竹井詩織里

New Album
『Diary』

2007.4.18 Release


昨年の竹井詩織里は「桜色」「きっともう恋にはならない」「Like a little Love」「夢のつづき」という季節をテーマにした4枚のシングルを発表。そこで表現者としての幅を広げた彼女が、そのテーマを1年という大きな枠に広げてアルバムを作成した。1年半振りに発表されるニュー・アルバムのタイトルは『Diary』。12ヶ月をイメージした楽曲で構成された今作は、彼女の魅力の1つである繊細な情景描写が綴られた歌詞と、表情豊かなヴォーカルが今まで以上に堪能出来るアルバムに仕上がっている。1曲1曲をじっくり作り上げていったという今回のアルバムについて、彼女に話を聞いてみた。 (INTERVIEWED BY EMI MORI)

●昨年から何度か取材をさせて頂いていた時から、アルバム制作をしているという話はありましたが、そのアルバムが遂にリリースされますね。
竹井詩織里(以下竹井):はい。やっと出来ました(笑)。今回はシングルを発表して、ライヴもやりながらの中での作業だったので、制作期間は長かったですね。

●実際に今回のアルバムを作ろうと思ったのは、いつ頃だったんですか?
竹井:1年以上前だったと思います。「桜色」を作って、その後に滋賀の三井寺で夜桜桜をバックにライヴをさせて頂いたりした頃に、季節に沿った作品を作っていきたいなと思ったんですけど、その時に“アルバムだったら、春夏秋冬だけじゃない細かい季節も表現出来るかも”って……。

●細かい季節の流れを描こうと思ったのには、理由があったのでしょうか?
竹井:ライヴ等をやっていく中で、自分が表現したい事を歌に変えたりする事が段々出来る様になってきたと思うんです。そこで感じたのは、私の歌って喜怒哀楽だけでは伝えきれないというか、もっと微妙な色合いがあったりするというか……。細かい季節の流れを描く事で、そういう部分が表現出来るんじゃないかと思ってやってみました。

●収録曲を選ぶ作業は大変でしたか?
竹井:最終的にこの曲達で行こうと決まったのは最近で、それまでは曲順を入れ替えたりしていましたね。他に作っていた曲もあったんですけど、この12曲がベストだと思っています。

●1曲1曲に季節の趣をしっかり入れて作っていったという事ですね。
竹井:そうですね。ひと月に1曲という感じで、季節の移り変わりを表現したいと思っていました。始めに“この曲は何月のイメージだな”という事を決めてから歌詞を書いたり、プリプロに入ったりという感じで作って行ったので、曲が出来上がると、ある程度の曲順は出来上がっているという状態ですね。

●デモ・テープを聴いて選ぶ時も、季節を意識していましたか?
竹井:それはありました。これは寒そうな感じがするから冬とか……。逆に冬だからこその温かさのある曲もいいかなと思って選んでみたりもしました。単純に春夏秋冬に曲を並べると、明るくて勢いのあるのが夏の曲、という事になるかもしれないですけど、それだけにしたくなかったというか……。例えば春はイメージ的には華やかですけど、明るい事ばかりある訳じゃないですよね。働き始めて孤独を感じている人もいるだろうし、慣れない場所で自分の居場所が見つけられなくて不安な人もいると思うので、そういう事も考えました。冬は寂しい感じがするけど、寒いからこそ誰かの温もりに触れて幸せを感じる事が出来る季節でもあると思うので、イメージだけで季節を決めつけないで、自分が生活する中で実際にある情景を大切にして、街の表情等を思い返しながら曲を選んで作っていきました。

●それではそれぞれの収録曲についてお話を伺いたいと思います。まずは1曲目の「桜色」は春の曲ですが、月で言うと何月をイメージされていたんでしょうか?
竹井:「桜色」は3月ですね。この曲から全てが始まったと思っているので、春からのスタートにしました。

●「いびつな果実」は、春の裏側にある物悲しさが伝わってくる曲ですね。
竹井:これは最初に聴いた時に“これは春だな”と直感的に思った曲です。サビがグッと盛り上がって、疾走感のある曲だったので、ただ“楽しくて華やかな春”ではないなという印象がありました。春は新しい生活が始まって、自分の未熟さとか不甲斐なさを感じる季節じゃないかと思っていて、そこが“いびつな果実”という言葉とリンクしている気がして、このタイトルにしました。私もまだまだ成長段階だし、色々な不安を抱えている人も多いんじゃないかって……。そういう弱い所も受け入れて、成熟した人間になれたらいいなという希望を込めて、こういう曲を作りました。

●歌詞の中にも印象的な言葉がたくさん出て来ますが、歌詞はすぐに書けましたか?
竹井:「いびつな果実」という言葉でイメージが出来上がってからは、歌詞を書くのは早かったです。今までは自分の弱い所を隠そうという気持ちがあったんですけど、そういう弱い部分があるのも人間かなと思って……。自信がないからこそ成長したいと思うし、このままで隠したままだと前に進めない様な気がしたので、そういう自分も受け入れて今回は歌詞を書きました。だから内容も赤裸々な感じです(笑)。私と同世代の人達には感じてもらえる所があるかなと思います。

●「迷子の街」は作詞&作曲を竹井さんが手掛けていますが、どんなイメージで作られたんですか?
竹井:これは曲と歌詞を同時に作って行きました。サウンド的には始めからジャジーな雰囲気でブラスとかが入っている様な曲にしたいとは思っていました。デモの時よりはテンポも上げています。ライヴで栄える曲を意識したので、こういう曲にしました。実はこの曲には裏テーマがあるんです。私にとっての5月のイメージは“5月病”だったんですよ(笑)。自分で思い返してみると、上手くコントロールが出来ずに過ごしていたのが5月だったりしたので、その場所にいる時は自分がどこにいるか分からないという意味を持たせて、「迷子の街」というタイトルにしました。歌も主人公のつぶやきみたいなものが表現出来たと思います。ライヴで歌うのが楽しみな曲です。

●「最後のカーブ」は大人っぽい曲ですね。
竹井:この曲をレコーディングする時は、スタッフとみんなで“今の年齢プラス5歳位の気持ちで歌ってみたら”と言う話になったので、自分の中でイメージを膨らませて歌いました。ここでは大人っぽさがけだるい梅雨のイメージと上手くリンクしたと思います。

●「milky way」は可愛らしい感じの曲ですね。
竹井:この曲はアルバムの中では面白い曲にしたくて、電子音を入れたり、コーラスも1番と2番とで入る部分を変えていたりしています。メロディが面白いので、ドラムも変則的なリズムのものにしたりして、遊び心が出た曲にしました。七夕という事で、このタイトルにも繋がっています。今回のような季節をテーマにした作品を作らなかったら、出て来なかったテーマだと思います。

●「きっともう恋にはならない」が8月の位置に入るのは、すんなりと決まりましたか?
竹井:ボッサで爽やかな曲なので、季節的にも8月がピッタリだと思ってここにしました。

●「サイクル」はどういうテーマを掲げた曲ですか?
竹井:この曲は早い段階から出来ていた曲です。最初に聴いた時に、爽やかだけど切ない感じが秋にハマるなと思いました。散歩していて、木が紅葉して葉が散って行くのを見て、これは冬を越える為に葉を落しているという自然のサイクルを感じたんです。そこで人間も辛い事や苦しい事があっても、それが次のステップに繋がっていると思いたいなという気持ちを込めて書きました。私は秋が好きなんです。秋は色々と考えさせられる季節でもありますし……。私の好きな音楽は、人の温もりや生々しい感じが伝わるものだったりするので、自分もそういう音楽が作りたいと思って、レコーディングの時はライヴをイメージして作業をしました。それによってグルーヴ感が生まれたり、声に深みが出たりするので、楽しかったです。

●「Like a little Love」は秋が深まる10月に位置する訳ですが、これはすぐに決まりましたか?
竹井:この辺りの曲は最後まで順番を迷った箇所でもあります。「サイクル」が比較的テンポのある曲に対し、「Like a little Love」はピアノに合せて切々と歌うタイプの曲なので、その対比を出したいと思ってこの場所に決めました。

●「並木道」はドラマティックな曲ですよね。
竹井:この曲はピアノとドラム、ベースというピアノ・トリオのシンプルな編成でレコーディングしました。みんなでセッションしている様な感じで一斉に録った感じのものを作りたいと思った曲です。そうなると、それぞれの音の間とかが大切なので、それが上手く表現出来るように心掛けました。歌いまわしを変えてみたりしたんですけど、そういう作業も楽しかったです。晩秋で切ない季節ではありますが、人の温もりを感じたり出来ると思うので、歌詞は幸せな感じの内容になっています。御堂筋(大阪)の銀杏並木を歩いている、恋人の幸せな感じをイメージして書いてみました。

●「sweet home」は冬の曲になる訳ですね。
竹井:この曲を12月に当てはめているんですけど、年末って私の中では幸せなイメージがあって……。1人暮しを始めてから、実家に帰って地元の友達と会ったりボーッと過ごしたりしていると、すごく自然体でいられるし、そういう場所って温かいし、帰ってくる場所があるっていいなと思ったんですね。私の場合、実家は比較的近いのですぐに帰れるんですけど、遠くてなかなか帰れない人とかは年末に実家に帰って更に幸せを噛み締めるじゃないかと思って、こういう歌詞を書きました。オルガンの音や男性ヴォーカルが温かいイメージを加えていると思います。色々な楽器も入っているので、それを通して人の温もりが伝わって、年末のイメージにも繋がるかなって……。

●「同じ夜 違う朝」ではガラッっと雰囲気が変わりますね。
竹井:この曲は「milky way」と同じように遊び心が入っていて、同じコードを繰り返して出来ているんです。そこに刺激のある言葉を選んで歌ったり、コーラスも少し違和感を覚える様な変わったものを取り入れています。サビも歌い出しの所はトラックを変えてクロスするようにしてみたり、不思議な世界を作ってみました。ちなみに去年の12月にあったシークレット・ライヴで歌ったのが、この曲と「いびつな果実」です。歌詞は変わっているので、あのライヴにいらした方は、聴いた事があるけど変わってると思うのではないかと……。

●「夢のつづき」はアルバムを締めくくる曲になりますね。
竹井:「同じ夜 違う朝」は打ち込みの音などが入っていますが、「夢のつづき」は生音でライヴ感を出した曲なので、寂しい曲ではあるんですけど、そこから人の熱みたいなものが伝わってくるので、そこが「同じ夜 違う朝」とは違う所です。

●outroの「Sleep」はどういう意図で収録したんですか?
竹井:このアルバムは「夢のつづき」という冬の曲で終わっていますが、1曲目の「桜色」の春の曲とを繋ぐものとして、「Sleep」を入れました。そうすると、縦に並んでいたものが円になって、季節が巡るんです。なので、この曲はoutroでもありIntroでもあるという……。全曲をリピートで聴くと、エンドレスで続くという意味もあります。これはけっこうアルバム制作の初期段階で作っていたもので、outroやIntroをイメージして作っていた曲でした。「Sleep」というのは冬眠という意味もあります。この曲はピアノも自分で弾いてレコーディングしたんですけど、緊張しました。

●今回はジャケット写真が今までのアルバムと雰囲気が違うものになっていますね。これは何か理由があるんでしょうか?
竹井:今回はタイトルが『Diary』という事で、日々の生活が反映されているものだと思いますし、これから聴いてもらう皆さんにとってもすごく近い存在のアルバムになってくれたらいいなという事で、写真も生活の中のワンシーンみたいなものを使って、温もりのあるジャケットに仕上がっています。

●長い時間を掛けて完成した『Diary』について改めて思う事はありますか?
竹井:最後の最後まで試行錯誤して作ったアルバムでした。それは絶対に良い作品にしたいと思っていましたし、1年を通して聴いてもらえるようなアルバムにしたいと思っていたので、妥協せずやり切りました。どの曲も思い入れがあって力がこもっているので、このアルバムの中で1曲でもいいので、自分と重なる部分を見つけてもらえたら嬉しいですね。

●このアルバムを通して新たに発見した事はありますか?
竹井:これだけグラデーションのあるアルバムが出来たのは、ライヴ等を通じて自分の表現に厚みが生まれた事によるかもしれないし、それが自分にとっての収穫になったと思います。それをライヴで早く披露出来たらいいなと思います。


竹井詩織里

New Album
『Diary』

2007.4.18 Release


GIZA studio
GZCA-5100 ¥2,800(tax in)