噂のスーパーバンド、TMG、いよいよアルバム・リリース、そして全国ツアーへ。
結成16年目を迎えるB'z。今年は松本孝弘、稲葉浩志共に各自ソロ活動に重点を置いているわけだが、ギターの松本孝弘が結成したのがこのTMGである。シングル「OH JAPAN 〜OUR TIME IS NOW〜」を経て、遂にアルバムが完成し、6月23日にリリースされる。そのバンド・サウンドは、シングルを聴いていた時の予想をはるかに上回る、結束の強いグルーヴが詰め込まれた完成度の高いアルバムとなっている。単純にどのメンバーも「いい仕事してまっせ」なんていうレベルをはるかに越えて生き生きとプレイし、そのあり余る実力をTMGというバンドに貢献しているのだ。これは、明らかに昨年のTAKのソロ活動とは一線を画するプロジェクトであり、アルバム『TMG I』は、ワールドワイドでパーマネントな構想の上に立ったスーパー・グループ登場を裏付ける作品なのだ。
では、作品の説明に入る前にもう一度、TMGのバンド・メンバーを紹介しておこう。まず、TMGの発起人であり、中心人物、ギターと作曲を担当するTAKこと松本孝弘は日本が誇るスーパー・ギタリストである。ヴォーカルのエリック・マーティンは日本でも大人気だったMR. BIGのフロントマンであり、91年には「To Be With You」で全米No.1を獲得している実力派ヴォーカリスト。ベース&ヴォーカルのジャック・ブレイズは、80年代最も成功したハードロック・バンド、NIGHT RANGERに在籍、「シスター・クリスチャン」で全米No.1獲得、90年代にはスーパー・アメリカンバンドDAMN YANKEESの一員として活躍したハードロック界歴戦の勇士。この3人をメインにドラマーには、PRIDE&GRORY、Slash's Snakepit、COLOR CODEとパワードラム一直線のブライアン・ティッシーが加わっている。さらに、アルバムにはレニー・クラヴィッツとの共演で名を馳せた女性ドラマー、シンディ・ブラックマンも参加し、サウンドに彩りを添えている。そして、この夏の単独JAPAN TOURには、ドラマーとしてスティーブ・ヴァイなどの作品でハイレベルなドラミングを聴かせるクリス・フレイジャーの参入が決まっている。と、これが今回のTMGプロジェクトに関わるミュージシャンの全貌だ。誰もがNo.1経験をもつ敏腕ミュージシャンだけに、そのキャリアだけでも圧倒されてしまう。
だが、実際にアルバム『TMG I』の本質は、さらに予想を上回るものだった。
アルバムには先行シングル「OH JAPAN 〜OUR TIME IS NOW〜」からの2曲を含む全14曲を収録。そのボリュームも相当だが、まず一聴して感じられるのは、全体を貫く正統的HR/HM(ハードロック/ヘヴィ・メタル)サウンドの醍醐味だ。70年代ハードロックをベースに、80年代LAメタルのきらびやかさと重厚さを兼ね備え、90年代以降のラウドロック系にまで通じる激ロックの流れを包括したアプローチの数々は、栄光のハードロック・バンドの歴史の再現そのもの。
刺激と深さを秘めたロックの味わいは、音楽的ルーツを共にし、またプロ・ミュージシャンとしてその音楽を極めた者のみが導き出せる才能。そこには人種も国籍も性別の壁すら存在しない事を僕らは肌で感じ取る事ができる。
さらに歌詞に目を転じてみよう。今回TMGのリリックは、エリックとジャックを中心に書かれている(もちろん全て英語詞)が、ここはぜひ歌詞の内容も吟味しながら聴き進めて行って欲しい。すると、このアルバムの魅力がさらにアップする事は間違いなし。そこには音楽シーンの浮き沈みを経験した男達の浪漫があり哀愁があり、夢と希望がある。
さぁ、それでは、もう少し各楽曲について触れていってみよう。
1.OH JAPAN 〜OUR TIME IS NOW〜
アルバムはまず、先行シングルとなったこの曲で幕を開ける。“和”な感じのイントロに導かれてスクラッチやラップの要素まで巻き込みながらパワー感溢れるロックへ飛翔していくサウンドの迫力は、これから始まる『TMG I』の世界へのオープニング・トラックに相応しい。TAKのギター・プレイ、エリックのヴォーカル、ジャックのベース、ブライアンのドラムが渾然一体となったバンド・サウンドの素晴らしさは、まさに圧巻。エリックとジャックのペンによるリリックも、率直にこの日出づる国から再び頂点を目指そうとする心境や日本に対するシンパシーが込められていて興味深い。
2.Everything Passes Away
この曲もまた何かの始まりをイメージさせる不穏なサウンドから、劇的に変化するオープニングに心躍らされる1曲。続いてやって来るヘッドバンキングOKのゴリゴリのリフ、さらに続く重厚なメロディ、そして歌えるサビメロと、TAKの作曲家としての才能が詰めこまれた1曲だ。「何もかもは過ぎ去っていく〜」とある種達観した心境を歌ったナンバーであるが、その過ぎ去った月日が磨いたハードロック・サウンドの本質がこの曲には宿っている。
3.KINGS FOR A DAY
この曲の8ビートのリフで押しまくるギター・サウンドは、メタル・キッズ永遠のアンセム・サウンド。その上でフリーキーに歌われるヴォーカル、ちょっと湿った感じのメロディ・ラインもハードロックの王道だ。ある種懐古的なサウンドにのせて、ロックスターの危うさを歌ったこのナンバー、この感じを現代に蘇らせて聴かせられるのはTMGをおいて他にはない。
4.I Know You by Heart
打ち込みを導入しつつセンチメンタルなメロディ、そして変拍子となかなかに実験的でモダンなラウドロック。そしてそこで歌われるシニカルなラヴ・ソング。ライヴではサビ部分を合唱しよう。
5.I wish you were here
ピンク・フロイドに同名のナンバーがあったが、こちらは曲調も内容もまったく異なる生粋のパーティー・ナンバー。80年代全米を席巻したLAメタルの輝かしき栄光を現代に伝えるにはもってこい。
6.THE GREATEST SHOW ON EARTH
この勢いのあるナンバーは、そのタイトルの通りライヴでマストで体験したい。ボトムに響くリズム隊といい、ブレイク・ポイントのギターの切れ味といい、盛り上がる事間違いなし。さらに三味線のような“和”アレンジのサウンドが入っているのがTAKらしい。
7.Signs of Life
中近東風なギター・フレーズが印象的な、アルバム中でも異色なイメージを持ったナンバー。ロバート・プラントが聴いたら手放しで絶賛しそうだ。ジャックのペンによるリリックは、君の人生のサインはどこにあるんだい?と疑問を投げ掛けながら希望を持てよ、とつなげるところに彼の人柄が現れていて、いい感じ。
8.RED, WHITE AND BULLET BLUES
重厚なギター・リフと軽いブルージーなタッチのギター・プレイの共存が新鮮なハードロック・ナンバー。こういうブルージーなナンバーでのエリックのヴォーカルはまさに水を得た魚。エリックのリリックもバッド・ボーイ・ロック調のフリーキーさが出ていて、彼の個性を存分に引き出している。
9.TRAPPED
シングル「OH JAPAN 〜OUR TIME IS NOW〜」のカップリングとして収録されていたナンバー。やはり、まずはイントロのエリックの雄叫び一発でゾクゾクする。そしてこの曲もまたTMGの決意宣言とも取れる、ひたすら前向きなハード・サウンドと共に、エリックとジャックによる痛恨のリリックが泣ける。TMGのバンドとしてのケミカルをマジ体感できる必聴の1曲。
10.My Alibi
アルバム中でも異色の跳ねたグルーヴ感、それを叩き出しているのは女性ドラマー、シンディ・ブラックマン。TAKもこの曲ではリフで押すのではなく、流麗なカッティング・ギターを全編にわたって響かせている。B'zでもこういったギター・プレイは何度も聴いてきたが、TMGというバンドでメンバーが変わると、その響きの雰囲気もこんなに変化して聴こえるものかと驚かされる。アルバム中TMGの音楽的ポテンシャルの幅広さを最も感じさせる1曲だ。
11.WONDERLAND
こちらはアメリカンR&Rフィーリング溢れる1曲。TAKはジャックが在籍していたダム・ヤンキーズもお気に入りだったから、ああいったワイルドなフィーリングを意識的に取り入れてみたのかも? サウンドの軽快感はアルバム随一、その上リリックもストレートでスウィート。
12.TRAIN, TRAIN
70年代初期のロック・サウンド(例えばフリーのような)を彷佛させる、粘っこいギター・リフで畳みかけるように演奏するスタイルが珍しい。こういうサウンドの重みはキャリアを積んだメンバーでなければ出せないいぶし銀の輝きを持っていて貴重。スロー・ライフな今だからこそ必要とされるサウンドは、実はこんなタイプの楽曲なのかも?
13.Two of a Kind
なんてロマンチックな曲! アルバム中、唯一のバラードはブルージーな枯れた味わいの中に切々とした男心が綴られた珠玉のナンバー。情感たっぷりに歌い上げるエリックのヴォーカル、それを優しく包み込むTAKのギター、小野塚晃のオルガンがいい味を醸し出す。“Two of a Kind=一心同体”なんてフレーズが作り出せるジャックは根っからの詩人だ。色気溢れる1曲。
14.NEVER GOODーBYE
ラストはいきなりテクノのような打ち込みサウンドから、80年代のEUROPEのような美メロ、そしてヘビー・ロックへと向かう。この曲はTMG流北欧メタルへの回答か。様々なメロディを交錯させながら、徐々にラストに向かってドラマティックに盛り上がっていく様は壮観。最後のLa La La〜は、やはりライヴ会場では大合唱だろう。まさにNEVER GOODーBYE、これだけでTMGの旅は終わりを迎えるわけではなさそうだ。
以上、1stアルバムにして全14曲トータル1時間弱に及ぶボリュームの重量級アルバム『TMG I』。実際、これは各々のメンバーの力量が遺憾なく発揮された傑作だ。キャリアに裏付けされた確かな実力、バンドで音楽を作り上げていくそのクリエイティビティ、そして、何よりも音楽を愛するミュージシャン魂、それらの要素が渾然一体となって鳴らされたTMGの音楽。それは、B'zでもMR. BIGでもNIGHT RANGERでもない、真にオリジナリティ溢れる2004年の現代に生きる新しいHR/HMサウンドだった。
僕は、このアルバムが日本から生まれた事は世界に誇れる出来事だと思う。そして、何よりも素晴らしいメンバーを集め、B'zとはまた一味違ったメロディ・メイカーとしての才能を発揮したTAKの飽く事なき音楽への探求心、その意欲は素晴らしい。
最後に、さらに日本のファンにとって嬉しい事に、TMGは作品のみならずライヴでもその雄姿を見せてくれる事が決定している。7月30日〜9月7日まで続く全国8ケ所17公演のライヴ・ツアー、TMG LIVE「Dodge The Bullet」がいよいよ開始されるのだ。
すでにチケットはソールド・アウト続出の状況でかなり入手困難になっているようだが、何としてでも手に入れて見て欲しい、そんな価値あるステージとなるであろう。
HR/HM界の歴戦の勇士達がTMGというバンドで一堂に会し、完成したばかりのオリジナルを披露する、その姿は想像しただけでもワクワクする。
もちろん、この僕もmusic freak magazineもこれから始まるTMGのライヴ・パフォーマンスを見逃すわけにはいかない。
まだまだTMGの動向、これからも本誌は追いかけていく。続報を期待して待っていて欲しい。(斉田 才)
|