2005年12月16日、17日の2日間、デビュー5周年記念最後の締めくくりとしてGARNET CROWが行った完全招待制のライヴ at 大阪市中央公会堂。その華麗なるライヴの模様を誌上レポート!(TEXT BY SAI SAIDA)
寒風吹きすさぶ12月の夜にそれは行われた。完全招待制、800名×2日間、合計1600名しか参加出来ないGARNET CROWのライヴ。場所は、大正時代に建てられたネオ・ルネッサンス様式の歴史的建造物でもある大阪市中央公会堂。周囲もクリスマス・イルミネーションで彩られ、プレミア感を高められる中、会場に着くとまずはゴージャスな座席チケットが手渡された。さらに中に入ると、確かにそこは日常とかけ離れた心奪われる空間。左右に大理石の円柱が立ち並び、頭上にはシャンデリア。ステージは赤いビロードの緞帳が降ろされている。そして、流れるBGMは室内楽。レトロ感いっぱいの外観、内装、雰囲気も、今宵行われるガーネットのライヴ・イメージに相応しい。
いつものホールと違って囁き声も響く深い喧騒の中、18時ジャストにライヴはスタート。デビッド・C・ブラウンのドラム・カウントが響き、スルスルと上がった緞帳の向こう側にお馴染のガーネットとバンド・メンバーの姿が、と思いきや、まずはそのきらびやかな姿に目が奪われた。男性陣はすべて黒のスーツ(キーボードの古井弘人は黒スーツに白シャツ、ギターの岡本仁志は白シャツ黒ネクタイに粋なハンチング帽)、そして女性陣、センターのヴォーカル中村由利は黒のベロアのジャケットにピンクのフレア・スカート、髪はおおぶりなカールが施されている。そしてキーボードのAZUKI 七は、胸元の開いた黒のロング・ドレス姿で登場。まるで、それは中世の王侯貴族を思わせる装い。まばゆい照明に浮かび上がる姿は、ため息が出るほどに美しい。
視線がステージに釘付けにされる中、聴こえてきたのは「Mysterious Eyes」。初期の名作を落ち着いた演奏で締めて、さぁいよいよ神秘のステージの始まりだ。
「皆さん、GARNET CROWのプレミアム・ライヴへようこそ。デビュー5周年という節目の年の締めくくりに、この様なライヴを行えて本当に嬉しく思っています。今夜は私達も精いっぱい頑張りますので、最後まで思いっきり楽しんでいって下さい」
中村の一言に続いては、ますますオーディエンスを別の世界にいざなう「flying」、そして「夏の幻」のアコースティックな響きが陶酔を運んでくる。さらに追い討ちをかけて続くMC。「レコーディングの帰りにこの建物を見に来て、そこに浮かんでいた月との対比があまりに神秘的で、そのイメージを皆さんにもと思い、幻想的な曲を何曲か……」と前置きして「Timeless Sleep」「夕月夜」「未完成な音色」と続けた3曲はガーネットのダーク・サイド系の代表曲。前半からこのヘヴィでペシミスティックな感触に呑み込まれた茫然自失の輩多数。立ちすくむのか、うずくまるのか、スクリーンに映し出される歌詞の一言一句に感情が震わされる。そのまま深く「水のない晴れた海へ」へ沈み込み、そして「Holy ground」。最後の中村の崇高なファルセットで昇天させられるまでの十数分間、ここはちょっと神がかり的な時間の流れが会場を支配していた。
そんな流れを和らげるべく、中盤では、ソロ・デビュー5周年を果たしたギターの岡本仁志が「皆さんのお口よごしに……」と「クリスタル・ゲージ」をおおらかに歌い、続く「call my name」〜「永遠を駆け抜ける一瞬の僕ら」の3曲では、牧歌的でおだやかなGARNET CROWの世界観が提示される。このブロックはさしずめオーケストラの第2楽章といったところか。それにしてもガーネットの楽曲の明暗の振り幅は広い。それはまるで人間の一生を描いているようだ。そんな事を考えさせながら、ライヴは後半へと向かっていく。
「今年一年はどういう年でしたか?」との中村の問いにメンバーが答えていくMCコーナーは、各自の個性が窺えた貴重な瞬間。4人の生真面目な対応に、GARNET CROWの誠実な音楽性の原点を垣間見た。
そうして、続いては彼らの楽曲の中でも人気の高い「夢みたあとで」。回り出したミラーボールの照明効果の美しさにも目を奪われたが、ふとどうした事か、曲中で感極まった中村の歌声が一瞬止まってしまった! 涙ぐむ彼女を温かく包み込んで続けられる演奏、このアクシデントは、逆にバンドとしてのGARNET CROWの一体感を見せられた思いで感激的な一幕だった。
続く「千以上の言葉を並べても...」からは中村の声も見事に復帰、最新曲「晴れ時計」、力強い「二人のロケット」情熱的な「僕らだけの未来」、そして無限の可能性を感じさせる「君の思い描いた夢 集メル HEAVEN」とボルテージをいっぱいに引き上げ、クライマックスを本編最後まで続かせる流れはまさにフォルティシモの響き、圧巻だ。そして、最後に何度も"ありがとうございました"と客席に向かって呼びかける中村と笑顔で応えるメンバーの清々しき姿、このバンドを5年間応援し続けてきて良かった、とオーディエンスが心から思える瞬間だった。
割れんばかりのガーネット・コールに導かれてスクリーンにはシングル・ヒストリーの映像が……。その最中に再び登場したメンバーが披露したのは耳慣れない楽曲。それはこの夜のために作り上げられた新曲「春待つ花のように」。この曲もいつしか彼らの名曲の1つに育っていくのだろう。
「シラーは“人生は退屈すれば長く充実すれば短い”と言いました。今夜は何だか時間があっという間に過ぎてしまいました。〜 この5年間みなさんに励まされ続けてここまで来ました。来年からもよろしくお願い致します!」
中村の言葉の後に「Last love song」が、そして、最後の最後に「スパイラル」がじっくりと、勢いよく演奏された。名残を惜しんで何度もリフレインされる最後のフレーズ。全てが終わった時、会場にはきらめく光が満ちていた。緞帳がいったんメンバーを隠し、再びカーテンコールの拍手と共に引き上げられ、下がるその刹那に感じた幸福感、それはきっと、そこに集った全ての人達に降り注いでいたに違いない。
この日、僕は“真冬の夜の夢”の存在を知った。
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