もう5年前になるだろうか? 本誌とThe MUSIC 272との連動企画で、“リスナーに支持され続けるZARDの魅力”という特集を行った事がある。当時発表された『永遠』というアルバムを通して浮かび上がってきたZARDの魅力を、『1.ヴォーカル坂井泉水の描く歌詞の魅力』『2.進化し続けるサウンド・アプローチ』『3.坂井泉水の歌声の魅力』『4.いちアーティストとしての坂井泉水の魅力』という4つの項目に分け、検証したものだった。あれから5年の歳月が経った今、その魅力が当時から全く色褪せる事なくむしろより深まっている事を、現在行われている初のライヴ・ツアー、そして今月リリースされる新作により実感させられた。
3月2日大阪フェスティバルホールからスタートしたZARD初のライヴ・ツアー『What a beautiful moment Tour』は当初、3本の予定だったものが好評を博し全11本に急遽本数を増やし現在も続行中。プレミア・チケットとなったこのライヴを幸運にも見る事が出来た人は全員、彼女の声量の大きさ、豊かな表現力を伴った歌唱力の高さに改めて驚かされた事だろう。私自身大変失礼かもしれないが、予想以上のヴォーカリストとしての力量の高さに圧倒されっぱなしだった。5年前の特集で私はその歌声の魅力を「不思議と心が和む魔法の響き」と表現している。まさに心が癒される温かな艶のある歌声はライヴでも健在で、なおかつ生の歌声は大変力強く説得力のあるものでもあった。
「大勢の皆さんが来て下さった事に感謝。そして音作りやテンポ感など今後の楽曲制作に於いても、とても良い影響を与えてもらいました」
との言葉通り、本人にとってもライヴは大きな収穫となっているようだ。そんな収穫の1つと言っても良いのだろうか、
「ライヴ終了後の帰り道、移動の車の中で感じた事を中心に書きました」
という新作「かけがえのないもの」が届けられた。
今作はピアノ中心の穏やかなサウンドから、次第にバンド・サウンドへとドラマティックな盛り上がりを見せるミディアム・バラード。人気テレビ番組「恋するハニカミ!」のテーマ・ソングとしてすでにお馴染みとなっている。
「タイアップのお話を頂いた時には、やっぱり恋愛を軸に展開しようと思いましたが、アレンジが出来上がってきて、それを100回ぐらい聴いている内に友情や世相を反映する様なところまで持っていきたいなと思うようになりました。華やかな中に居ても孤独を感じてしまう事があって、かけがえのないものはいったい何?と考えたところから詞を作っていきました」
なるほど、2番のAメロの歌詞にあるように“ふと孤独感がよぎる 自宅を出る一歩手前までは いつもと変わらない自分がいて”といった気持ちは思わずそうそうと頷きたくなってしまい、そしてそんな時支えになってくれる“かけがえのない存在”や“かけがえのない事”を想ってしまう感情も、きっと多くの人が共感出来る感情だろう……。では彼女にとって“かけがえのないもの”とは一体何なのだろう?
「命、そして大きな意味での愛ですね」
それではこの“かけがえのないもの=愛”という温もりを感じさせる楽曲と、一体どのように向かい合って制作していったのだろうか?
「伝えたいと思った事は、本来持っている“優しい気持ち”。そして今ある自分と対峙して、色々な事を見つめ直す作業なのかな...? ヴォーカル面で心掛けた事は“誠実に歌う事”でした。今回も微妙なキーやテンポの違いで最終ジャッジに迷いました。“今日はいい歌を録ってディレクションしよう”と思うと力が入りすぎてしまい、それでまた別の日に気負う事なく平常心で臨んだ日に録り、セルフ・ディレクションしました」
冒頭で以前特集したZARDの魅力について触れたが、ここでも以前と少しも変わらない彼女の魅力に触れる事が出来る。それは『いちアーティストとしての坂井泉水の魅力』という面。セルフ・プロデュースを行う彼女のレコーディングは少しの妥協も許さない事で有名だが、その本人の熱意にスタッフが引っ張られ最終的にみんなが納得のいく作品が毎回仕上がるそうだ。流行に流される事なくこの13年間常に自分の音楽に対し強いこだわりを持ち、真摯な姿勢を貫き通している、それこそがZARDの何よりもの魅力だと今回も改めて感じさせられた。
「焦ることもありますし、しょっちゅうオーバーペースで苦しんだりするんですよ(笑)。改めて感じるのは小学生の頃、クラシックピアノを習っていて良かった……、音楽が好きで良かったという事ですね。そしてまわりの方の協力なしではここまで来れなかったと感じています」
と、そんな謙虚なところも、リスナーやスタッフに愛される理由だろう。
カップリングは2曲。2曲目「無我夢中」はコミカルなハウスビート系のデジタル・ポップ。
「アルバムに収録しようと昨年完成させていた楽曲です。ちょっとコミカルでポップな曲ですが、メロディ・ラインは綺麗ですよ。歌はそのままにリアレンジ(リミックス)を施し、ものすごく完成度の高い曲に仕上がりました」
そして3曲目には、今回のライヴのオープニングでZARDのヒストリー映像と共に流れている壮大なインストゥルメンタル 「永遠(What a beautiful moment Tour Opening Ver.)」を収録。
「映像はロスの砂漠をあちらのカメラマンがヘリから撮影したものですが、音に関してもこの曲は関わった方が海外の方という事もあり、“世界”=グローバルを実感した曲でもありますね」
シングル通算38枚目。今後については、どのように考えているのだろう?
「今回作詞をしてみて、シングル38枚目ですけど、まだ伝えたい気持ちが残っている事を実感しました」
進化し続けるZARD。これからも音楽という素晴らしい贈り物により、“かけがえのないもの=愛”を私達に伝えてくれる事だろう。
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