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恋する切なさ、恋を繰り返す喜びと悲しみ。滴草由実の楽曲を聴いていると、そんな淡くてほろ苦い気持ちが蘇ってくる。もう一度会えるはず……と信じたい人の存在は誰の心の中にも1人ぐらい居るのでは？ そんな気持ちにほんのりと淡い火を灯してくれる、心の琴線に触れるようなスロー・ナンバーが「花篝り」。桜の花びらがゆらりと舞い落ちる情景に恋の揺れる気持ちを重ね合わせたという、これまで以上に繊細で美しい歌詞に仕上がっている。真っ直ぐ過ぎるほどに、相手への想いをぶつける様に綴る彼女の歌詞からは、いつだって自分の気持ちに正直でいようという決意が秘められているように感じる。新しい年明けに相応しい、これまでとは違った強さが漂う作品になった。
●今回の曲は情景的な描写も強くなった情緒溢れる歌詞で、これまでとちょっと違うアプローチだなって感じました。
滴草由実（以下滴草）：気持ちだけ書いて情景が浮かばないのは嫌なので、情景と想いを重ねて書きました。桜の花びらが散っていく切なさが伝わる歌詞になっていると思います。デモを最初に聴いた時に、桜が散っている奥で眩しいぐらいに淡い光がフワーって照っている絵が浮かんだんです。その眩しい光は願いとか、そこに居る人自体が眩しいって感じなんですけど。
●ゆらりとか綺麗な日本語を使っていますね。花篝りって言葉も珍しいですし。
滴草：ゆらりじゃなくてもそれっぽいニュアンスはたくさんあると思うけど、恋した時に揺らぐ気持ちと花びらがフワーと揺れる感じにこの言葉がリンクして、絶対にこれがいいなって。“花篝り”はオケの雰囲気とかメロの感じとかがすごく強かったので、これに合う言葉やタイトルがないかなって思って、色々辞書とかインターネットで探したんです。そしたらたまたま“花篝り”って言葉があって、“京都で行われている、春になると夜桜を照らすために焚く火”って読んだ時に、実際に花篝りを見た事は無いんですけど、自分が前に体験したというか、「ああ、なんか見た事あるような風景だな」って思って。そしたらメロの雰囲気にピッタリで、これだ！と思って最初に付けました。桜を照らすためにポツンと頑張って火が燃えているのが、恋と重なっている様に見えて。地元にいる時に良く待ち合わせしていた公園には、桜の樹が植えられていたんです。いつも夜に待ち合わせをしていて、電灯の光の下の桜がすごく綺麗でいつもそれを眺めていたから。そこには色々と切ない思い出があったりしたので、これも出会いかなって。花篝りって言葉はあんまり聞かないのでタイトルにしてみんな分かるかなって心配だったけど、知らなくても聴いて切ない気持ちとかが伝わってくれたらいいと思うし。
●滴草さんが良く描いている忘れられない人を思い返すという世界ですが、ただラストがハッピーエンドを匂わせていて、これまではあんまり結論を感じさせない歌詞が多かったので、ここも今までと違うなって思ったんです。
滴草：これは本当に出会った詞なんだろうかって思ったりする人もいるかもしれないけど、でも私としてはもう1度巡り会えたって歌詞にしたかったんです。でも、最後は人によってそれぞれの想いで受け止めてもらっていいと思います。
●滴草さんが今までと物事の取り方が変わったからこういう歌詞になったのではないですか？
滴草：ちょっと変わったかもしれない。歌詞を見ていても、今回の歌詞はなんか違うな〜って自分でも思う（笑）。書いている時は分からないけど、後から見ると感じました。
●これはいつ頃書いたものなんですか？
滴草：アルバムが終わった去年の秋ぐらいかな。ニューヨークに行ったから気持ちの捉え方が変わった部分はあったかもしれないですね……。歌い方はニューヨークに行っていたからこそ、こういう歌い方が出来たとは思います。アルバムの後だったから納得の行くものを作りたいって思いは強くなっていたけど、でも、こだわり過ぎちゃってどれが一番良いのか分からなくなって、すごいパニクっちゃったんです。結局、こだわるのも良いけどこだわり過ぎて自分の持っている元の歌い方を忘れかけていたりしたので、最後に録ったものは歌詞の通り自然と出る声で、喉ではなく心から出る声で歌ったんです。それが今回の作品になったんです。オケがけっこうロックっぽいからサビの盛り上がる所では気持ちが高まりすぎて、ゆらりゆらりなのにすごい声を張って歌っていたんだけど、最後はちょっと力を抜いて歌えるようになりました。
●「Forever, I'ｍ with you」は雰囲気のあるバラードで歌い上げていますね。
滴草：これは一昨年ぐらいには歌詞も出来ていて歌っていた曲なんですけど、今回歌い直したんです。この歌詞が大人っぽいのか子どもっぽいのか分からない感じですけど、今歌ったら違った雰囲気が出るんじゃないかなって。
●「甘い記憶」はサイバーサウンドチームの作曲＆編曲で、すごくグルーヴィな曲ですが、これはアルバムの時からあった曲なんですか？
滴草：アルバム後に新たに書いてもらいました。ギターが格好良いですね。こういう曲はやっぱり身体にスーと馴染みますね。「花篝り」から私を知る人もいると思うので、「甘い記憶」でこういう曲も歌っているんだって知ってもらいたいです。
●色んなパターンの曲が入っていて、滴草さんの広い一面が感じられますね。
滴草：そうですね。「花篝り」はドラマの主題歌だから毎週放送を楽しみにしています。テレビで流れたのを聴いた時はすごい感激しました。映像と音が一緒になっているのを聴くとすごい力だなって感動しました。友達も見ていて「良かったー、いい歌だね」って。
●鹿児島に帰省して成人式にも出席したそうですが、どうでしたか？
滴草：久し振りに会う友達とかいたし、緊張でドキドキしました。みんなと会って、昔の事を思い出してはしゃいでいました。デビューした事もみんなは知っていたので「頑張ってるね。聴いてるよ」って言ってくれて、嬉しかった。
●環境的にも滴草さんは周りよりも大人になっている気がするのですが。
滴草：それがぜんぜん。私も変われれば変わりたいんだけど、会ったみんなが「変わってないね〜」って。最初はみんなが「なんかシズク、普通だね」って（笑）。私の着物地味だった？ってガックリしたんだけど、後からみんなに「シズクが変わってなくて、普通で良かった。すごい安心した」って言われて、あ、そうだったんだって。「遠い存在に感じてたけど、「Missing you」を聴いてたら泣きそうになった」って言われて、あの曲を書いて本当に良かったなって。
●改めて歌詞の大切さを感じましたか？
滴草：そうですね。鹿児島の街とか山とかそういう中でラジオから曲が流れてきたり、自分でCDを掛けて聴いたりすると、「ああ、私はここまでこれたんだ、すごいな〜」ってしみじみ実感しました。前は憧れのシンガーの歌が流れていたけど、今は自分の声も聴こえてくるから不思議な感じだし、頑張って良かったって思いますね。
●2005年の年明けが良い感じでスタートしましたが、20歳の区切りなんてありますか？
滴草：歌手になる前は20歳になったら結婚したいなって思ってたんです（笑）。あとは自分の理想のシンガーや女性像――自分のスタイルでやり遂げている強い女性――に16、17歳の時は20歳ぐらいにはなれているかなって考えていました。みんなからは「あんたは強いよ」って言われるんだけど、自身の中ではぜんぜん変わってないし、大人になるにはもう一歩勇気が必要かなって。勇気を与えていきたいって言っている自分が何ですけど。どんな事があっても楽しく笑って過ごして行くのにも勇気が必要だと思うし。
●2005年はどんな年にしたいですか？
滴草：誰よりも良い年だったなって言える年にしたい。音楽的な面では、去年はギターとかピアノも頑張ってやってきたけど、今年は歌にもっと力を入れたいです。
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