前回、このmusic freak magazine誌上でZARDの初ライブ・レポートを掲載したのは4月だった。当初は大阪と東京の2箇所3公演の予定が、あまりの人気の高さに追加公演が決定、最終的には9箇所11公演にまで規模を広げたライヴ・ツアーになった。デビュー14年目にして初のお披露目ライヴという事での関心度の高さもあっただろうが、やはり追加公演も軒並みチケットがソールド・アウトという状況をみれば、いかにZARDのライヴにオーディエンスが期待し、またライヴのクオリティの高さを認識しているかが伺えようというものだ。そんな最終日、武道館の模様を追ってみよう。
この日もライヴの進行内容は基本的に「What a beautiful moment Tour」の各会場のものと大きな変更はない。ライヴ前のBGMはキース・ジャレットのジャズ・ピアノ曲、ステージ・セットも大量の楽器群も、そしてステージに立つ総勢17名のバンドメンバーも同様だ。ただ、やはり武道館だからか、最終日だからか、集まったオーディエンスの興奮具合も一段と濃く、得も言われぬ緊張感が開演前から漂っていた。
予定時間を15分程過ぎ、客電が落ちると中央のスクリーンに「永遠」のロードムービーが映し出される。“ZARD Single Collection”というテロップの後に、91年から現在までのZARDのシングル・タイトルが浮かんでは消えていく……。そして、最後に「2004 and now…ZARD」の文字が浮かび上がると共に、93年の名曲、「揺れる想い」のメロディが流れ出す。ステージ中央から颯爽と登場した坂井泉水の姿と歌声に会場がどよめく。上下黒のパンツ・スーツにお馴染みの髪を後ろに束ねたスタイルで登場した彼女も、今夜はなんだか張り切っている。
「皆さん、ZARDのライヴにようこそ。今夜は最後まで楽しんでいって下さい」。そんなMCにも、このライヴ・ツアーで手にした自信が溢れてていた。「眠れない夜を抱いて」「IN MY ARMS TONIGHT」の初期ナンバー・メドレー、「この愛に泳ぎ疲れても」「もう少し あと少し…」とマイナーなナンバーの代表曲への流れも鮮やかに流れていく。ツアー初期では、オーディエンスの側も、こういった曲ではノスタルジーに浸っていたけれど、今夜は、じっくりと時代を越えた曲の良さにまた新たな感動を植え付けられていた。中央スクリーンには、曲に合わせて次々と歌詞のフレーズが映し出されている。「あの微笑みを忘れないで」、ヴァイオリンが加わり「You and me(and...)」、そんなアルバム曲からも歌詞の瑞々しさと奥深さがダイレクトに伝わってくる。
何と言ってもヴォーカリスト坂井泉水の力量を改めてはっきり認識させられたライヴであった。特に中盤「もっと近くで君の横顔見ていたい」。声域のトップぎりぎりの音を出す時の力強さ、その後に続く繊細なメロディの表現力、そのリアルな歌声には思わず感動してしまう説得力があった。この日も、その声の張り、また微妙なトーンの聴かせ所は素晴らしく、バンド・メンバーとの息もぴったりだ。「いつも詞(ことば)を大切にして歌ってきた」という坂井泉水。「瞳閉じて」のアコースティック・ヴァージョンから「心開いて」「あなたを感じていたい」と爽やかなナンバーに繋げ、ここでメンバーにサックスも加わり総勢17名の演奏がスタート。その緻密なアンサンブルは、CDで聴き馴れたZARDサウンドを豪華に再現して聴き応え十分。さらに、ジャケットの映像をイメージ化した映像が、見事にリンクしてZARDの世界観を印象的に表現していた。
そして、本編後半は「愛が見えない」から「Today is another day」へ華やかに、さらに「君がいない」「マイフレンド」「負けないで」のヒット曲攻勢はまさにZARDのベストとも言える贅沢なセレクション。「今日はどうもありがとうございました」と一礼、一旦はステージを去った彼女。
しかしもちろん、もう一度の興奮を観客が求めないわけがない。再度、まずはメンバーだけが登場。「Good-bye my Loneliness」〜「君に会いたくなったら…」〜「きっと忘れない」とインストゥルメンタル・メドレー。各自のソロの間にメンバーが映し出される。続いて、ライティングがステージに教会のステンドグラスの紋様を映し出すと、その中から現れた坂井泉水は、ゆったりと「pray」を唄い始める。バラードの美しさにハッとさせられる瞬間だ。さらに、この日は「ちょっとだけですけど……」と前置きしてのサプライズ! 6月23日発売の「かけがえのないもの」も初めて披露され、オーディエンスの喝采を浴びていた。アンコール最後には力強い代表曲「Don't you see!」。やはり、ZARDはJ-POPの王道だ、という確信を深めたエンディングだった。「また、会いましょう!」その一言を残して、ステージを後にした坂井泉水。スクリーンにはフランス語で「A bientot!(また会いましょう)」の文字が最後の余韻を残していく……。
“What a beautiful moment Tour”が始まって4ヶ月。季節は春から夏へと移り、ツアーは終わってしまった。けれど、このライヴの記憶はしっかりと根を張ったままだ。デビュー14年目にして初のライヴ・ツアーを行ったZARD。出来うるならばその新鮮な驚きと感動をモニュメント(記念碑)として終わらせて欲しくないと願う。これからのZARDがまたどうなっていくのか。思考はすでに時の彼方へと動き始めた。今夜の武道館は、ZARDの新たなる旅立ちを告げた最終楽章。素晴らしい瞬間はまだまだ終わらない…。(text:斉田才)
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