヤな事ってそこら中で続いてる。アメリカの9.11同時多発テロに始まり、イラク戦争だ、狂牛病だ、鳥ウイルスだ、地球温暖化だ、児童虐待だ、殺人だ、強盗だ……数え上げたらキリがないくらい悲惨な出来事や気分が滅入る事ってほんとこの星ではたくさん起こってる。
ここ日本にしたってろくでもない事は山積み。そんな事柄の数々に嘆いてみたり深刻ぶってみるのもいいけれど……そんなひどい時代だからこそ僕らが必要としているのは明るく希望が持てる歌だって思わない? いつだって暗い時代には生真面目なアーティスト達はそれをまっすぐ批判したり糾弾したりしてきた。けれど、そんなんだけじゃ現代は何も変わらないくらいヒドくなってるのを僕らは肌で感じてる。だからこそネガティヴな風潮に逆らおう。僕らは腕を上げて歓喜の歌を響かせよう。それこそが世界の悲劇に対する最大で最高のレジスタンスになるはずなのだ。
などと冒頭から熱くなってしまったのも、10ヶ月振り36枚目のB'zのシングル曲「BANZAI」を聴いてしまったからだ。なにせ、タイトルがその名も「BANZAI」! 日本人の心を揺さぶる最高にポジティヴな言葉だ。しかもこの元気いっぱい爽快なギター・リフで始まるドンピシャに前向きなサウンドを聴いたなら、この曲が近年のB'zのアスリート・ソング、「ultra soul」→「GOLD」→「IT'S SHOWTIME!!」→「野性のENERGY」の延長線上に続くB'zナンバーだと思わずにはいられない。その上、サビ終わり後には「ダン、ダン、ダダダッ、ダダダダッ、ダン、ダン」と刻むリズム・ブレイクがある箇所も、すっかりこの曲がスタジアム・ライヴ仕様の曲である事が伺える。まさしくB'zの王道を貫くナンバーの登場だ。
しかし、その麗しき黄金のメロディ、豪快なサウンドの底にそれだけじゃないこだわりを今回は感じないだろうか? それはもちろん稲葉浩志の歌詞に拠るところが大きいのだが、“遠くの未来に怯えてるよりも 手を抜かず愛したことを誇ろう”“乱暴にまわってるこの星で 生き延びてる”“地雷のように埋められてる”など、いかにも啓示的な表現が現実の何かを感じさせずにいられない。かといって、そんなネガティヴな表現に踏み止まる事なく彼はこう言い切る。“アナタトワタシデサア アシタノタメニ BANZAI”“テキモミカタモナイゾ カガヤクイマニ BANZAI”そして、最後の歌詞の一節は覚悟を決めたように“薄暗い明日になだれ込みましょう”だ。これら言葉に秘められたアーティストの決意表明、メッセージを今作で、私はビシビシと感じてしまったのだ。
以前も例えば「BE THERE」(90年)「Liar! Liar!」(97年)といった作品で社会性の扉を叩いてはいたけれど、そこはまだ稲葉自身の中で完結していた節があった。けれど、今回は違う。ここには達観した正義の意思がある。誰に何と言われようと惑わされない言葉が踊っている。「感謝」「歓喜」「幸運」、ここまで肯定したストレートな言葉をぶつけても歌詞の意味が揺るがず、焦点がボヤけない。それは、人生に腹をくくった人間が選び抜いた言葉だからだ。だから、説得力が違う。
このシングル曲を聴いたら、表面上B'zは変わってないように見えるかもしれない。いやいや、それでもB'zは変わり続けているのだ。15年が16年になっても20年になっても……。B'zが絶えずやり続けられるのは、自分たちに対しても周囲の称賛に対しても、決して満足せずにどこか抵抗したりもがいたりしている部分があるからだ。そして、そうある事で生まれたありったけのポジティヴさを持った意志が、世界の暗さを笑い飛ばす力を持つ。そんな事実を今作は提示している。これこそ、21世紀最高峰のプロテスタント・ソングだ。
暴力じゃ世界は救えない。B'zの曲で僕らはまたシアワセニナロウ。(斉田才)
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