今年2月にメジャー・デビューし、その優しい歌声で聴き手の心を和ませてきた竹井詩織里が、いよいよ1stアルバムをリリースする。これまでに彼女は「静かなるメロディー」「君に恋してる」と2枚のシングルを発表しているが、正直なところ、それらだけでは彼女の歌の世界を十分に楽しめないと感じていた人もいたのではないだろうか。昨年発売されたインディーズ・ミニ・アルバム『The note of my eighteen years』で彼女は自分のルーツに基づくセレクトでカヴァー曲を披露、幅広い音楽性を持っている事が証明されていただけに、彼女の新曲が詰まったアルバムを心待ちにしていた人は多いはずだ。
彼女がアルバム制作に取り掛かっているという情報を聞いたのが今年5月。本誌6月号(Vol.115)ではアルバム制作中に取材を敢行し、彼女のアルバムに対する構想などを聞く事が出来た。それから3ヶ月が経過し、ようやくアルバムが完成。シングル曲を含む全11曲には、今の竹井詩織里が求めるポップスの形があった。前回の取材で“自分がやってみたいと思う音楽のジャンルは多い”と語っていた彼女。その言葉通り、今回のアルバムにはジャジーなものからボッサ、シンプルなポップスと、様々なタイプの楽曲が収められている。そして日常の1コマを切り取った歌詞から伝わる情景は、とても穏やか。“聴き手の生活に溶け込むような作品にしたい”という彼女の言葉通り、聴き手の心を自然に曲の世界に誘ってくれる。
今回はアルバム完成直後に取材を敢行。全曲紹介を含めて、アルバム制作について話を聞いてみた。
●前回の取材ではアルバム制作の途中でお話を聞かせて頂きましたが、あの後も作業が続いていたんですか?
竹井詩織里(以下竹井):前回の取材の時点では4曲ぐらい出来ていたと思いますが、その後に他のアルバム曲の歌詞を書いてレコーディングしてという作業を続けていました。その他にも定期的にライヴがあったので、スケジュールが詰まってる時期もありましたね。
●今回のアルバム・タイトルはすぐに決まったんですか?
竹井:デビューしてから最初のアルバムだし、顔になるという意味もあったので、タイトルは結構悩みましたね。どういう言葉がアルバムを表現出来るのかなと考えて、色々候補があったんですけど、最終的に雰囲気やサウンド、歌詞とか声の感じも含めて自分の好きなもの、やりたい事が詰まっているアルバムなので『My Favorite Things』という言葉が一番合うと思って決めました。
●これはジョン・コルトレーンの曲のタイトルでもありますよね。
竹井:そうですね。もともと「サウンド・オブ・ミュージック」の挿入歌で、雷におびえる子供達を元気付けようと主人公が歌うんですが、このシーンがすごく好きで。悲しい時なんかに自分の好きなものを想像すると元気になれるよというもので、前向きなんですよ。私もライヴで歌ったりしたんですが、このアルバムが自分自身にとっても、聴いてくれた人達にもそんな風に少し前向きになれる様な存在になってもらえたらなーという事も思って付けました。
●曲順も色々考えましたか?
竹井:「静かなるメロディー」は一番最初にしようと思ってて、始めの3曲は私の中ですんなり決まってました。「今日」は“この曲だったら、和やかな雰囲気で終われるんじゃないかな”と思ったので最後にしました。「時の砂」は今回のアルバムの中の陰の要素に当たるので、これをどこに置くかで悩みましたね。それで「君に恋してる」でガラっと変わって、最後は爽やかに終わるみたいな。特に後半の曲順は色々考えました。
●たくさんある自分の曲を選んで曲順を決めるという作業は、シングルの時と違う感覚だと思いますが、どうでしたか?
竹井:曲順通り並べて聴いた時に“ええわ〜”って(笑)。それまでは1曲ずつ作っていたので、全体像をイメージしてはいたけど、実際自分の曲を並べて聴くという事をしてなかったんです。だから余計に全曲通して聴いた時に良い感じになったなって。
●作業で大変だった所はありましたか?
竹井:私は歌詞を書く事が第1関門だったりするので、それを越えたら楽しいレコーディングという感じなんです。でも最近は作品を作る作業自体が楽しくて、自分の中で“こういう曲にしよう”というアイディアをたくさん出せる様になる為に、色々な幅を広げていきたいなと思ってます。歌うのが大変だったのは「密月」ですね。これは今までありそうでなかった大人な雰囲気の曲なので……。私の母も気に入ってます。歌詞も年齢を上に設定したので、歌う前にイメージを固めて、そこに入り込んで声で表現するまでに時間がかかりました。
●イメージを作って歌うという作業の中で、歌う事に対して改めて思った事はありますか?
竹井:自分の中で表現方法として“こういう風に歌えたらいいのにな”というのがあって、そこに到達するまでの声の探り方とかは、このアルバムを作ってみて自分の中では掴めてきたかなとは思います。
●レコーディングで楽しかったエピソードはありますか?
竹井:エンジニアさんが女性の方なので、作業中によく話をしていて、常に和気あいあいな感じでした。それにレコーディングの時、私のテンションがものすごく高いんですよ(笑)。まず“歌える!”っていうのがあるからだと思うんですけど、歌い終わった後もテンション高いです(笑)。あとはチームの雰囲気ですね。“さあ、ご飯食べようか!”みたいな感じで。
●今回のアルバム制作を経て、次はこうしたいというものはありますか?
竹井:ありますね。それを早く形にしたいなと思います。
●自分のアルバムが出来上がってみて、改めてどう思いますか?
竹井:良い出来です(笑)。何ヶ月もかけて悩みつつも楽しく作ってきたので、形になるのはすごく嬉しいですね。そうやって出来たものを色んな人に聴いてもらえるのは嬉しいし、タイトルにもなっている“自分の好きなもの”がぎっしり詰まっていると思うので、そこも自信を持って“聴いて下さい”と言える作品です。
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