上木彩矢

1st Full Album
『Secret Code』

2006.7.12 Release


2006年3月にメジャー・デビューして以来、3ヶ月連続シングル・リリース、そしてライヴと、自身の音楽を着実に形にしている上木彩矢が遂に1stフル・アルバム『Secret Code』を7月12日にリリースする。今作のテーマはずばり“白と黒”。彼女が今までの取材で度々口にしていた“多面性”を、更に突き進めた形でもある。シングル曲を含む全13曲で構成されるアルバムには、タイプの異なるサウンドと様々な主人公が登場する歌詞が入り乱れ、それらからは“静と動”の上木の姿が浮かび上がってくる。意味深なアルバム・タイトルに隠された秘密とは? 彼女が今作で伝えたかった事は何なのか? 収録曲を追っていきながら、彼女に話を聞いてみた。(INTERVIEWED BY EMI MORI)

●これまでの取材の中でもアルバム制作という言葉は何度か出てきていたと思うのですが、アルバムを作るという話は以前から出ていたのでしょうか?
上木彩矢(以下上木):2ndシングルの「ピエロ」を作り終えた位に、アルバムを出そうかという話が出て、その時から制作に取り掛かったという感じです。本格的に作り込んでいったのは5月頃からになりますね。それまでは取材も含めて色々な仕事もあって、制作1本に集中出来なかったというのもあるんですが、5月は“制作期間”として時間を設けていたので、テレビ出演の仕事が少しはあったりしましたけど、集中してやれたとは思います。5月はわりと長い時間スタジオにいましたね。

●今回のアルバムには、集中して制作した時期に出来た曲が多く収められている訳ですね。
上木:やっぱり、私も含めスタッフの中にも“良い作品を作ろう”という思いがあったので、中には締め切り間近までかかったものもあります。でもその分、良いものが出来たんじゃないかとは思ってます。

●アルバムを作る時に、“こういうタイプのものにしたい”というのはあったのでしょうか?
上木:実は私はアルバムを聴くのが苦手で、最後まで通して聴けた事があまりないんです。だからそういう作品にはしたくないなという思いもあって、カラーが違う曲を入れようと。最初は皆さんも知ってるシングル曲から聴いてもらって、その後に聴き進んでも飽きさせないようにしようというのは根底にありましたね。だからビックリ箱みたいに、面白味のあるものにしようと思って作りました。

●となると、曲もこだわって作ったものが多いですか?
上木:そうですね。アルバム用にこういう曲を入れたいというのを考えて、作っていきました。だから本当にこのアルバムの為に選ばれた曲ばかりですね。アレンジも色々なパターンをお願いしたものもありますし、何度も歌い直したものもあります。たぶん、私の色んな顔が見えるものになっていると思います。こういう言い方をするのも何なんですけど、買った人にしか分からないというか……。封を開けて中身を聴かないと分からないだろうなって。そういう意味もあってアルバムのタイトルも『Secret Code』なんです。

●そういう意味が隠されていたんですね。
上木:今回のアルバムには、私の中の良い面や悪い面、白と黒、明るい時と暗い時、全てが凝縮されているんです。“Secret Code”は“暗号”と言う意味なんですけど、このアルバムを持っている人と私だけの秘密の暗号という意味と、私を理解する為の暗号という2つの意味があるんです。

●収録曲に「Secret Code」というタイトルもありますが、これがアルバム・タイトルに繋がったんですか?
上木:曲のタイトルが決まったのとほぼ同時に、アルバムもこのタイトルになった感じです。私はいつも曲のタイトルを一番最後に付けるんですね。この時は、暗号という言葉をタイトルにしたら深い意味が持てるんじゃないかと思ったのと、響きも良かったのでこの言葉を出したら、スタッフもいいんじゃないかと言ってくれたので、このタイトルになりました。

●今回はメジャー・デビューして初のアルバムになりますが、インディーズ時代の作品とは違うものにしようと意識した所はありましたか?
上木:私はライヴの女なので、今回は特にライヴを意識しました。私だけじゃなく、みんなも口ずさめて一体感が持てる曲を入れようと思って作りました。上木の音楽を聴いてくれている人と、歌っている上木との間で秘密の暗号で繋がっていたいというか……。ライヴでみんなが手を振って歌っているのを想像しながら1曲1曲を作っていった感じです。インディーズの頃は、自分が好きなものを詰め込んだ旅行カバンみたいな感じだったので、ひょっとしたら独りよがりな所もあったかもしれません。そういう意味では、メジャー・デビューした事で自分の中で心境の変化があったのかもしれませんね。“みんなと一緒に楽しもうよ”というのを頭の中で考えながら、今回のアルバムは作っていってましたね。

●確かに今回はライヴで盛り上がりそうな曲もあれば、声色も違う曲があったり、本当に色々な曲が入っていますよね。
上木:私の場合、キーが変わると声質も変わるんですよ。たぶん皆さんは私の高い声を聴き慣れていると思うんです。だから低い声で歌った曲を聴くと、声が変わってるって思われるんですよね(笑) 今回はアルバムという事もあって、低い声で歌う曲の良さも知ってもらいたくて、そういう曲も入れてみました。高いキーのものはずっと聴き続けると耳が疲れるし、飽きちゃう気がするんです。そこに低い曲が入ってると、高い声で歌ってる曲を聴いて改めて“キーが高い”と思ってくれたりとかもするだろうし……。例えばカラオケに行って上木の曲を歌おうとした時に“あれ?上木の曲キー高くない?”みたいな事になる人もいると思うんです。それって、今まで私が高いキーで歌ってる曲しか聴いた事がないから、本当はどれだけ高いか分からなかった訳で……(笑) 低い声の曲と声の高い曲があるとメリハリがあって楽しいし、今回のアルバムは“遊ぼうぜ!”という感じで作っていったものでもあるので、色んなタイプの曲が入ってますね。だから幅広い人に聴いてもらえると嬉しいです。小学生は2曲目がいいねとか、中学生は5曲目、高校生は10曲目がいいとか……。みんなに全曲を好きになってもらう必要はないと思うし、この中のどれかの曲を1曲でも気に入ってくれたら、それで嬉しいです。

●曲順を決めるのも大変だったんじゃないですか?
上木:そうですね。「ピエロ」で私の事を知った人が多いと思うんですけど、今回のアルバムのメインは「ピエロ」ではないので……。このアルバムは、曲を通じて伝えたい事がたくさんあって作ったものなので、シングル曲に関してはどこに入れるかで悩みました。だから聴きやすい曲順にはしたつもりです。

●「Secret Code」はすごく勢いのある曲ですね。
上木:最初にデモを聴いた時に、アレンジによっては上木ロックな感じになるんじゃないかなと思っていたんですけど、そしたら見事に予想的中で、アルバムのタイトル・ナンバーに相応しい曲になったと思います。これは主人公が浮気をしちゃう歌なんです。付き合ってる人はいるんだけど、違う人が気になってしまって“どうしよう……。ヤバくない? だから2人だけの秘密にしよう”という曲ですね。いけないと思えば思う程、想いが募ってしまうという気持ちを書いてみました。だから実際にこういう状況にある人が聴くとドキッとするんじゃないでしょうか(笑) 歌詞を考えていた時、まず最初に“Bad Boy”と“Bad Girl”という言葉が浮かんできたんですね。そこからイケない事をしているイメージが出てきて、自然とこういう話になっていきました。

●「Bounce, Bounce, Bounce」は、どのように歌詞が出来上がっていったんでしょうか?
上木:最初、このアップ・テンポで勢いのあるRockなアレンジを聴いた時に“ハジける”っていう印象をとても強く受けたんです。だから、辞書で“はじける”の意味を調べたら“Bounce”だったっていうのが始まりです。でもその後、ずっと歌詞が浮かんでこなくて、いったん書く作業をやめようと思ったら、いきなりポン!と“スペシャル”という言葉を思い付いたんです。そこから急に、もう1回書こう!っていうモードになって、朝方から一気に書き上げた詞です。

●以前の取材では、歌詞を書くのが大変だという話も出てきていましたが、最近はどうですか?
上木:鍛えられると、意外と書けるようになってくるもんですね(笑) 今回のアルバムの曲も、何だかんだと言いながらも歌詞は順調に書けたかも。最初の頃は手探りだったんですけど、3〜4曲出来上がってくると、アルバムのイメージも固まってきたので。今回のアルバム曲で煮詰まった曲はなかったかも。

●「プライド オブ プレイス」はすごくパンチのある曲ですね。
上木:この曲はインディーズの頃からあった曲で、その時からすごく良いと言ってたんですけど、もう少し取っておこうという事になって、その時期が来たら絶対に発表しようと思っていたんですね。それで遂に収録される事になりました。今回のアルバム曲の中では1番古い曲、1年半位前からあった曲です。当時は早く発表したくて仕方なかったんですけど、今となってみると、アルバムで発表出来て良かったです。この曲はすごくインディーズっぽいサウンドで、“上木彩矢はメジャー・デビューしても変わっていないよ”というか、ロックでライヴ・ハウスが似合う音楽になっていますね。だから早くライヴでやりたいです。

●「夏のある日」は今までの曲とは違う歌詞の世界ですね。
上木:麦わら帽子をかぶって虫網を持っていた時代って、みんなにもありますよね。小さい頃って暑い日にスイカとかアイス食べたりするだけで、楽しくて思い出になっていたと思います。でも大人になるにつれて色々な波にもまれて、心の世界が狭くなって、暑いのが嫌だからすぐにエアコンを付けたり、外に出ないとか、そういう事をしてしまって、小さい頃の事を忘れてしまってる人もいると思うんです。そんなある日、ふと昔を思い出して『誰でも挫折したりした時に、小さい頃は“結果オーライ”という時代があったはずなのに、今の自分は傷付いて凹んで死にたいと思ったりしている……。“死ぬ勇気があるんだったら、どんな事だって出来る”』と言う事に気付いた人の話です。この曲は私も好きな歌ですね。私は夏は嫌いですけど、小さい頃はこの歌詞に当てはまる事もしてたと思うので。小さい頃は、水遊びして汗かいて、スイカ食べて……。でも今は暑いとムカつくし、汗かいたら腹立つし、一人暮らししていたらスイカ一玉なんて買う気がしないから食べる事もないし、部屋はクーラーギンギンだし……(笑)。だから昔の生活を忘れていってる自分とも当てはまる所はあります。だから自分を応援する意味も少しありつつ、今ちょっと元気のない人にも聴いてもらいたいですね。

●そっと背中を押してあげるような感じの曲ですよね。
上木:頭ごなしに言われるとシュンとなっちゃう人もいますからね。フワっと励ますとすごく元気になる人もいますし……。どちらかと言うと私はそっちのタイプですけど(笑)。この曲はアレンジが出来上がったものを聴いた時に“これは夏だ!”と思って、歌詞もスラスラと書けた曲ですね。歌入れもすごく気分良く出来ました。

● 「I Sing This Song For You」はパンキッシュな感じですね。
上木:これは恋愛の歌で、飛んで跳ねてという感じの曲です。例えば、ある女の子がすごく好きな男の子と何かのきっかけでカラオケに行った時に、こういう感じの可愛い曲を歌って、その男の子のハートを射止められたらいいなという事を想像しながら歌詞を考えた曲です。この曲もデモ・テープを聴いた時にサビの部分が浮かんで、すぐ歌詞も出てきました。レコーディングも楽しかったです! 色々な人の声を入れてもらったんですよ。大合唱してる所が好きですね。早くライヴでやりたいです。

●「傷だらけでも抱きしめて」は「もう君だけを離したりはしない」のカップリングでもありましたが、アルバムの中に収まるとまた違う存在の曲になっている気がしました。
上木:実はこの曲は今年の初めからあった曲で、歌詞もけっこう前に書いた曲だったりするんですよね。何かに没頭してきた事で、痛みや辛さを耐えて生きていく事しかなかった人が主人公の歌です。恋愛の曲なんですけど、他の曲とはちょっと違う視点で書いてますね。“傷だらけでボロボロだけど、ちょっと抱き締めてよ!”みたいな……。主人公の不器用さと辛さを全面に出してみました。

●「Believe in You」は女性的な部分が出ている曲ですよね。歌詞の中にある“さみしがりやさん”や“お人形さん”という言葉遣いが印象的でした。
上木:歌詞にすると変にかしこまっちゃったりする事ってありますよね。私はそれがちょっとつまんないなと思ってたので、この曲では特に普段使ってる言葉の方を出したいなというのがあって、そういう言葉を使って歌詞を書いてみました。この曲は遠距離恋愛の歌詞で、遠くにいてもあなたの事は信じてるけど、今日も寂しいと。毎日手紙を書くけど送れないままでいて、会いたくても会えないもどかしい気持ちを歌った歌です。実はこの曲、スタッフの間でも好きな人が多いですね。この曲はデモの段階からアレンジもあまり変わってなくて、聴いた時からイメージが固まっていたので、歌詞もかなりスムーズに書けました。

●タイプの違う曲を書く時、気持ちの切り替えは上手く出来ましたか?
上木:1曲作り終えたら、次の日に別の曲の歌詞を書くという感じで、歌詞を書いたらすぐ翌日レコーディングという作業だったので、歌詞がスラスラと書けた時は、気持ちの切り替えは出来てたと思います。でも時々、歌詞が上手く書けない時もあって、その時は前日に歌った歌が頭の中に残っていて、集中出来ない事もありましたね。そういう時は寝て気持ちを切り替えると、次の日は歌詞が書けたり……。

●「Can't stop fallin' in LOVE」はリズムがすごく耳に残る曲ですよね。
上木:この曲は去年からあったもので、デモを聴いた時に“Can't stop fallin' in LOVE”の言葉が出てきたんです。それに続く形で“Still loving you”のフレーズも浮かんできて……。これはセットみたいなものですからね(笑)。曲自体もキーが高くてサウンド的にも人の耳に入ってきやすいものだったので、そこを活かすような歌詞にしました。

●「Changing The World」は切ない心情が曲と歌詞から伝わってきますね。
上木:この曲も、何度もアレンジを変えたりして、こだわった曲です。今までの私にはない感じかなという気もするけれど、聴いてくれる人に “こう来たか!”と思わせたかった部分はあります。今回のアルバムのコンセプトの1つに、聴いている人を飽きさせない作品にしたいというのもあったので、挑戦してみました。歌詞は、ドキュメント番組を見ていて思いついたので、実際快適な生活を送っている私達が共感するのは違うのかもしれないけれど、でもどのような状況下であっても、誰もがこういう想いを1度は経験した事があるんじゃないかなっていう、痛々しいほど切ないけれど、それでも持っている強さみたいなものが表せていたらなと思います。

●「フレンズ」の歌詞は、すごく柔らかいですね。
上木:私は自分の曲を聴いてくれている全ての人達に向けて“ありがとう”と言いたいんです。ファンの方からの応援が、今の自分の原動力になっているんですけど、その事を素直に伝えられなかったので、この曲ではその気持ちを歌詞にしてみました。これは今の私の心の中ですね。私を支えてくれているファンの人達、スタッフ、家族、友達のみんなに向けた、“ありがとう”の気持ちが詰まっています。

●そういう気持ちを歌詞にしようと思ったのは、何かきっかけがあったんでしょうか?
上木:今まではどんな人に自分の曲が届いているのかがあまり実感がなかったんですけど、街とかを歩いていても、“頑張って下さい”とか“応援してます”と声を掛けてもらうようになったり、“曲を聴いて元気になりました”とか“上木さんみたいな心の強さが欲しい”という感想を聞いたりしていくうちに“自分は何て不器用なんだろう。何でありがとうって言えないんだろう”と思うようになったんです。そこでどうやったら自分の気持ちを伝えられるだろうと思って、アルバムでそういう曲を作ろうという事になりました。この曲を最初に聴いた時、お客さんと一緒に手を振っているイメージが浮かんだんですね。その時に“この曲だったら、今の自分の気持ちを込められるかもしれない”と思って一気に歌詞を書きました。

●作品を発表する度に、上木さんと聴いている人達との距離が近くなっていってますよね。
上木:最初は“私がやりたいからやっている”という事だけだったのが、今はどういう人が私のCDを手に取って、どういう気持ちで買って帰って家で聴いてるのかという事も考えるようになりました。そういう事を考えると“自分だけがやりたいから”という事だけじゃないなって……。聴いている人達に色んなストーリーがあるから、そういう事を思って曲を作るようになったというのはあると思います。私は仲間には優しいので(笑)

●そうすると、『Secret Code』というアルバム・タイトルに繋がってきますよね。
上木:そうですね。仲間じゃないと分からない言葉というか、心と心の繋がりというか……。こうやって思うだけでも、それが“Secret Code”に繋がるんです。“Secret Code”には“これ!”と言う答えはなくて、聴く人それぞれの心の中にあるんです。それが歌詞なのか曲なのかは、人によって違うと思います。だから、色んな人に聴いてもらいたいですね。女子高生やサラリーマン、ちょっとませた中学生もそうだし、おじちゃんとかおばちゃんまで……。みんなそれぞれ敬遠し合ってると思うんです。ギャルはギャルで色眼鏡で見られてるし、おじさんはおじさんでけむたがられるし。私のライヴにはそういう人達がみんな集まってくれるといいですよね。お互いに敬遠し合ってる人達が一緒に騒いでるって平和だと思うし。


上木彩矢

1st Full Album
『Secret Code』

2006.7.12 Release


GIZA studio
GZCA-7084 ¥3,059(tax in)