70年代テイストを感じさせるレトロでストレートなロック・サウンドに、「コーラス・ロック」と自ら表現するほどのこだわりを持った圧巻のハーモニーが魅力のdoa。シングル「火ノ鳥のように」「白の呪文」「英雄」とコンスタントにリリースを重ねて勢い付いて来た今、待望の1stアルバム『open_d』が完成した。シングルには無い世界観を綴った歌詞やチャレンジ的なサウンド、そして壮大とも言えるコーラス・ワークなど、doaというバンドの高い音楽性を改めて実感する仕上がりになっている。取材タイミングが早すぎたために、実は取材当日にはまだ全曲が揃っていなかった……という事で、今回は徳永暁人と大田紳一郎にアルバムの全体像などについて話を聞いてみた。
●アルバム曲はシングルと違ってアコギ色が強いミディアム系で、歌詞もラヴ・ソングの度数が上がって雰囲気が違うなって感じたんですけど、1stアルバムはどういう風に仕上げたかったのですか?
徳永暁人(以下徳永):アコースティック・ギターをフィーチャーしたコーラス・ロックというテーマはぜんぜん変わってないんです。そのテーマを軸に、逆にシングル曲でやっていなかったような歌詞の世界観というか、僕らからすれば本当に普段生活していて色んな事を思う訳じゃないですか。熱い思いになる時もあれば恋愛で悩んだりと色んな事があって、そういうのを含めたリアリティというのをあえて出して、今まで以上に幅を広げて作ろうかなっていうビジョンが最初にあったので、そういう形になっていると思います。
●アルバムだからこそ一番やりたいって思った部分は何ですか?
徳永:やっぱり僕らのコーラスを聴いてもらいたいから、コーラスを生かすのとアコギの追求をメインに全曲作りました。
●アルバムのリリースが具体的に見えてきたのはいつ頃ですか?
徳永:3rdシングルの前ぐらいからアルバムは意識していました。僕らはシングルも小っちゃいアルバムだと思っているんですよ。3曲ずつ入れてきて全部そこでストーリーが完結していたので、そろそろそれをもう少し大きな長編ストーリーみたいなもので作りたいなって思っていたので。
●アルバム・タイトル『open_d』はどんな意味があるのですか?
徳永:“open_d”っていうのはギターの変則チューニングの名前なんです。「open_d」は実際にその変則チューニングで弾いています。それと同時にdっていうのはdoaのdにも掛けていて、最初のアルバムだからドアを開くという意味で付けたタイトルです。
大田紳一郎(以下大田):いわゆるギターの基本的なチューニングとは違って、6弦の音を変えてジャランと鳴らした時にDのコードになるようにしたのがopen_ dで、このコードはカヴァー曲を含めてけっこう多く使ってますね。それがdoaサウンドのポイントみたいになっています。Open_eとか色んなパターンがあるんです。
徳永:「白の呪文」や他の曲でもopen_dは一杯使っていて、そのチューニングに合わせて無理矢理歌ったっていう部分もあるので、わりと僕らのテーマになっていますね。
●何でDのチューニングが多いんですか?
大田:doaだからです(笑)。個人的にもDのコードってすごく響きが良くて大好きなんです。
●「open_d」はCSN&Yの「FIND THE COST OF FREEDOM」の雰囲気があって、彼らへのリスペクトが感じられました。『deadstock』のラストからこの1stアルバムのオープニングへと、バンドの流れが感じられるなって。
徳永:リスペクトしているのでやっぱり影響は大きいですね。こういう曲が一番僕らがやりたいコーラスとアコギっていうテーマとして伝わりやすいかなって。
●「Siren」は稲葉さんが作詞していますね。この経緯を教えて下さい。
徳永:僕と大田さんで去年の稲葉さんのソロ・ツアーにコーラス参加していたんですけど、その最中に稲葉さんが僕らの作品を聴いて気に入ってくれて、「ちょっと歌詞書かせてよ」って個人的なレベルで話をしてくれたんです。最初は半信半疑だったけど、「じゃあ、デモ・テープ持ってきます」って2、3曲持って行ったら1曲すごく気に入ってくれて、「是非、この曲に歌詞を書いてみたいから」って本当に書いて来てくれたんです。それがまたすごく良い詞で。ここだけの話なんですけど(笑)、事務所を通さず個人的に電話とかで話をして、一緒にスタジオに入って詞ハメをして「ここを変えようか」とかをやっていったんですよ。そうやって出来上がった関係から、この曲は僕がリード・ヴォーカルを取っているんです。
●松本さんのみならず稲葉さんもdoaをすごく気に入っているんですね。
徳永:そうですね、すごく気に入って頂いて。イントロに入っているブルースハープも稲葉さんが吹いてくれたんです。吹いてくれたっていうか「こういうのを入れようか」ってスタジオで盛り上がって自然に入れてくれた感じで。
●稲葉さんと一緒にスタジオに入って作り上げていった曲になったと。
徳永:そうですね。詞もdoaに新たな世界観をプラスしてくれた深い詞になっています。稲葉さんが「この曲のデモを聴いた瞬間に「Siren」って言葉しか浮かばなかったんだよね、どうしても」って言ってくれて、そこからすぐ歌詞を書いて来てくれてビックリしました。
●リード・ヴォーカルが徳永さんという事ですが、吉本さんがヴォーカル・スタイルを変えているのかなって感じる程度でしか違和感が無かったんです。すごく声が似ていますね。
徳永:僕ら3人は本当に声が似ていて(笑)、これはもう生まれつきだと思うんです。だから逆にハーモニーがすごく響くんです。イーグルスもそうじゃないですか。みんな声が似ていてすごくハモっていて、みんなでヴォーカルが取れる、ああいう風になれたらなって思っています。
●今まではメンバーだけでやってきたんですけど、他の人が参加するのはOKなんですか?
徳永:ビジネス的な意味で誰々さんにお願いします、というのでは無かったので。本当にアマチュア・バンドとかの「君のバンド良いから詞を書かせてくれない?」「マジ? 書いてくれる?」みたいな、ミュージシャン同士の盛り上がりだけで作れたんですよ。マネージャーも通してなかったので(笑)。そんな感じで作れてそこがすごく嬉しかったから、今回の事はむしろ歓迎というか感謝しています。
●これは徳永さんと大田さんが密に色々なお仕事をされているからこその出来事なんでしょうね。
徳永:すごくビッグな方じゃないですか。それにも関わらず初歩的なミュージシャン・シップというか、「音楽を気に入ったから一緒にやろうよ」みたいな事を言ってくれたのが僕らはすごく嬉しくて。逆にそういう部分を尊敬しましたね。
●「無人島」はひとまず先にライヴで披露していましたが、反応はいかがでしたか?
徳永:アルバムの中で唯一マイナーのシャッフル・ビートな曲なんですが、みんなで声を出して歌えるパートがエンディングにあって、初めて聴いたにも関わらずそこを歌ってくれたんです。お客さんと一体になれたのですごくライヴ向けの曲だと思いました。
●シングルの世界には無かった、徳永さんが作詞のラヴ・ソングですね。
徳永:僕はラヴ・ソングだとかそこまで考えていないんです。普通に生活していると、色んな事が絡み合ってきますよね。人生を悩んでいるようで実は恋愛で悩んでいたり、恋愛で悩んでいるようでいてぜんぜん自分の進路に悩んでいたりとか、そういう風に全部がリンクしていると思うし、その断片を切り取っていつも詞にしているんです。今までのシングルはたまたますごく自分に向けてとか、恋愛を排除した思考だったりもしたんですけど、でも実は人間というのはそれだけで生きている訳じゃなくて、当然恋愛の事も考えているし。という事で今回アルバムの中ではすごく色んな世界観が登場するんですけど、それも全部含めて元から自分の頭の中にあってその内の1つと思っています。
●これをラブ・ソングとして受け取ったのですが、何度も聴いていると私には幸せなのか不幸なのかが分からなくなってしまいました。
徳永:何となく僕らが一貫しているのは、やっぱりまだ夢の途中みたいな、ゴールに辿り着いていない状態。そのゴールっていうのは人生なのか恋愛なのかは分からないんだけど、その途中をどう生きるかみたいな事をわりと表現している場合が多いから、そういう印象を感じたんだと思います。
●大田さんはメンバーの歌詞を見ていて感じる事はありますか?
大田:僕が書いたらまったく違う世界観になると思いますね。2人のは歌と詞とメロディが一体化していていつも感心するんです。自分で曲を作るとこっちに行ったりあっちに行ったりとか迷いがあるんですけど、doaの詞っていうのはまっすぐな人って感じで、ああじゃあこう行けばいいんだってコーラスをやる時も分かりやすいですね。「open_d」なんかは特にそうで、“大きく河になり 流れていくのだろう”とか歌詞とメロディの一体感が分かりやすくて、スッポリとはまっていてすごくイメージしやすいので良いですね。
●以前の取材で徳永さんは「使える音楽を作りたい」と言われていました。シングルは人を力付ける感じですが、このアルバムはどういう風に作用するものだったらいいなって思いますか?
徳永:さっきも言ったんですけど、生活では色んな事があって、笑ったり泣いたり、やるぞって思ったりダメだな〜ってただ落ち込むのでも良いし。落ち込むためだけの音楽があっても良いと思うし。そういう色んな喜怒哀楽を手助けしてくれて、それが最終的にはプラスに向かう、そういう意味ではシングルでは出し切れていなかった大きなストーリーがこのアルバムでは作れたと思っています。1曲ごとは繋がっていないんだけど、本当に日常の断片があります。「渦巻く夜空」も恋愛の曲だけど、本当に数分間の別れ、数分間だけの出来事を歌っている曲で、そこには答えも何も書いてないんです。でもその状況を共感する事によって、色んな人が色んな事をまた思ってくれたら。僕らは種を蒔くだけだから、それが色んな風に広がっていくんじゃないかな。「火ノ鳥のように」のようにガンバレって言っている問題提起もあれば、どうしようっていう問題提起もあったり、そういう表現の仕方も1つだと思っています。
●大田さんは「英雄」の時にアコギの勢いが大切だって言っていましたが、アルバムの曲はもっと叙情的な部分が強く伝わってきて、勢いだけではないなって思いました。
大田:勢いだけではないですね。コーラスやメロディに対しての感情をアコギで出す、アコギでもう1色付ける感じです。そういう役割はピアノを使ったりする事もあるけど、僕らはアコギとコーラスだからそれで出せる部分はそこで出したいっていうのがあったので。
●このアルバムは『deadstock』の流れが強いって思いました。
徳永:そうですね。シングルはレーベルの意見なんかもあってリリースされる部分も大きいけど、逆にアルバムは本当にアートというか、僕たちの本当に好きな事が出来るし、出し切れるんです。だからシングルよりも僕らの世界観がバリバリに出ているので是非聴いてもらいたい。
●大田さんの驚異のハイトーンはアルバムではいかがでしたか?
徳永:大田さんぐらいになると何が驚異だか分からなくなってきますね(笑)。ライヴをやる事で、高いだけじゃない僕らが一番響く所っていうのを見付けかけているんです。それを生かした曲がアルバムには一杯入っています。
●それぞれが思う聴き所を教えて下さい。
徳永:やっぱりコーラス。すごくスローな曲もあるんですけど、たったアコギとコーラスだけでもロックになるんだぞっていうのを気付いて欲しいというか、聴いている人に感じてもらいたい。ディストーションがウォンウォンいっているのだけがロックじゃないぞって。
●アレンジしていて入れたくなる衝動を感じたりはしませんか?
徳永:無いですね。音楽に対してそういう所にベクトルが向いていないというか、メッセージなりストーリーなり思想なりが伝わるためにアレンジしているから、それに一番合った形が出来ればそれが良いと思います。あとは「新世界」でも新たなチャレンジをしていて、1パートに付き10本入れてます。それプラス、コーラスを色々と入れてウーアーも30で……、のっけから42本のコーラスがなっていて他にイッキも4回あって、全部で46チャンネル。
●話だけではイメージが出来ないです……。
徳永:それは是非聴いてもらって(笑)。ビーチボーイズとかの多重録音が始まった時の、声をどんどん重ねて行くウォール・オブ・サウンドを僕らなりにやってみたいなっていうのがあって。これもかなり勢いのある作品になっているので聴き所ですね。
●普通だとコーラスは何本ですか?
徳永:多くて8本で、基本は4本ぐらいですね。ちなみに1本っていうのはヴォーカルが歌うラインが1本っていう感じで数えるんですけど、コーラスを重ねて10本っていうと10回同じ歌を歌わないといけないんです。だから「新世界」は46人が歌っているのと同じ声になっているんですよ。
●すごいですね。
徳永:あとはライヴの良さ、ライヴでしか出来ない曲の良さをdoaなりに掴んで来ているから、こんな曲をライヴでやりたいって思っていたらアルバムが出来たって感じ。
●大田さんはいかがですか?
大田:今までやってなかった事としては「無人島」でのギターのハモり+コーラスのハーモニーっていうのをやっていますね。あとは「open_d」でアコギをかき鳴らすの、あれもやっぱり良いですね〜。あと、「自由という名のブランド」では僕がメインで歌っています。歌ってみたらハマった(笑)。
●ライヴを意識して作ったと言っていましたが、これまでのライヴは楽曲の制作に大きく影響を与えていますか?
徳永:与えていますね。お客さんの反応……というか僕の場合は顔の表情なんですけど。ものすごく客席を見てるんですよ(笑)。それでまた色々とこうしようかなって考えたり。
●そんなに見えるものなんですか?
徳永:見えますよ。けっこう後ろまで見てますよ。
●吉本さんのヴォーカルに関して何か感じる部分があれば教えて下さい。
大田:歌は変わらないんですけど、精神的にミュージシャンとしてステージに立った事が関係していて、それが歌に出てきた気がしますね。伝える事の大切さとかそういうのが分かってきてからアルバムのレコーディングをやっているので、テイクに対するこだわりとかも本人は出てきているので良いんじゃないでしょうか。
徳永:良い意味で3人が歌で触発し合っていて、「ああ、こう歌うか」って面白い発見が多いですよ。みんな声が似ているからコーラスをやると同じように歌うんですけど、1人になるとまた別な歌い方をしたりして。それが新たな発見というか、同じ曲を歌っていてもそれぞれの変化があって楽しいですね。
●話からすると、アルバムでは3人で集まる事が多かったみたいですね。
徳永:そうですね。最初の頃はツアーに出たりと色々と活動がバラバラで集まるタイミングが少なかったので必然的にバラバラでやっていたんですけど、逆に最近はみんなでやりたくて無理矢理集まってやったりして楽しいですね。やっぱりアイデアも豊富だし、パワー感というか瞬発力も集まった方が大きいですよね。
●今回のアルバムでベースへのこだわりはありますか?
徳永:アルバムの曲はメロディを大事にしたかったので、今までピックで弾く曲が多かったのですが勢いよりもベース・ラインを大切にしたかったので、全体的に指で弾く2フィンガー奏法が多かったですね。その分、グルーヴもまた新しいエッセンスで入っています。
●2004年を振り返って一番印象深い事は?
大田:一杯ありますが、「すぽると」に出た事ですか(笑)。緊張しました。
徳永:あれは完全生演奏でしたから。オケも無くてギター2本だけでいきなり3人でハモったんですよ。しかもオリジナルがあんなに激しい曲じゃないですか。それをアコギだけでっていうのはすごく印象的でした。あれをやって、別にディストーションやドラムが入ってなくても僕らのサウンドになるじゃん、ロックしてるじゃんって自信に繋がりました。
●徳永さんの一番印象深かった事は?
徳永:やっぱり出会いが一番でした。最初に吉本に会って「こいつとやろう」と思って、B'zのライヴで大田さんを見て「日本にこんなスーパーな人がいるんだ」っていう2つの衝撃があって今に繋がっているので、それはやっぱり良かったと思いますね。
●2005年の豊富をdoaと個人的な部分で教えて下さい。
大田:まずはライヴを成功させる事ですね。その後はまた研究を(笑)。ライヴは今までより色んな人たちが来てくれると思うので、その人たちにまず会ってどういう反応するのかを見て、そこからまた音楽を作ってまたライヴをやってっていう繰り返しですね。個人的な部分では声を大事にするのと、まあ、流れに身を任せていこうかなと(笑)。
徳永:僕はdoaを聴いてくれる人たちとのコミュニケーションを増やして行きたいんです。ライヴもそうだし、ファンクラブも出来たので色んな形でコミュニケーションが取れるようにしたい。CDやライヴとは違う企画も出来るかもしれないし。個人的にはもっと片付け上手になりたい(笑)。散らかし屋で、ライヴのリハとかやっていてもコードが足元で団子みたいにグチャグチャにこんがらがっていても何も気にならないんです。そういう所をメンバーから「それどうにかしろよ〜」って言われてるので、もう少し綺麗にするクセをつけようかなって(笑)。
●最後に東京・大阪で行うライヴについて教えて下さい。
徳永:僕らの生声を、生で僕らのコーラスを聴いてもらうのが一番良いと思いますので、それを聴きに来て欲しいと思います。
●ライヴにキャッチ・コピーを付けるとしたら?
大田:open the doa(笑)。
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