上木彩矢にとっての2006年は、メジャー・デビュー、シングルやアルバムの発表、そしてワンマン・ライヴの成功という、めまぐるしくも充実した1年だった。そこで培われた経験を通じて放たれるニュー・シングル「ミセカケの I Love you」は、今までとは違うテイストの音色とドラマティックなサウンド展開が聴き所のナンバーに仕上がっている。カップリングの「youthful diary」は、それとは打って変わってしなやかさを兼ね備えた、春の匂いも感じられる温かい楽曲になっており、まさに対称的な2曲が収録された1枚と言える。上木彩矢にとって2007年第1弾シングルとなる今作について、彼女に話を聞いてみた。(INTERVIEWED BY EMI MORI)
●ワンマン・ライヴで2006年を締めくくった形になりましたが、その後はどのような作業をされていたんでしょうか?
上木彩矢(以下上木):制作にどっぷり浸かっていました。今回のシングルの制作も去年の12月頃から取り掛かっていて、実質的な作業も2ヶ月位で終わったので、その後は次の楽曲制作に入って今に至る感じです。今年は作品に出来る限りじっくり向き合って作っていきたいと心掛けているので、2007年の前半はそういった準備に費やしていました。
●「ミセカケのI Love you」は今までとはタイプの違う、たおやかな感じの曲になっていますね。この曲をシングルとして出そうと思ったのには、何か決め手があったのでしょうか?
上木:デモは以前からあってそれを聴いて歌詞を付けてという作業をしていたものだったんですけど、それを改めて聴いたら、思っていた以上に楽曲の完成度が高いと感じたというか……。私の場合、特に直感で決めるタイプなので、上手く言葉で説明出来ないのですが“この曲をシングルで出したい!”と思っていましたね。決定的なものを挙げるとするなら、メロディ・ラインが良かったからだと思います、
●この他にもシングル候補曲はあったんですか?
上木:いっぱいありましたね。その中から私が直感で選んだものがこの曲だったという感じです。今年の1月頃から次のシングルとして出すという事は決まっていました。
●最初に曲を聴いた時は、どんなイメージを持ちましたか?
上木:デモを聴いた段階では、ものすごくイメージが広がったという訳ではなかったんです。その後にアレンジしたものを聴いた時、ハッピーな内容の歌詞じゃなく、どちらかと言うとネガティヴなものにしようと思いました。今までの私の歌って、ハッピー・エンドの曲が多かったかなと思うので、深みを出す言葉を使って違う感じにしようかと……。
●大人っぽい感じになっていますよね。
上木:そうですね。今年は少しムーディな大人系ロックみたいなものが出来たらいいなと思っていて、その第1弾として今回のシングルを出す形になりました。歌詞を書く時はストーリー性を意識して物語を作ろうという事で、そこに徹した感じですね。
● 色々な所にこだわりが入っているんですね。
上木:共感を求める曲作りというよりも、1つの作品として美的感覚に訴えるようなものにしようと思って作りました。恋愛とは全く関係ない言葉も入っているので、聴く人の状態によって受け取り方も違うと思います。今回の歌詞については、ものすごく共感してもらうというよりは、客観的に捉えてもらえると嬉しいです。
● 歌詞を書く時は客観的だったんですか?
上木:もちろん歌詞を書く時は、主人公になりきって書いてはいました。なので、書き終わった時はちょっと憂鬱になりそうでしたけど……(苦笑)
●歌詞の中には、信じられないというような心情も出てきていますよね。
上木:実は、ネガティヴな歌詞を書くのは苦手なんです。ポジティヴな歌詞を書くと、自分も元気になれたりする事も多いので。でも、少し寂しかったり悲しかったり、切ない内容の歌詞の方が心情的に深い所で受け入れられ易かったりしますよね!? そういう意味でも、新たな挑戦という事で……。
●ストーリー性を意識してという部分では、冒頭の英詞の部分もすごくインパクトがありますね。
上木:あの部分はデモの時はなかったんです。アレンジをお願いした時に、ああいう感じになっていました。今までの私の曲はイントロ部分に関しては、ノーマルというか王道な感じのものが多かったので、今回はそれとは違っているのがすごくスパイスになっていると思います。そういう意味では、この曲は色々な部分でひねった作品になっています。実際、こういうロックな曲には通常使われない様な音色も入っているんです。
●確かに、ロック・サウンド一点張りという感じではないですね。
上木:今回はダンス・ミュージックの音質やアイディアの面白さというものを追求しているというか……。最近は、そこにいかに自分の曲に取り入れられる部分があるかという事も意識してます。もちろん生音も良いんですけど、電子音の良さもちゃんとあると思うし……。自分でも意外だったけれど、最近私は、自分がやっている音楽に、ダンス・ミュージックのリズム感や音質がすごく合うかもと思っているんです。その音が加われば、曲としてもすごく厚みが出ると思っていたんですけど、今まではそれを上手く融合出来ないでいた所もあります。そういう意味では、今回の曲はダンス・ミュージックの考え方を取り入れた新しいサウンドの第1弾でもあるので、聴いた人達の反応が楽しみです。
●今までと違うタイプのサウンドを発表する事は、冒険でもありますよね。
上木:そうですね、だからアレンジされたものを聴いた時、正直“ここまでやって良いのかな?”と思ったのも事実です。でも、そう思うのは一方では耳に留まったという証明でもあるので、インパクトはあると思いましたね。不思議な構成の曲になっています。それでも聴き終わってみたら、私っぽい曲だなと思いました(笑) 作品のリリースに関して言えば、半年ぐらい発表していないという事もあったので、“あれっ!?”と気になってもらうきっかけになると嬉しいです。
●コーラスやストリングスなど、音もたくさん入っていますね。
上木:コーラスはいつも自分で考えて入れているので、それは今回も変わってないですね。ストリングスを入れてもらいたいとか、音をよりデリケートな感じにして欲しいという様なリクエストをして、今の形になった感じです。
●こうやって出来上がってみて、改めて聴いて欲しい部分というのはありますか?
上木:実は“ここだけはしっかり聴いて欲しい”という部分がないんです。全体のストーリー性を重視しているので、最後までしっかり聴いて欲しいですね。そのストーリー性はPVにも反映されているので、それも観てもらえるともっと楽しんで頂けると思います。何度も聴いていくうちに“ここは違う意味も込めているのかな?”とか、新しい発見があると思うので……。
●タイトルの「ミセカケの I Love you」というのは、最初から歌詞を書く時のキーワードになっていたんでしょうか?
上木:実はこの曲、最初に書いた歌詞の中でブロックを入れ替えて、今の形になっているんです。だから、始めに出来たストーリーとは少し変わってきていて、より複雑な構成になっています。“ミセカケのI Love you”という言葉は、最初は2番のサビ頭にあった歌詞だったんですよ。それでタイトルも、他の言葉を候補に挙げていたんです。それが“ミセカケ”という言葉が印象的という話になって、その言葉を引き立たせる為に、歌詞のブロックを変えてこの歌詞に収まりました。
●歌詞を読んだ時、時間がフラッシュバックしているというか、時間軸がぼやけているように感じたんです。それはそういう作用が働いた事も関係しているのでしょうか?
上木:歌詞の捉え方が人によって違うんですよ。今おっしゃった事も1つの感じ方だと思いますし、色々な意見が出て来ているので、すごく想像が膨らむ歌詞なのかもって、改めて感じています。
●ちなみにPVはどういったものになっているんでしょう。
上木:キーワードとしては“雨”とか色々なものがあるんですけど、歌詞の言葉と映像が一致するような作りにはなっていますね。今回は歌詞のストーリー性を重視しているので、それがPVにも反映されています。ただ、それをひねっている部分もあるので、すぐには分からない所もあるかもしれません。なので、頭を柔軟にして見てもらえたらなと思います。
●今までのPVでは、歌詞の世界を全面に出した形はなかったと思うんですけど、実際に作ってみてどうでしたか?
上木:今までは歌っているシーンが多く出ていたと思うので、少しずつ変化していくという意味で新しい事にチャレンジした感じですね。去年は“私が上木彩矢です”という事を伝える事が重要だったので、それを表現する為に歌っている姿が多かったと思うんです。今年は、自分の歌っている姿とひと味違う面を見せていけたらなと……。“少し変化した私”というものをテーマに、音楽で自分を表現していけたらいいなと思っています。
●それは段階を踏んでいるからこそ出来る事ですよね。
上木:そうですね。去年の音楽活動は、端から見たら潔いくらいシンプルだったと思います。だからこそ、これからは色々な事をやっていきたいなと。去年はデビューという事もあって、変にナメられたらいけないという感覚があったのかもしれません。それは他人と比べてどうという事ではなくて、自分が音楽をやる上での決意みたいなものを伝えようとしていたというか……。それをやらせて頂いた事で色々な事を経験しましたし、考え方の引き出しも増えた気がします。今年は少しだけカドの取れた私を見て欲しいなと思います。
●カドの取れたという意味では、カップリングの「youthful diary」は、そういう部分が出ている曲ですよね。
上木:これは一番のお気に入りの曲なんです!! 私の中では今回のシングルは両A面という気持ちでいて、久し振りの新曲という事もあるので「youthful diary」も聴いて欲しくて収録しました。私がこの曲を気に入っているのは、今までの自分の作品の中にはない様な新鮮味があるからだと思います。それは爽やかな歌詞だったり、サウンドだったり、コーラスも今までにない位キレイに出来たかなと思いますね。
●お気に入りだという事は、歌詞はスムーズに書けたんですか?
上木:はい。と言っても、最初に聴いた時は、じっくり考えて歌詞を書きたいタイプの曲だと思ったんですけど、実際に書いてみたら15分で書けちゃったという……。その時は“やってみないと分からない事っていっぱいあるんだなぁ”と思いましたね。それで歌ってみたら、周りのスタッフの方の反応もすごく良いし、自分も歌ってみてすごく気持ち良かったので、もう、気に入っちゃいました。
●歌詞全体のイメージは初めからあったんですか?
上木:前から“初恋を振り返る”というような歌詞を書きたいと思っていたんです。この曲はバリっとした感じの、耳に残るギターの音色が印象的だったので、そこで甘酸っぱい歌詞を書くならこの曲かなって……。歌詞の内容は甘酸っぱいんだけど、女々しくないという両方を兼ね備えた、中性的なものになっています。
●この歌詞の主人公は、この恋をしていた頃に戻りたいと思っているんでしょうか。
上木:人それぞれに初恋の思い出ってありますよね。それが幼稚園なのか小学校なのか中学校なのか、色々だと思いますけど……。もちろんあの頃に戻ってみたいという気持ちよりも、あの頃は良かったなと振り返っている感じだと思います。青春時代ってすごくキラキラしていて、ネガティヴになりがちな事もポジティヴに考えられたりする時期だと思うんです。そういうものを作品に出来たらなと思って書きました。
●綺麗なコーラスも、印象的ですね。
上木:コーラスは楽曲がだいたい出来上がった後に入れるんですけど、作業的にはメイクをした後に綺麗なピンクのリップを塗るような感覚でした。春を意識したというのもあって、声の響きはすごく重視しましたね。
●今回はタイプの違う恋の曲が収められた作品になりましたね。
上木:一方はネガティヴ、もう一方はポジティヴという、180度違う曲が入っていますよね。ここではそれぞれの主人公の鼓動を感じ取ってもらいたいです。「ミセカケのI Love you」は焦ったり不安だったりするドキドキ感が詰まっているし、「youthful diary」は初恋の胸の高鳴りが感じられると思うので、その違いを楽しんでもらいたいと思います。
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