『If I Believe』以来、倉木麻衣が2年振りにオリジナル・アルバムをリリースする。タイトルは『FUSE OF LOVE』。直訳すると“愛の導火線”という意味である。そこには今年に入って彼女の口から幾度となく放たれた“愛”という言葉が重要なキーワードになっており、今までの音楽活動を通して感じてきた様々な愛を多くの人に繋いでいきたいという彼女の気持ちが込められている。収録曲もしっとりと歌い上げるバラードから、ダンサブルで躍動的なナンバー、そして女性のキュートな部分をフィーチャーしたポップ・ソングと、多彩な楽曲で構成された作品となった。今回本誌では、1曲1曲に彼女の想いが詰まった『FUSE OF LOVE』について、そしてアーティストとして音楽と向き合う姿勢について、倉木麻衣に話を聞いてみた。(INTERVIEWED BY EMI MORI)
●今回のアルバムはオリジナル・アルバムとしては2年振り、5枚目のアルバムという事になりますが、改めて思う事はありますか?
倉木麻衣(以下倉木):デビューしてからずっと音楽活動と学生生活を両立してきて、今年の春に大学を卒業して社会人になったんですけど、2年間アルバムが出せなかったというのは、ライヴ活動をしながら勉強もしてという中で…。でも今回は今までやってきた事を振り返りながら何か新しくグレード・アップしたアルバムにしたいなという気持ちから『FUSE OF LOVE』というタイトルを付けました。
●新しいアルバムを作りたいという気持ちは、『If I Believe』を作った後にすぐあったんでしょうか?
倉木:ライヴをしていくうちに、もうちょっとみんなで盛り上がれる楽曲が欲しいと思ったんです。その時に今度のアルバムにそういう曲を入れようかなとか色々考えていたんですけど、結局今回のアルバムを作り始めたのが今年の6月からで……。すごく短期間で作っていったんです。まずコンセプトを決めたんですけど、今までやった事を振り返った時に今までに色んな人と出会って愛をもらったので、今度は自分の中にある気持ちをみんなのもとに届けたいなって。だからそういうアルバムにしようと思って、1つ1つ取り組んできました。
●そういう思いが強かったから、制作期間が短くても集中して出来たんでしょうか?
倉木:これから音楽に専念していくという新たな心境を歌で表現したいなと思ったのが大きいです。
●今年に入ってすでにシングルを3枚リリースされている事も、そういう気持ちの表れだったりするんでしょうか?
倉木:そうですね。「ダンシング」なんかは、大学を卒業して新たな気持ちでという、変化の部分を書いた曲でもあるんです。それぞれの曲が日常生活で感じた事や、曲から浮かんだイメージを自分なりに歌詞にして表現して伝えたい気持ちが大きかったので……。
●大学を卒業して、音楽活動ひとすじで生活するようになって、精神的ゆとりが出来たのではないかと。
倉木:それはすごくありますね。時間に余裕が持てた分、スタジオにこもって音作りをしたり色々な準備をする時間が増えたし、今までやってきた事から自信が出てきたからこそ、幅広い面で携れるようになってきたと思います。これからはもっと音を追求して音楽一色で頑張っていけたらなっていう気持ちで一杯ですね。
●今回のアルバムの曲は外に向かっているように感じて、楽しそうに歌っている倉木さんの姿が浮かんできました。レコーディングも楽しい作業だったんでしょうか?
倉木:作業的には曲を頂いて歌詞を書いてレコーディングをして、という事を繰り返す生活を送っていたんですけど、その中で自分が思った事をストレートに表現していく事は、今思うと大変というよりは作り上げていく楽しさがあったと思います。そこで“次はこういう楽曲を作りたいな”という気持ちも生まれてきますし……。
●短期間で作るという事は、すごく集中力も必要だったと思うんですけど、それを持続する上で大変だった事はありましたか?
倉木:私の場合、歌詞をどういう風に書こうか煮詰まってしまった時は書くのをやめて、犬のキャスパーに「歌詞どうしよっか?」なんて言いながら公園を一緒に散歩して(笑)、帰ってきてからまた詞を書いてという感じでした。「I sing a song for you」という曲は歌うまでがすごく大変でしたね。始めから気持ちを込めて歌わなきゃいけない曲だなって思っていて、歌う前にスタジオの照明を少し暗くしたりして、バラードなので雰囲気作りから入りました。
●この曲には色々な感謝の気持ちが詰まってますよね。
倉木:この曲は自分の感情を一気に注ぎ込んで、主人公になりきって歌わなければいけないなと思ってたんです。だから最初は歌うのがすごく怖くて……。ちょうど詞を書いていた時に、ニュースで色んな事件が起きてて悲しい出来事が紹介されていて、そんな中で自分が何か出来る事はないかなって考えたんです。そこで生まれた歌詞でもあるので、軽い気持ちでは絶対に歌えないから、気持ちの持って行き方にはすごく苦労しました。
●今回のアルバムのレコーディングや作詞という作業の中で、それぞれの曲と向き合ったと思いますが、今までと違った部分はありましたか?
倉木:今回は1曲1曲にストーリー性を持たせて書いていったんですけど、詞の表現方法を若干変えていったりしました。「LOVE SICK」は、普段の日常生活の中でみんなが利用するメールを通じて恋愛の事を書いたり、「Honey, feeling for me」は女の子の甘い気持ちをお菓子に例えてチョコとかミルクとかそういう言葉を使ってみたり……。どの曲にもポジティヴな言葉は入れるようにしてますね。私自身も音楽で癒されてきた事がすごく多いので、私もそういう癒しを持った歌をみんなに届けたいなという気持ちが強くて、今回のアルバムも色んな“愛”を届けて、1フレーズでもいいから心に響くものがあればいいなって。
●曲のテーマも、身近な所から大きなものまで様々ですね。そういう事は曲を聴いた時の直感で思い浮かんだりするんですか?
倉木:最初に曲を聴いて“これは切ない曲だな”と思って書いたり、先にテーマを決めて書いたりしますね。
●中には先にこういう曲を、という感じでイメージをを伝えて作って頂いたものもありますよね?
倉木:「Don't leave me alone」という歌謡曲っぽいバラードがあるんですけど、この曲は切ない恋の気持ちを表現したような曲を作って頂けたらという感じで、こちらからリクエストして作って頂いた曲です。あとは「P.S2MY SUNESHINE」や「ダンシング」もそうですね。「Love,needing」をリリースした時から、自分の音楽の幅を広げようと思って、アレンジの部分やジャケットの部分だったり、幅広い面で携わるようになってきて、セルフ・プロデュース的な事もやるようになったんです。それで今回のアルバムもスタッフの方と一緒に考えて作っていったという感じです。
●色々な部分に携わるようになったのは、自分の今までの活動から生まれた自信も大きく影響してるんでしょうか?
倉木:それはすごくあると思います。私の中で一番大きく歌に対して思いを強く持たせてくれたのがライヴだったんです。自分の歌に対するお客さんの反応が直接分かる訳ですよね。そこから自信やパワーをもらえるし、もっとみんなと一緒に歌える楽曲を作りたいという音楽に対する熱い気持ちを(ライヴは)更に持たせてくれたというのがあるので、今回のアルバムでもライヴでみんなと歌いたい曲が入ってます。
●今まではライヴを見る立場だったのが、自分でライヴをやるようになり、そして今はお客さんと楽しみを分かち合うというように、倉木さんのフィールドが変わってきてると思いますが、そういった状況に大してはどう思いますか?
倉木:自分の意志をすごく持つようになってきたと思います。デビューした時は右も左も分からない普通の女の子からスタートして、そこから色んなプロセスを通してステップ・アップしてこられた自分を実感する事で、そこに忘れてはいけないものを持ち続けながら頑張っていくという事が、私の中にポリシーとしてあって……。感謝の気持ちだったり、人との出会いを大切にする事だったり、何でもプラス思考で考えていく事を絶対に忘れないでいようといつも思ってます。それを歌で表現して、自分に言い聞かせてる部分もあるし、みんなにも頑張って欲しいと思うし。今やってる事は、自らを高めてくれる大切な存在なので、楽しんでやれたら一番いいなと。
●そういう気持ちで作られた作品を、間もなく大勢のみなさんに聴いてもらう訳ですが、反応は気になりますか?
倉木:やっぱりちょっとドキドキしますね。でも自分がここまで信じて作品を作ったんだから、自信を持ってみんなに聴いてもらいたいとも思います。それが芯を通して持っている所でもありますが。音楽ってすごい不思議で、風の様に入ってきて、人の心をさらっていくじゃないですか(笑)。そこでポジティヴに思えるようになったりとか、悲しい歌だったら自分まで悲しくなったり。私の歌もそういう空気みたいな存在でいられたらなっていうのは常にあります。メロディを好きになってもらえるだけでも嬉しいし、声が好きだとか、このワン・フレーズが好きとか言ってもらえるだけでも嬉しいので、曲を通して何かしら感じてもらえるような、心に響くようなアーティストになれたらといつも思ってます。
●そういうすっと耳に入ってくるような曲がたくさんありながらも、今回の作品のテーマは“愛”というスケールの大きなものですよね。今まで書いてきた歌詞は様々な内容がありますが、そういうものを読み返して自分が変わったとかそういう事は感じたりしますか?
倉木:歌詞を書いている時は実感はないんですけど、後で振り返って気付く事は多いですね。今回のアルバムを作って、現時点で成長したという意識は私の中では分からないですけど、これからツアーがスタートすると“ここはこうした方が良かった”とか色んな事を思うでしょうね。
●そのツアーがもうすぐ始ろうとしてますが、やはり楽しみですか?
倉木:今ファンクラブ・イベントで色んな場所を回っていて、まだツアーのリハーサルとかはやってないんですけど、秋からのツアーは楽しみでもあるし、新曲を歌うので不安もありという感じです。でもライヴ自体は楽しめる事を前提として、今回は心と心の繋がりが持てるものにしたいなというのはすごくありますね。会場の規模が大きくなっているので、端にいる人にも届く歌い方を研究したいと思ってます。
●今話に出たファンクラブ・イベントは、ライヴとは違う形でファンの方と触れ合う場ですが、廻られていかがですか?
倉木:ライヴとは違って、ステージ上でコミュニケーションを交わす事が出来るので、この感覚をライヴでも持てたらなとは思いました。ライヴだと歌ってMCもあるんですけど、なかなかみんなとコミュニケーションが取れないので。あと今、ファンクラブ・イベントで新曲を歌ってるんですけど、その反応がすごくダイレクトに返ってくるので嬉しいです。でも新曲を歌う時は自分の内面を見られた時の恥ずかしさみたいな感じがあったり、受け入れてもらえるかという不安もあったりするんですけど、“良かったよ!”とか声を掛けてもらえるとそういう不安もなくなって自信を持って歌う事が出来るというか。
●今年の前半は作品をコンスタントに発表して、今回のアルバム・リリースを通して今年の後半を迎えていますが、倉木さんにとってこの後半はどういう気持ちで迎えようと思っていますか?
倉木:まず秋からはツアーがスタートして全国を廻ります。その間に新曲もリリース出来たらなと思っています。でもプライベートも充実させたいなっていう気持ちもあります(笑)。スキューバダイビングをやりたいとずっと思ってるんですけど、時間が取れそうにないですね……。お休みがもらえたら、絶対に海の中の世界が見たいです! 人生観が変わるって言いますし。
●これから書く詞にも影響するかもしれませんね。今までの倉木さんの歌詞って浜辺とかビーチサイドを書いたものがいくつかありましたよね。それで倉木さんが海の中を見ちゃったら、新しい言葉も出てくるかも……。
倉木:これからの曲作りの為に潜らせて下さいって……(笑)。
●そう考えると、生活自体が曲に反映される訳ですから生活と音楽が太い線で繋がってますよね。
倉木:それはすごく感じますね。日常生活の中でアンテナを張り巡らせておかないと、自分が体験した事をリアルに伝えたいと思うし、自分がまずポジティヴじゃないと言葉も嘘になってしまうし……。だから常に前向きで色んな所で刺激を受ける事は必要ですね。詞もこれからももう少し具体的なものが書けたらなと思います。
●人によっては歌詞に自分の内面を出すのが恥ずかしいという方もいますが、倉木さんはどうですか?
倉木:私もそうですね。デビューしたばかりの頃は、自分の気持ちを言葉に出して伝えるという事が出来なかったんです。でもそれをこれからも歌で表現し続けたいです。
●歌い方の部分では前と変わったと思う所はありますか?
倉木:技術的な部分では根本的には変わってないと思いますが、曲によってコーラスを加えたり、アレンジを工夫したりというのはあります。「ダンシング」は大サビの部分が“えっ!?”と思わせるようなアレンジしてみたり、色々試行錯誤してますね。より多くの人に自分の音楽を聴いてもらって共感してもらいたいですね。
●「chance for you」はハンド・クラップが入った温かいアレンジなっていますが、あれは最初からそういう案があったのでしょうか。
倉木:最初はクラップを入れてなかったんですけど、歌っていくうちに、この曲はライヴでみんなと一緒に歌いたいと思ったところから“ちょっとハンド・クラップを入れてみよう”という軽いノリでスタッフの方に集まってもらって録ったり……。
●今回のアルバムを通して聴いた時、とても色彩豊かな感じがしました。
倉木:そうですね。全部の曲に色があると思います。
●確かに色のイメージが加わると、曲の雰囲気が更に具体的になりますね。
倉木:音楽って香りにも例える事も出来ますよね。私はけっこう“この曲はこの香りっぽいな”とか思ったりします(笑)
●ちなみに、この収録曲の中で一番香りを発している曲は?
倉木:「Honey, feeling for me」ですね。バニラとかチョコとかの甘い匂いがしてる。「LOVE SICK」はちょっとスパイシーな感じかな。
●こうしてアルバムが完成して、改めてこういう所聴いて欲しいというのはありますか?
倉木:今回のアルバムは、聴いた方が1フレーズでも何かしら感じて前向きに思って頂けたそれだけで幸せなので、是非聴いてみて下さい。
●これから始るツアーについての意気込みもお願いします。
倉木:秋からツアーがスタートするんですけど、今回は2ケ月ぐらいの短期間ですが、その間は密度の濃い、心と心の繋がりを持てるようなライヴを目指して頑張りたいので、楽しみにしていて下さい。
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