B'zの松本孝弘。彼は、B'zという唯一無二のユニットにおいては、優れたプロデューサーであり、コンポーザーであり、そしてギタリストであるという複数の顔を持つ。だが、それでもやはり僕らが松本孝弘と聞いて思い浮かぶのはギター・ヒーローとしての松本像だろう。美しい音色と流麗な指使いで時に激しく、時に甘美なギター・フレーズを紡ぎ出す松本のプレイは、今や日本のギター・キッズ憧れの的だ。それは、世界に冠たる最高のギター・メーカー“Gibson”社が日本人で初めて彼のシグネチャー・モデルを製作した(世界中でもわずか5人目)という栄誉ある事実からも伺い知れるが、もちろん当の本人もギターへの愛着は並々ならぬものがあることは周知の事実である。
そんな松本が、昨年、ギタリストを中心とした弦楽器奏者のためのレーベル“House Of Strings”を立ち上げた。このレーベルは、よりギタリストとしての松本の個性を追及するレーベルであると同時に、当初から松本以外の優れたギタリスト達も積極的に紹介していこうという主旨のもとに始められたものだ。昨年リリースの第一弾アルバム『House Of Strings』は、松本のソロ・アルバムとして、ギターとオーケストラを融合したサウンドで繊細かつ雄大なインストゥルメンタル・ミュージックを表現し、注目を浴びた。(コラボレート・ライブも行われ、大盛況!)
そして、いよいよそのレーベル第二弾アルバム『Theatre Of Strings』がリリースされる。今回、松本は自身の他に、このアルバムでは日本を代表するギタリスト3人を新たに紹介している。その3人とは、TUBEの春畑道哉、DIMENSIONの増崎孝司、そしてOOMの大賀好修、普段はバンドの一員として活動を続けているギタリスト達。だが、いずれも、そのテクニックは日本でも指折りのトップ・プレイヤーとして評価の高い面々だ。
松本のこの人選は、もちろん各自のプレイヤーとしての評価に拠るものである事は明らかだが、それにしても、ここにはギタリスト同士の熱い友情を感じずにはいられない。実際、筆者は10数年前、松本と増崎がギター・カッティングについて熱い議論を交わしていた(もちろんwithギターで)姿を目撃したし(その頃はまだ2人共今ほど有名ではなかった)、春畑は95年のB'zの“BUZZ”ツアーの楽屋で談笑しているのを見た。そういう事からも松本、増崎、春畑はすでに10年以上のつきあいのある盟友同士といえる仲だろう。そして、参加メンバーの中で最年少の大賀(ZARDや倉木麻衣のライブ、稲葉浩志ソロ・ツアーでプレイ)が、今回のプロジェクトに参加する事は、若手のギター・プレイヤーを紹介するこのレーベルの意義にそっていると思う。
そういったギタリスト達が集まって作り上げたアルバム「Theatre of Strings」。中身はさぞやギタリスト御用達の超絶プレイ満載、マニアックな内容になるかと思いきや、さにあらず。収録されている全13曲中12曲は、誰もが知っている名作映画のテーマ曲や主題歌の数々(1曲はメンバー全員のプレイによるオリジナル曲)。誠に誰もがとっつきやすいインストゥルメンタル・オムニバス・アルバムに仕上げられていた。
では、その内容に目を移してみよう。オープニングナンバー「MY FAVORITE THINGS」で松本は、普遍的な美しいメロディを表現力豊かにプレイし、「THE GODFATHER」では哀愁かつ甘美な世界にいざない、また、斬新とも言える「燃えよドラゴン」をクールにきめている。 続いてTUBEの春畑道哉がチョイスしたのは「OVER THE RAINBOW」「戦場のメリークリスマス」「エマニエル夫人」。春畑のムーディな好みが反映された選曲、どれもが彼のロマンチックなギタープレイ満載だ。また、ギタリストとしての才能のみならず、もともとピアノ曲だった「戦場のメリークリスマス」をギター・アレンジにする発想や、「エマニエル夫人」では、70年代ムードを出すためのレコード・ノイズを挿入するなど、微妙なサウンド・アレンジのセンスにも斬新さが光る出来栄えだ。
代わってDIMENSION増崎孝司は「MOON RIVER」「ミッション:インポッシブル」「SCARBOROUGH FAIR」の3曲。さすが日本のトップ・フュージョン・バンドのギタリスト、ギター1本から繰り出される表現力の多彩さは、まさに弦楽器を操る達人。特に「SCARBOROUGH FAIR」では、サイモン&ガーファンクルの名曲をその世界観まで見事に表現した匠の技は一聴の価値ありだ。
そして、大賀好修が選んだのは「ニューシネマ・パラダイス」「トップガン」「星に願いを」。彼の伸び伸びとした正確なギター・プレイや、メロディアスなトーンには先輩、松本孝弘へのリスペクトを感じさせる。彼もまた先輩の3人同様、年代は違えど、ギターに魅せられたフリークスの一員であることを証明する音源だ。
さらにもう1曲、このアルバムには4人のギタリスト達によるオリジナル共演曲「THE MAGNIFICENT FOUR」が収録されている。こちらは気心の知れた4人がギターで会話をしているかのような趣あふれる軽快で楽しげなナンバー。
4人のギタリスト達による映画主題歌の数々を収録したこのアルバムを聴くと、ギターという楽器の素晴らしさを思い知らされる。と、同時にギターに魅せられ、プロギタリストに昇り詰めた男達の、慈しみ溢れる浪漫も、たっぷりこの作品集からは感じ取る事が出来る。
是非、この秋は、日本が生んだギター・マエストロ達が招待する「魔法の弦楽器の殿堂」へ。そして、彼らのその指使いに陶酔して頂きたい。(TEXT BY SAI SAIDA)
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