早くも2ndシングル「白の呪文」をリリースするdoa。アコギとエレキのダイナミックで印象的なマイナー・リフから始まり、サイド・ヴォーカルが少しずつ絡んで、サビで一気にコーラスの大洪水を引き起こして盛り上がりを見せている今作は、男三声のハーモニーの醍醐味を全開にした、まさに“doaサウンド”が凝縮されたようなロック・ナンバーに仕上がっている。全てを白紙に戻して新しいスタートを切る呪文があれば教えて欲しい……、力強い呪文のようなフレーズの中には過去に捕らわれて前に進めない主人公の心の叫びが逆説的に綴られている。徳永自身が「僕もそんなに強くないから、そういう曲があるといいなと思って」と、自分を奮い立たせる意味でも作ったと語っている。今回の取材では、作品の中に込めた思いと共にさらに徳永の内面を今まで以上に伺える話を聞く事が出来た。
●まずはdoaのレコーディングの仕方についてお聞きしたいのですが、徳永さんがdoaでやりたい曲を上げてから他のお2人が作業に入るんですか?
徳永暁人(以下徳永):そうですね。曲のネタはメモ帳代わりにいつもデジタル・レコーダーに一杯入っているんですけど、それから引っ張り出してちゃんとした形にしようかなって思い立った時に、僕が全部勝手にキーも決めて仮のギターやコーラス・ラインも入れてフル・サイズで作るんですよ。ある程度ビジョンが決まったものを2人の所に持って行って、ここを歌おうかとかギターをダビングしようかとか、そういう流れでやっています。
●アコギとエレキが入っていて、特にdoaはアコギが全面に出ていますけど、大田さんと徳永さんの中でギターの役割分担っていうのはあるのですか?
徳永:特に決めてはないですが、「白の呪文」ではエレキの大部分が大田さんで、それ以外は僕が弾いています。コーラスで集まった仲間なので、楽器に関してはもっと自由にやって行こうよっていうスタンスなんです。だから大田さんがベースを弾いて、僕がピアノ弾くっていうのもあるかもしれないし。
●レコーディングはデータをやり取りして仕上げていく感じなんですか?
徳永:みんな他にも仕事をしているので、どっちかっていうと3人が集まるのは少ない方ですね。だからむしろ、集まった時はすごく集中してやっています。
●そこにバンドとしての不便さは無いですか?
徳永:無いですね。何も言わずにデータを渡しても、大田さんは「OK、コーラス入れとくよ」ってバッチリなものを上げてくれるし。その信頼感があるんだから、みんなで一緒にディスカッションしなきゃいけないっていう風には思ってないですね。吉本のヴォーカル入れも早くて、僕は歌入れの時に必ず一緒に居るんですけど、こういう風に歌って欲しいとか、歌詞を変えようよとか色々とやっていても3、4時間も掛からないんです。夏場は特にシーズンでレースばかりだったけど、レースの前に曲を覚えたり歌詞を書いたりしてたみたいですね。彼はものすごく音楽好きなレーサーなので、それも楽しんでやっていると思います。メールで「今どこに居るの?」なんて送ると、「マレーシア」とかそういう感じだったりして(笑)。
●徳永さんが提案したものに対して、2人から何か言われる事はありますか?
徳永:それも無いですね。doaに関しては僕が言い出しっぺなので、僕のアイデアに対して2人がアイデアを乗っけてくれる感じで、僕が最初の種を蒔いています。
●コーラスはどういう風に入れているんですか?
徳永:メインの吉本の歌が入ってから僕たちが重ねる場合とその逆の2パターンあって、特にこれっていうやり方は決めていません。僕と大田さんでは、日にちもスタジオも別で録っている場合が多いですけど、今はそういうやり方は当たり前なので。
●「白の呪文」もdoaサウンドって感じでコーラスの洪水ですが、特に間奏前の大田さんのコーラスはすごいですね。
徳永:2番が終わったバンプ部分でコーラスがたくさん入っていますが、トップの大田さんが歌っているラインは音にすると上のDなんですよ。分かりやすく言うと、普通の女性シンガーの平均最高音がDよりも1音下か半音下になるんです。だから女性でも出ない音を大田さんは地声で出しているんです。ちょっと声帯がブチ切れているような。でも本人はケロッとしているんですけどね(笑)。限界を引き出したかったので、出る出ないとかっていうのはあんまり関係なくて、出すんだ!っていう感じで要求すると、大田さんも「歌うしかないでしょう!」って体育会系のノリでやってくれました(笑)。
●この曲はずいぶん以前からテレビでオンエアされていましたね。制作も早くからやっていたんですか?
徳永:「火ノ鳥のように」の直後ぐらいには出来上がってたんですけど、それを気に入って貰ったみたいです。
●前作もそうですが、doaの楽曲は中間〜後半にかけてものすごい盛り上がりを見せる曲構成になっていますが、それはやっぱり徳永さんが好きなスタイルなんですか? それともコーラスを入れると自然とそうなってくるんですか?
徳永:やっぱり歌詞とリンクしている部分が大きいと思います。最初は迷っていた部分が、本当の自分の心の中に気付いてさらけ出せる瞬間が来て場面転換するから、その瞬間にコーラスをドーッと入れて盛り上げていったんです。音にスト−リーを作って表すと自然とそうなっていくのかなって思います。
●「白の呪文」ってどういう意味なんですか?
徳永:白=心の中を白紙に戻すっていう意味を込めています。失敗だったり過ちだったり、恋人とかに対しての思いとか、日々色んな執着や忘れられない事がありますよね。友達に今日まずい事を言っちゃったなとか、小さい事から大きな事まで様々な事があると思うんですよ。それを一旦リセットして、全部忘れてもう1回スタートを切ろうっていう歌なんです。サビで“「ワスレロ ワスレロ 全部ワスレロ」”って言ってるんですけど、そういう全てを忘れられる呪文は存在しないし、むしろ1回唱えただけで全て忘れられるような呪文があったら僕に教えて欲しいっていう願望も込めているんです。結局、自分に対しての自己暗示としての逆説的な表現なんです。
●はっきり“古い自分に用はない”って言い切っていますね。
徳永:仕事や人間関係も含めてですけど、僕自身がちょっと忘れたい事があって(笑)。例えば凄く仲の良い奴にまずい事を言っちゃったなと思って、すでに仲直りして解決していても自分の中ではまだわだかまりがあって1日何か吹っ切れないなっていう、そういうのってありませんか? そういうのをパッと吹き飛ばせる歌がないかなって自分で思ったんですよ。その時にサビ頭のメロディと “「ワスレロ ワスレロ 全部ワスレロ」”のフレーズが同時に出て来て、そこから膨らませていった曲です。この曲を聴いて、1回リセットしてまた今日からスタートだって思えるような人が1人でも増えてくれたらいいなって思いから作ったんですけど。
●「火ノ鳥のように」もそうですが、気持ちを後押しするような曲が続いてますね。
徳永:なんて言うか……、自分自身があんまり強くないからかもしれないですね。僕が音楽を聴く時は自分を勇気付けてもらったりとかある種音楽にすがってるし、すがるために音楽を利用してもいいと思うんですよ。自分がそういう音楽を常に聴きたいと思っているから、作る作品もそういう歌詞になるんです。僕の中では「使える音楽」って言っているんですけど、用途がはっきりしている音楽にしたいなっていうのはあります。
●徳永さんが音楽を聴くこだわりは「魂が入っている」だと言われていましたが、特にこの作品なんかはここから始めるっていう強さからも徳永さんの魂が入っているなって思いました。
徳永:「人生いつも今がスタート」っていう言葉が僕は好きなんです。人類が何十億人も居て、その中にはお金持ちやら偉い人やらと一杯居ますけど、何十億人居ても過去に戻れる人って1人もいないんですよ。そう考えた時に良い事も悪い事も全部含めて、みんな今日からスタートしたらいいじゃないかって。クヨクヨしていないでまたゼロから始めようよって、自分の中でいつも言い聞かせている気持ちが表れた曲だと思います。みんが心をリセットして始められたら、世の中がぜんぜん変わると思うんですよ。そんな大きな事を僕らが作品を出しただけで出来るかは分からないけど、ほんの少しでも社会貢献となる音楽を作っていけたらなって。
●じゃあ、出来た歌詞を見て改めて感じた事がたくさんあったのでは?
徳永:曲も歌詞もアレンジもそうなんですけど、いつも一旦作ったものってもう僕のものじゃない気がするんですよ。自分でも不思議なんですけど。だから自分に言い聞かせたはずの言葉が、人に言われている気がするんです。それに対して逆に反発してみたりと、透明な自分が横にもう1人居るみたいになって。だから作り上げちゃうと、すごくリスナーに近い状態で見られるようになります。
●これまでの作品をもう1人の自分が聴いた時はどう感じましたか?
徳永:やっぱり自分のヘタレさっていうのを感じています。そういう意味でもさっき言った「すがる音楽」になっているので、実際にサビを口ずさんでいたりしますね。
●サビ部分がいつも「 」の中でカタカナ表記になっていて、私は口語調にして効果的にしているのかなと思ったんですが、徳永さんの中ではどういう意味を持ってそういう書き方にしているんですか?
徳永:「辛いでしょ?」とか「頑張ってよ」とか、誰かに言って欲しい言葉ってみんなあるじゃないですか。でも、なかなかみんな言ってくれなかったりして(笑)。でもそういう風に思う時点で、自分が自分の心の中で頑張れよって言い聞かせてるんです。そうやってみんな先に進んでいると思うし。だから自分1人でもどうにかなるんだよって言いたくて。「 」は人が言っているように書いているんですけど、実は自分の中での言葉で、もう1人の架空の自分が言い聞かせているって感じです。
●ちなみに今の徳永さんが人に掛けて欲しい言葉は?
徳永:そうですね、「お前もまだまだだな」かな。
●他に歌詞でこだわった所はありますか?
徳永:“後悔の海に とっぷり浸かってる暇があるんなら泳ぎ出せ”では、とっぷりは本当は間違った日本語なんです。とっぷりって陽が暮れる時に使うので。主人公の途方に暮れた感じをより一層強調する表現としてわざと使用しています。“人の群れかきわけ〜どうか教えておくれ”ってフレーズは、ちょっと先を歩いている人っていう事だけじゃなくて、別れだったり絶望だったりとかそういうのを乗り越えて先に歩いて行っている人たちに、どうやってクリアしていったのか教えてよって問う心の未熟さが出ていて、逆にそれが明日への原動力となって成長できるという意味を込めています。
●話を聞いていて思ったのですが、徳永さんは傷付きやすいというか、けっこう落ち込みやすい人なのですか?
徳永:というより、自分ってダメだなって思う事が日々多いですね。それをおざなりにしちゃう事も多いんですけど……。失敗を繰り返さないようにしたいって良く考えます。例えば喧嘩したらちゃんと謝るし、自分が失敗したらちゃんと訂正もする。でも、だからといってそこからすぐにスタートして気分を変えられるかっていうと、僕は弱い人間でその部分では強くなれなくて、どうしても後ろ向きになる時があったりするんです。いつもじゃないですけどね。そういうのを乗り越えて常にスタートを切って行ければって思うんです。
●ライヴで見る豪快な徳永さんとは違う繊細な面が伺えますね。徳永さんの歌詞を読むと、これまで以上に内面を知る事が出来るなと思いました。
徳永:そうですか……。良い事も悪い事も全てリセットして今日からスタート……って言えるほど僕は強い人間じゃないんで(笑)、その呪文を教えて欲しいし、この作品がその呪文となってみんなが何か感じてくれれば良いなって思って作っただけですよ(笑)。
●パン工場でdoaのライヴが行われましたが、いかがでしたか?
徳永:今までレコーディングでしかやっていなかった曲を歌うと、余計に3人の息が合うんですよ。CDよりも良くなった曲が多かったので、ライヴがどんどん出来るバンドにしたいと改めて思いました。
●吉本さんの初ステージについては?
徳永:まったく緊張していなかったですね。レースのスタートの方が何倍も緊張するって言ってました。すごく楽しんでいたので、ステージに向いている感じがしました。
●オーディエンスの反応はどうでしたか?
徳永:「今、聴いてくれているな」っていうのが分かる顔をしているんですよ。上手く言えないんですけど、一生懸命聞き耳を立ててくれている顔(笑)。大音量にも関わらずそんな雰囲気を感じてすごく嬉しかったです。
●松本さんがゲストとして出演しましたね。
徳永:最後にみんなで外道のカヴァーをセッションしたんですけど、ものすごく盛り上がって楽しかったですね。
●doaに関して松本さんは何か言われてましたか?
徳永:一緒に近所の店に飲みに行ったんですけど、その店はロックを流している所で。松本さんが「徳ちゃん、doaのCD持って来てないの?」って聞いてきて、「すいません今は持ってないんです」って答えたら、「じゃあ、誰かに持って来てもらってよ」って。すでに松本さんには渡していたんですけど、すごく気に入ったからその店でも「doaを聴きながら酒を飲みたいんだ」って言ってくれて。それでCDを持って来てもらって、掛けながら飲んだんです。すごく嬉しいですね。
●11月にシングル、その後には『deadstock II』もリリース予定という噂をキャッチしました。
徳永:シングルは11月リリース予定で進めています。アップテンポで、またメッセージ性の強い歌詞が付いています。『deadstock II』は今レコーディングしていて、曲さえ溜まれば出したいなと思っています。研究しながら、遊びながらといった感じです(笑)。オリジナルをやっていく中で色々と掴んだものがあるので、そういうのも反映しつつまたアプローチを変えてやっていこうかなと思っています。
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