「骨太」「熱い」「パワフル」「叙情的」……彼らを形容する言葉は色々あるけれど、もしもそれら全てを総称して彼らの作品を表すとするならば、私は“ヒューマン”という言葉を選ぶだろう。サウンド・アプローチはそれぞれ違っても、彼らの作品はどれも熱い血が通った人間味の宿った温かいものばかりだ。こんな風に音楽を通して、アーティスト自身の味わい深い人間性を感じられる作品って、実は最近とても少ない……。
そんな彼ら3人がおよそ4ケ振りにリリースする新作「君だけに気づいてほしい」は、“アコギとコーラスワーク”を核としたサウンド作りはこれまでと同様だが、今までのようなヘヴィさはなく、ナイアガラ・サウンドを彷佛とさせる心地良いサマー・ソングに仕上がっている。また作詞はdoaでは初めてギターの大田紳一郎が担当。様々な新しいアプローチが見られる今作について、B'zのライヴ・ツアーやキャンペーンなどで忙しい中、ベースの徳永暁人とギターの大田紳一郎に話を聞いてみた。(INTERVIEWED BY YUKARI MATSUBARA)
●前作「青い果実」がエレキギターをフィーチャーしたハードな曲だったし、doaさんというとどちらかというとマイナーなイメージが強いので、今回のメジャー感溢れる新しいアプローチに正直驚きました。
徳永暁人(以下徳永):わりとシングルはヘヴィな作品が続いていたので、自分達の中でもうちょっと明るい曲を作ろうかって漠然とあったんです。いつも僕達のサウンドの核となっている「歌」と「コーラスワーク」と「アコギのフィーチャーリング」の仕方っていうのは常に意識していってるんですけど、そこを今迄以上に出したという感じでしょうか。また今回は、メロディと歌詞に一番重点を置きました。時間もその部分にかなりさいて練り込んでいきましたし。その結果あえて歪んだギターを入れない形のロックな曲が作れるなって所に行き着いたんですけど。
●私世代だとどうしても山下達郎さんを感じてしまう曲調ですが、その辺りはどうですか?
徳永:僕らははぴいえんどとかをカヴァーしたりもしていますけど、ナイアガラ・サウンドって言われる音楽とか、そこら辺の日本のロックをリスペクトしてるんで、実際僕自身よく聴いていましたし。山下達郎さんもビーチボーイズをカヴァーされていたり、その辺で影響を受けてると思うんですよ。ただそこでdoaっていうのはもう1つロックっぽさっていうか、骨太さみたいなものを出したいんで、doaなりにまたアレンジした形になったと思うんですけどね。
●アコギが際立った、とてもシンプルなオケになりましたね。
徳永:ワンマン・ライヴでアコースティック・コーナーからいきなり始めたんですけど。そこにはドラムもいなけりゃ、歪んだギターもなくて、3人の声とアコギしかなかったにもかかわらず、会場一体となって盛り上がってロックしたっていうのが自信にもなって。そこから、じゃぁ作品の方も歪みをなくしてみようかっていう、自信につながった気はしています。
●アレンジは試行錯誤された感じですか?
徳永:アレンジはスタジオで変えようかってつもりで、僕が仮にデモをアレンジしたものを持ってきて、実際ヘヴィなギターを入れたりして試したんですね。でもやっぱり合わないんですよ。ギターの裏打ちでジャンジャンジャンってスカみたいなレゲエみたいなものが入ってるんですけど、そのビートにはディスコみたいなグルーヴィがどうしても合うんで、それで最終的にはデモに近い形になりました。
●楽器は全て生ですか?
徳永:ドラムも生に差し換えていますね。
●じゃぁ、わりと制作時間が長かったんじゃないですか?
徳永:これはわりと長い方でしたね。特に今回はミックスに時間をかけました。今まで自分達の中では、実はちょっとおざなりになっていたかもしれない部分まで突っ込んでやってみましたね。とにかく今回は3人の存在が分かる音像作り、それだけを目指して録りの段階からじっくりやってきたんで、ミックスにはすごい時間をかけました。
●立ち会われて?
徳永:そうですね。ほんのちょっとの差を上げたり、下げたり……。
大田紳一郎(以下大田):徹夜で、朝までやっていたりとか。こだわって作っていきました。
●作詞は初めて大田さんが手掛けられていますが?
大田:この曲はメロディが良かったんで、メロディを活かすための歌詞を書かなきゃなと思って。久し振りに歌詞を書いたんですよ。ちょうどB'zのツアーの時で、ちょっとひと段落っていうその合間に、「書かない?」って徳永君から言われたんで、「じゃぁ、書こうか」みたいな感じで始めました。詞の内容的には、ちょっと1回立ち止まってみようよっていう……。doaは今までずっと前へ前へ進んでいこうよみたいな世界観を歌ってきたんですけど、ちょっと止まってみようかっていう思いを込めています。ちょっと止めたいかなと思いまして。まぁ1周年っていう事もあるので、1年を振り返ってじゃないけど、ちょっと立ち止まって少し自分の事を考えてみようかなって。そんな所からパッと浮かんだ歌詞です。
●徳永さんはその大田さんの思いは歌詞から感じましたか?
徳永:(笑)そうですね〜。一番気に入ったのが、「ジーンズは今のままでいい」っていうフレーズなんですけど。僕らよくベルボトムのジーンズを履いてるんですけど、ふと「これどうなの?」「このジーンズで本当にいいのかな?」って話てたところだったんで(笑)。
●でもここ、すごく聴いていていいですよね?
徳永:うん、すごくハマリいいですよね。
大田:「ちょっとだけ成長してみたい」っていう部分がスルッと自然に浮かんできたんですよね。それが決まったら後はスッとこう、楽しみながら書いていきました。珍しいですけどね、そんなふうにスラスラ書けるのも。
●徳永さんも、大田さんもそうですが、作曲をされる方が歌詞を書くって、すごく強みだなって感じたんですよね。ちょっとした譜割(詞ハメ)の感じが絶妙に気持ちいいんですよね。
大田:あっそれはね、なんかこだわってしまいますよね。まぁ、それがいい時もあれば悪い時もあるんでしょうけど。ハマリ過ぎて良くないっていう場合もあったりするんで。言葉のインパクトとかを気を付けるようにはしますね。
徳永:今回の歌詞はメロディを汲み取って書いているなって感じましたよね。例えば「い」って言葉と「あ」っていう言葉は音楽的に聴こえ方が違うんですよ。「き」と「お」とでは聴こえ方の明るい感じとか全然違うじゃないですか。こうしたいんだよって作曲してきたメッセージを、大田さんも汲み取って歌詞を付けてきたなっていうのが感じられてすごく嬉しかったです。
●3人共それぞれ作詞されるじゃないですか。他のヴァージョンもあったんですか?
徳永:実は最初僕がデモを作ってきた時は、全然違う歌詞を付けてきたんですよ。すっごいハッピーな恋愛ソングで。実は歌も歌ってみたんですけどね。出来上がってみて、もうひと押しなんか違うな。もっとなんかないかなっていう所があって。で、みんなで考え始めて。大田さんが持ってきた物がすごくハマったんで、これでいこうと。
●ハッピーだった歌詞が、ちょっと違うと感じられたのは?
徳永:明るい曲が欲しいっていう漠然としたスタート地点があって、そこからパッとイメージした歌詞がすごくハッピーなもので、そこからこのメロディが出てきたんですけど、明るい曲に明るい歌詞が付いているだけの作品になってしまって面白くないというか。やはりどっかにロック・スピリッツみたいなモノが欲しいなって感じて。そこであえて、もう少し掘り下げているような歌詞が付いた方がいいんじゃないかなと思ったんです。
●タイトルはすぐ出てきたんですか?
大田:実は僕は“In my mind”の部分をタイトルにしようかと思っていたんですよ。自分に約束しようっていう。それがこの歌詞の一番言いたかった所だったんで、そっちをタイトルにしてたんですけど。
徳永:でも僕が「君だけに」がいいよって押したんですよ。最初「君だけに」だけがいいんじゃないって強くアピールしたんですけど、だったら「気づいてほしい」も付けたいって大田さんに言われて、最終的にこのタイトルになりました。
●男性からある特定の女性に向けた純粋なラヴソングだなって感じましたが。
大田:今回の曲は、女の子を登場させようと思って書いていったんですよ。何故だろう? 意外と徳永君が書く曲とかメロディって、アレンジも含めて自分の書く曲に比べて女性的な何かが入っているんですよ。だから女性を登場させた方がメロディと合うのかなって思いました。
●他のdoaさんの歌詞も比較的、恋愛ものが多いですよね。
徳永:僕の中では恋愛も社会風刺も人生観も境界線はないんですよ。普通に生きていても、恋愛に悩んでいても実は自分の進路に悩んでいたりとか、上司に怒られたから彼女に当たっちゃったとか、実は全部がリンクしているじゃないですか。だから別に1曲の中で、「君が好きだ」って叫んでいたとしても、それはすごい好きでいるためには自分が頑張らなきゃいけないとか、その色んなものがくっついてくるじゃないですか。だから僕はあまり分けて考えていないんですよね。
●その中で、あえて恋愛のストーリーに置き換えて歌にしている意識はあるのでしょうか?
徳永:年に関係なく恋愛って素敵な事だし、そこにこう何か色々なものがのっかって生活が成り立っていると楽しいじゃないですか。だから異性が必然的に出てくる事が多いですよね。
大田:僕は、今までも色々歌詞を書いていたんですけど、やはり自分の事を言おうとする歌詞が多いんですよ、過去の作品を振り返ると。自分が苦しいとか、そういうのをよく書いていたんです。詞ってその時の環境っていうか、その時の自分が出ると思うんですよね。その時は多分辛かったと思うし、救いがない歌詞もあったりして、それはそれで自分は好きだなとも思うんですけど。だけど今は多分、ハッピーっていうか楽しいんでしょうね。そうじゃなきゃ、今回のような歌詞は書けないと思うんですよ。毎日が何か刺激があってハッピーじゃないと、楽しい詞は書けないんじゃないかって感じています。
●個人的に「目を閉じれば浮かんでくる 僕らの始まった場所 そして必ず 僕らが戻る場所」っていうフレーズが好きなんですよ。
大田:これは、僕はdoaの事を歌詞に入れたんですよ。場所っていうのは、要するに原点ですよね。これから変わっていくとしても、戻る場所はここにあるっていう……。
●ところで、吉本さんは今回の歌入れの時はどんな感じでしたか?
徳永:今回は時間をかけましたね。日本語ってぶつ切れの発音の言葉なんで、こういうディスコっぽいノリのビートには結構やぼったく聴こえちゃうんですよ。英語ってそういうビートにのるような発音がもう最初からあるんで、普通に歌っても簡単にのるんですけど、そこをいかにグルーヴを持たせて日本語を発音させるかっていうのに時間をかけましたね。
●それって具体的にはどんな方法をとったんですか?
徳永:例えば日本語の「君」は“キミ”の2語だけど、これをあえて英語に置き換えて、“Key”と“Me”にしたりして歌ってもらいました。そんな感じでグルーヴ作りに時間をかけました。
●そこはやはり気持ち良さみたいなものを重視したかったのでしょうか?
徳永:やっぱりね、グルーヴが大事ですよね。だからそこを重点にこだわりました。
●心地良さの中に、何とも言えない切なさがフレーバーされた曲ですが、もしこの作品を写真に撮ったり、絵に書くとしたらどんな風景になりそうですか?
徳永:僕は夕暮れ時の雨上がりの校庭。ちょっと水たまりが残ってるみたいな、女子が向こうの方に残ってるみたいな! 夏の終わりの匂いがしそうな感じですかね。
大田:僕は家の中で、アイスカフェモカでも飲みながら……、クーラーの効いた涼しい部屋の中で(笑)、そんな1枚の写真って感じですね。
●窓の外は?
大田:ビル。都会ですね。椅子じゃなくて、ラグが敷かれたワンルームなイメージ(笑)。
●それこそ山下達郎さんのジャケに出てきそうな雰囲気ですね。
徳永:鈴木えいじんさんのイラストですよね。
大田:うん。そういう雰囲気ですよね。
●続いて2曲目の「Tell me what I got to do」は、どんな曲になっていますか?
徳永:これは僕らがわりと得意とするウエスト・コースト・ロックサウンド全開な、カラッとした曲になっています。いつもシングルに英語曲を入れるという事をライフワーク的にやっているんですけど、吉本君が英語詞を書いてきて。ちょうどレース・シーズンが始まってすぐくらいに書いてくれた歌詞なんですけど、その頃レースの方で苦戦している頃だったみたいなんですよね。で、書いてそのまんまレコーディングをして、またそのまんまレースに戻ったらフランスで準優勝したっていう。そういう思いが詰まった歌詞で。これを歌った事によってまたレースでもいい結果が出せたという、そんなエピソードがあります。
●英語詞ですが、内容はどんな感じなのでしょうか?
大田:自分は何をすればいいんだろうっていう自問自答の歌詞ですね。
徳永:彼は常に自分の中で物事を解決しなきゃいけない状況にあったりとか、性格的にも自分で完結出来る人間だと思うんですよ。そういうのが、すごく出ているなって思いますよね。自分の世界をつきつめるみたいな所があって。
●曲先ですか?
徳永:そうですね。イメージを伝えて渡す時もあるんですが、今回は好きに書いてみてって曲を渡したら、もうすぐに書いてきたんですよ。それだけ言いたい事があったんじゃないですかね。
●聴き所は?
徳永:サビで3人がハモってるんですけど、今迄もアルバムとかですごくたくさん重ねたりとかして、綺麗にまとめる手法をとっていたものを、逆に今回は3曲共そうなんですけど、あまり綺麗に重ねずに、本当にダイレクトな歌い方で、自分達の好きな節回しっていうか、3人3様の節回しなんだけど1つになってるっていう歌い方をしています。だから一番ダイレクトに伝わる作品になっていると思います。
●そういう挑戦をして新たに得たものってありますか?
徳永:ライヴをやった時、要するにCDを再現しようと思ってライヴをやっていたんですけど、ライヴの方がいいものもあったりするんですよ。じゃぁ、今度はライヴの良さっていうものをCDにしてみようかって思って。本当に3人でしかなくて、ギターだけがここで鳴っていて、それでも伝えられるんじゃないかなっていう所からこういうサウンド作りが始まったんですけど。
●では3曲目「カンニン袋を切り裂け」の方はどんな感じになっていますか?
大田:次にシングル・カットしますから。あまりにも周りの反響が大きいので(笑)。
●どんなところがですか?
大田:まず、タイトル!
徳永:これね、僕本人は大真面目なんですよ。でも必ず笑われるんですけど。
●徳永さんのタイトルってインパクトありますよね?
徳永:タイトル付けるの実は好きなんですよ。映画とかに違うタイトル付けて喜んでるガキだったんですよ。
大田:1人で?
徳永:そう。「ジョーズ」じゃなくて「何とかのフカヒレ」とか。ホラーっぽい感じとか、そういうの付けてみるとまた違って見えたりするわけ、自分の解釈で見れたりして。
大田:そうかな?? 変わってるな〜(笑)。
徳永:ん〜。とにかくタイトル付けるの好きなんですよね。まぁとにかくこの曲はストリートでパッとギターだけ持って来て、3人で歌って、それだけで出来てしまうような曲を作りたいなっていう所がアイデアになっています。パーカッションみたいな音は、スタジオにあったバケツひっくり返して叩いてるんですよ。で、最後に思いっ切りそのバケツを蹴っとばしている音とかも入っていたり。
●注目の歌詞はどんなメッセージを込めてみたのでしょうか?
徳永:“堪忍袋の緒が切れる”っていうじゃないですか。あれって溜めるから切れるわけで、怒りだけじゃなくて、欲望とかも含めて、溜めないで切り裂いちゃってどんどん表に出していったらみんながもっと本音で語り合えるんじゃないのっていうメッセージを入れています。そこでケンカが起こるかもしれないけど、逆にそれでもっと仲良くなれるかもしれないし。大人になると言いたい事がどんどん言えなくなってくるでしょ。建て前の世界で生きていくようになって。もっと自分を主張して生きていった方がいいんじゃないのかなって思うんですよね。僕も高校生の頃とか音楽で喰っていきたいってずっと言いたかったのに言えなくて、ずっと悩んでいたんですよ。結局は堪忍袋の緒が切れて、親に言ってこの道に入ろうとしたんですけど。それ以外にももっとそう感じる事があって。だからそういう感情がヒントになってるんですけどね。
●もう次の構想とかあるんですか?
徳永:そうですね。もうレコーディングに入っています。
●今回の世界感から、次はどんなアプローチで攻めてくるのか、楽しみですけど。
徳永:振り返れば1年経っていて、その中でシングル4枚、アルバム1枚出していて、意外にたくさん出せたなっていう。常に曲は作ってるんで、どんな作品を出すかっていうのは、結果論ですよね。
●なるほど。次も楽しみにしています! では最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。
徳永:ミュージックフリークの方にも葉書とかたくさん頂いていまして、連載など読んで頂いている方にはすごく感謝しています。「君だけに気づいてほしい」っていうのは、季節の変わり目とかに何かちょっと変わってみたいなって思うような事があると思うんですけど、そういう方々の背中を押してあげられるような曲になればいいなと思うので、是非聴いて下さい。
大田:今年の夏は「カンニン袋を切り裂け」って感じで。カンニン袋を切り裂いて頑張って下さい!!(笑)。
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