前作「風に向かい歩くように」の発表から約4ヶ月振りに放たれるニュー・シングル「素敵な夢みようね」は、岸本早未にとって16歳最後の作品。今作が発売された2日後、彼女は17歳の誕生日を迎えるからだ。2003年6月、自分の“夢”をつかみ取ってデビューした彼女は、まさにこの曲のタイトル通り、“素敵な夢”を見続けるべく、日々邁進している。前作と比べると曲調はガラリと変わり、クールなサウンドに乗せて切々と歌う彼女の声が印象的なナンバーに仕上がった今作。岸本早未の新たな面に触れる事が出来るとも言える新曲について、彼女に話を聞いてみた。
●今回のシングルは前作とは随分違いますね。前作では元気がいいというか、テンポ感がある曲だった事もあって前に向かって進んでいるような印象を受けたんですが、今回は曲調もゆったりしていてグルーヴを感じさせる曲ですよね。この曲を最初に聴いた時、岸本さんはどういう印象を受けましたか?
岸本早未(以下岸本):デモ・テープを聴いた時に洋楽チックな感じの曲だったので“これは間違いなくかっこいいダンスが出来る”と思ったんですけど、歌詞が付くとまたガラっと雰囲気が変わって、今までにない感じだなと思いました。
●こういうタイプの曲は、歌ってみたいと思ってましたか?
岸本:はい。こういうゆったりとしたクールな曲を歌ってみたいという気持ちはありました。
●イントロで囁いている部分も、ぐっと大人な感じになっていると思ったのですが、あの部分は最初からあったんですか?
岸本:あれはデモ・テープに入っていて、そこから詞に合うように言葉を変えて自分なりに格好良く囁きました。ちょっと欲が出てきちゃって、もっと格好良く出来るんじゃないかなと思って、色々試しながら出来たので、今回のイントロ部分もすごく気に入ってます。
●中盤のファルセットが効いてる部分も、岸本さんのヴォーカルの違う面が見えた気がしたんですけど、あの部分の歌入れは大変でしたか?
岸本:力強く歌う所から急にファルセットに変わるという感じなので、そこは気を付けて歌いました。勢いで進んでしまうと、上手くファルセットに変えられないので。
●今回の曲はAメロ、Bメロの部分とサビの部分のメリハリが付いていると思いますが、そういう展開は歌っていても楽しいですか?
岸本:楽しいですね。Aメロ、Bメロは格好良く歌うように心掛けたんですけど、サビになると歌詞も“素敵な夢みようね”という明るい感じなので、声の色も変えていかないとなと思ったり。そういう意識で歌いました。
●PVも曲調が違うという事もあって、ダンスも前作とは変わっているそうですね。
岸本:今回の振り付けは、私の好きなダンスがそのまま入っている感じで、新しくファンク・ジャズのテイストを取り入れています。私好みの振り付けで、1番の踊りはハードなんですけど、2番はモデル・ウォークみたいな振りがあったりするので、そのギャップを見て欲しいですね。
●今回の曲は“素敵な夢みようね”という印象的な言葉がタイトルになっていますが、岸本さんがこの曲の歌詞の中で好きな部分はありますか?
岸本:私は“泣きそうだった笑顔 きっと幻のようこぼれだす”という所がすごく好きです。このフレーズは実際に歌っていても感情が込み上げてきて、泣きそうになったりしました。
●後に続く「君だけのLove Song」は1曲目とは違う感じの曲ですよね。この歌詞の中で“僕”という言葉を使っていますが、これは何か理由があったんでしょうか?
岸本:“私”と“あなた”というと恋愛というか、深い意味になっちゃうかなというイメージが私の中ではあるんです。でも“君”とか“僕”という言い方だったら、友達という意味も含まれる感じがして “僕”にしてます。
●“僕”という言葉があったので、例えば男の子の視点で描かれた歌詞なのかなと思ったりもしたんですけど、そういう事ではないんですね。
岸本:そうですね。恋愛だけじゃなくて、友情とかもっと広い意味で歌詞を捉えて欲しかったので。
●歌詞の中の“Love Song”というのは、恋愛のLoveという事でもないと。
岸本:大切な人にという意味での“LOVE”ですね。
●歌詞の中には“うれしい”とか“泣きたい”というようなストレートな言葉が出てきますが、これは岸本さんの実体験が入っていたりするんでしょうか?
岸本:私自身が泣きたい時に人の前で素直に泣けない所があって、でも強がるくせに寂しがり屋だったりするので、そういう自分の気持ちを織り混ぜて書きました。
●今まで岸本さんが書かれた歌詞には、“隣にいるけど気持ちが遠いから悲しい”とか“離れていても一緒だよ”というような内容のものが出てきますよね。それを読んで、岸本さんは人との距離を大切にしている様に思えたんですけど、岸本さん自身は人といる時にある程度距離を保って接しますか? それとも中に入って近い所に行く人ですか?
岸本:自分ではオープンでいるつもりなんですよ。初めて会った人とでも喋ったりするんですけど、どこかで(自分が)嫌われてるんじゃないかと気にするタイプなんです。だから余計に人の気持ちを探るというか(笑)。仲良くしてるけど“本当は私の事どう思ってるのかな?”と思っちゃうので、(歌詞にも)お互いの気持ちがなくて一緒にいるとか、お互いに一緒にいたいのに離れた場所にいるとか、そういうものが多いかもしれません。
●歌詞の中で“みんなで頑張って行こう”というものや“私も頑張って行くよ”という事を書かれていますが、岸本さんは人から頼られるタイプですか? それとも人に頼りたいと思うタイプですか?
岸本:その時は気付かなくても後で“ああ、頼ってしまったな”と気付いて、いつも自分を支えてくれる人がいるから、“次は私が支えていこう”という気持ちになりますね。誰かの支えになりたいし、私も誰かに支えてもらわないと絶対にやっていけないので。
●歌を通じて岸本さんが会った事がない人が支えられたりしてると思うんですが、そういう意識は歌詞を書いたり歌う時にもありますか?
岸本:私も音楽を聴いて励まされたり、考えが変わったりした事があるので、自分が作詞した曲を自分が会った事もないすごく遠くに住んでる人が気に入ってくれて、メールとかで“歌を聴いて元気になりました”という言葉を頂くと、自分は家で歌詞を書いてスタジオで歌っているけど、それを色んな人が聴いてくれてるんやなと思ったら、自分が伝えたいという事を自分だけが分かるように書くんじゃなくて、どうやったら人に伝わるんやろうとか、ここはこういう風に歌った方がより深く意味が伝わるんじゃないかなとか、そういう事をいつも考えながら詞を書いたり歌ったりしてますね。
●歌詞を書くという作業は楽しいですか?
岸本:詞を書くのは昔から好きなので、楽しいです。まず1つのテーマを決めて、曲を聴いてそれをどんどん膨らませていって、もっと他の言葉で表現出来ないかなとか、そういう風な感じで進めてます。
●3曲目の「Feint」はどういうテーマで詞を書かれたんですか?
岸本:この曲はかなり切ない歌なんですけど、テーマは“見せかけの愛”です。一人が思っていてもお互いに想い合っていないと一緒にいても意味がなくて、形だけで気持ちがないという事がどれだけ悲しいか……という事を書きました。
●「DOMINO」(「風に向かい歩くように」カップリング曲)に次いで切ないなと思ったんですけど。
岸本:私もそう感じてました(笑)。
●「DOMINO」は相手に気持ちを伝えられない事が悲しいという内容ですけど、相手に気持ちを伝えてOKだったら幸せになる可能性がありますよね。でも「Feint」はそこから次の段階に進んでいて、形のない愛について書かれていたので、ドキッとしました。一体どうしたんだと(笑)。
岸本:(笑)私はこの詞を書く時に、先に1番だけ書いて2番をどういう内容にするか全然考えてなかったんですね。悲しい曲って最後に救いの一言があるものが多いじゃないですか。私も今まではハッピー・エンド系で終わる曲が多いんですけど、今回は最後までどん底というものを前から心に決めていたんです。それで2番を書く時も、そのままのトーンで。
●“貴方の中では2番目”という言葉もインパクトがありますよね。これは岸本さんの中でも新たな挑戦を意味する曲なんでしょうか?
岸本:そうですね。悲しい表現の時も、私の場合はけっこう遠回しの言葉にする事が多くて。ストレートに言っちゃうと歌っぽくないというか。遠回しに言って最後に悲しい曲という事が伝わったらいいなと思って書いてきたんですけど、今回はストレートに“貴方の中では2番目”って言った方が伝わるかなって(笑)。
●「Feint」はどういう気持ちで歌うように意識してますか?
岸本:人の気持ちが離れていくのに、自分の好きという気持ちは変えられない事に苛立ってるんですけど、でもどうしようもないという気持ちを表現する為に、力強く歌ってます。演じてますね。
●曲を歌う時に、歌詞の世界に自分の気持ちを近付けるという作業もあると思うんですけど、岸本さんは何かしてらっしゃいますか?
岸本:作業としては、ブースの外では楽しくやってるんですけど、ブースの中に入ってマイクの前に立つと、真剣に歌うという感じです。
●精神的に集中する為に、スタジオの照明を暗くしたりする方もいますが、岸本さんの場合はどうですか?
岸本:ついこの前までブースの中で1人でいるのが怖くて、電気を消す事が全然出来なかったんです。でも、最近は少し暗くして歌ってみたりするようになって、けっこう暗いのもいいなって思うようになりました。たまに人から怖い話を聞いたりすると……(笑)、そういう日は絶対に明るくしてないと歌えないんですよ。後ろが気になって。何かいるんじゃないかと思ってしまったり。ヘッドホンも付けてないとダメだし。怖がるくせに聞きたがりなので“何? 何?”って(怖い話を)聞いて、その時は怖くないんですけど、1人になった時にすごく怖いんで……(笑)。
●デビューしてもうすぐ1年が経ちますが、この1年は早かったですか?
岸本:すごい早かったです。あっという間でしたね。
●その中でも特に早く感じた時期はありますか?
岸本:一番早く感じたのは、アルバムを出した頃です。去年の夏休みは毎日レコーディングでした。
●このシングルをリリースして2日後にデビュー1周年を迎える訳ですが、2年目の岸本さんはどういう事をやっていきたいですか?
岸本:今の私は歌詞を書く事を大切にしたい感じなんですけど、それ以外の歌う事も踊る事も全ての事に関して“1年目とは違うな。大きくなっていってるな”と自分でも実感したいし、見てくれている人からもそう思われるように頑張りたいです。
●THURSDAY LIVEなどで、お客さんの前で歌う事も増えましたが、その事を通じて意識が強くなったりしましたか?
岸本:ライヴって(お客さんとの)距離が一番縮まる所ですよね。だから、ライヴをやっていくうちに“自分の事を見てくれている人がいるんやな”という事をすごく実感して、“見てもらっているからこそ成長していかないと”という気持ちが芽生えてきました。
●今回のシングルのタイトルは「素敵な夢みようね」ですが、今の岸本さんは何を夢見てますか?
岸本:夢見るというか、目標みたいなものは、大人の女性になれたらいいなって(笑)。
●大人というのは、どんなイメージなんでしょう?
岸本:どんな場所にいても、周りの人達に“ついて行こう”と思われるような素敵な大人の女性になりたいと思ってます。
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