滴草由実

New Single
「I still believe 〜ため息〜」

2007.5.30 Release


滴草由実が“自分の分身の様な作品”と形容した3rdアルバム『花Kagari』の発表から、約1年2ヶ月……。彼女の待望のニュー・シングルが5月30日にリリースされる。タイトルは「I still believe 〜ため息〜」。しっとりしたピアノの調べに寄り添いながらも存在感たっぷりに歌い上げられたこの曲は、今まで以上に彼女が大切にしている“自分の思いを伝える”という行為が色濃く反映されたナンバーに仕上がった。特にサビ部分の“haaa...”というため息は、一聴したら忘れる事が出来ない程の切なさを含んでいる。カップリングには、生命力が溢れるサウンドに乗せて今の世界に対する彼女のメッセージが歌われた「Wonderful World」、そして彼女がデビュー前からライヴで歌って慣れ親しんでいるカヴァー曲「Lovin' You」が収録。彼女にとって2007年第1弾シングルとして相応しい、タイプの異なる楽曲が揃った作品となった。前号の本誌「CHECK THE FACE !!」コーナーでは、このニュー・シングルに付く絵本についても少し語ってくれていた滴草由実。今回はシングルについての話はもちろん、自身が手掛けた絵本について詳しい話を聞いてみた。(INTERVIEWED BY EMI MORI)

●以前お話を伺っていた時はまだ発売が決まっていない時期だったと思いますが、いよいよシングル「I still believe〜ため息〜」が発売されますね。
滴草由実(以下滴草):実はこの曲を頂いたのはけっこう前で、デビューの頃からあったものだったんです。その頃は英語の言葉を並べたものを歌った仮歌の状態だったんですけど、去年『花Kagari』(3rdアルバム)を出した後、次の作品用に曲を選んでいた時に改めて聴いて“この曲に歌詞を書きたいな”と思って、そこから本格的に作り始めました。

●仮歌で歌っていた頃の事は覚えていますか?
滴草:その頃は小さめの部屋で色々な曲を仮歌で歌っていて、その中の1曲だったのは覚えています。その頃から“良い曲だな”とは思っていました。

●それから年月が経って、改めて聴いた時に魅かれたのは、どの部分だったんでしょう。
滴草:サビを聴いた時に、今回タイトルにも入っている“ため息”というイメージが浮かびました。仮歌を歌っていた頃は、そこがため息だとは感じ取れなくて、単に歌の一部という感覚でしかなかったんです。それから何年か経って自分も色々経験をした事でため息と思える様になったのかなって……。それからAメロの1フレーズを聴いて、“やさしいね この空は〜”という言葉が出て来たんです。このフレーズは歌詞を書くと言うよりも、普通に過ごしていていつも感じていた事でもあるんです。私はいつも空を見ているんですけど、その時に“空って何でも受け止めてくれるなあ”と思っていたりしたので。あとは“いつこんな泣きむしになっただろう”という言葉も空を見て思った事で、この曲をもらった時にこの部分にハマると思って入れてみました。

●先にキーワードがいくつか挙がっていたという事は、歌詞を書き上げる作業はスムーズに進みましたか?
滴草:すんなりではなかったですね。言葉を入れられる箇所が少ない事もあって、限られた文章の中に伝えたい言葉をどうやって入れて行けばいいかという意味では難しかったです。“飛んでは 逸れ”の部分も、同じ意味でもニュアンスの違う言葉を当てはめたりしていました。

●この曲を聴いた時のイメージは、どんなものだったのでしょうか?
滴草:ポイントになったのは“空”ですね。愛しい人を想ったり、悲しい時は必ず空を見てたし、頑張ろうと思う時も空を見てたし、そういう時に“はぁ……”とため息をつくのが、歌詞にも繋がっていったというか……。この曲はメロディが切ないですけど、それと同時に強さも感じたんです。私自身は“信じたい”という思いが前よりも強くなっている事もあって、その気持ちと曲の感じが合っていると思って、2番の歌詞に“信じたいの”という言葉を入れました。全体的には今感じている言葉を歌詞にしています。

●歌詞の中で特に聴いて欲しい部分はありますか?
滴草:歌詞を書いた時は少し悩んだ部分でもあったんですけど、“振り向けば 雨が降る でも 今 振り向けば 君が居る”という所ですね。この部分は、人それぞれに色々な過去があると思うんですけど、今も支えてくれている人がきっといるという事を伝えたくて書いたので。それから“生きてゆけない 思い出だけでは…”という部分は、自分自身の事だったりもするので、そこも特に聴いてもらいたいです。

●歌う時に気を付けたりした事はありましたか?
滴草:曲を聴いた時は繊細だなと思ったので、歌う時も歌詞の世界に入ってそれを伝える様にしました。ため息の部分も、曲が進むにつれて自然と強い感じになってましたね。

●ため息って、普段強調して声に出したりするものじゃないですよね。それを歌うという事は、新鮮な感じがしたんですけど。
滴草:“haaa...”と歌うだけでも、メロディからその世界は伝わるんだなとは思いました。そこに意味を持つ言葉がなかったとしても、聴く人の心にはちゃんと響くんじゃないかって。

●滴草さんは日頃生活していて、ため息はつく方ですか?
滴草:1人になってホッとしている時につくかな……(笑)。 “ため息をしたら幸せが逃げる”とか言いますよね。だから昔は、ため息をついた後にすぐ、その息を吸い込んでました(笑)。今はそんなに気にしないです。レコーディングでブースの中にいて、歌う前に気持ちを落ち着かせる為にため息をついたりしますね。

●深呼吸みたいな感覚ですね。
滴草:そうですね。そういう意味で、私はため息に対しては明るく捉えているので、マイナスなイメージはないです。最近はニュースを見ていたら、ため息をつきたくても抑えてしまったり、泣きたいけど泣けない人がいっぱいいるんじゃないかと思ったんです。だから、“泣きたい時には泣いていいんだよ”というのと同じで“ため息をつきたい時はため息ついていいんだよ”という気持ちもあったりしますね。そういう事が、実は今回のシングルに付く絵本の話にも繋がっていたりするんです(笑)

●前回取材させて頂いた時は、絵本は制作段階だったと思うのですが、今はどういう状態ですか?(4月下旬に取材)
滴草:中身は完成して、あとは表紙を仕上げるだけです。今日は出来たページを持って来たんですよ……(原画が入ったファイルを出す)。原画は和紙に水彩画で描きました。お店に行った時、この和紙を選んで持って行ったら、お店のおじさんに“この紙を選ぶとは……”みたいな感じで、なかなかやりますな的な感じで言われたんですよ(笑)。それで家に帰って、いざ絵を描いてみるとすごく大変で……。鉛筆で下書きしてる時に消しゴムで消すと、その部分がけば立って汚くなってしまう事が分かって、一気に描く様にしました。絵の具で色を付ける時も、予想以上に時間がかかってしまったんですけど、綺麗な色になったので満足しています。今日持ってきたのは、話の文章が入って無い段階の、絵だけのものです。空いているスペースに文字を載せる形になります。

●絵本のタイトルは?
滴草:「ためいき」です。今回の曲のタイトルが最初、“ため息”という言葉だけだったので、そのタイトルを絵本に付けました。

●主な登場キャラクターは誰がいるんですか?
滴草:主人公は女の子で、あとはネコちゃんとバッタも出て来ます。この他にも絵の中に隠しキャラがいたりするので、それは実際に読んで探して下さい(笑)

●登場人物はすぐに決まったんですか?
滴草:女の子は最初から決まってたんですけど、ネコにするかインコにするか迷ってましたね。バッタは後から決まりました。キャラクターを決める時は、自分が小さい時に親しんでいたものをいくつか挙げていった感じです。

●簡単なストーリーを教えてもらっていいですか?
滴草:ある日、女の子とネコとバッタが一緒にあるものを探しに出掛けて、そこで色々な事に遭遇するというお話です。結局、探し物は見付からなかったんだけど、探して行くうちに気付く事がたくさんあったという……。

●ページが進むにつれて、色が鮮やかになっていますね。
滴草:空がだんだん晴れて行くので、明るくなっていっています。

●絵本の世界は、前向きに進むという事が更にはっきり描かれているんですね。
滴草:曲の方はすごくしっとりしているので、絵本は目で見てほっとして、元気が出る様なものにしたかったんです。

●PVも、絵本とリンクしているそうですね。
滴草:撮影はすごく楽しかったです。撮影した場所の無人駅がすごく可愛くて……。2時間に1本ぐらいしか電車が通らない場所で、田んぼや森が近くにあって、まだ桜も咲いていたんですけど、そこで写真撮影もしてきました。その日は風が強くて昼間は少し曇っていたんですけど、最後に電車に乗るシーンを撮影する時に夕陽が出てきて、イメージしていた様なシーンになりました。あと、蝶を自分の手の中に入れてパーッと手を開いて蝶が飛び立って行くシーンも撮ったんですけど、そこも電車に乗ってる途中で降りた駅で、停車時間が5分しかない中、スタッフさんが大急ぎで撮影の準備をして、3分くらいで撮影しました(笑)。予め用意していた蝶を手の中に入れて、ふわっと手を広げたら、蝶が役者さんみたいにカメラの前で何度もヒラヒラ飛んでいったんですよ! 他にもバッタも登場しているので、PVも楽しみにして欲しいですね。

●カップリングのお話も伺いたいのですが、「Wonderful World」は歌詞のテーマが大きいものになっていますね。
滴草:こういう内容のものは前から書きたいと思っていたんです。実はこの曲も3年前位からあって、歌詞も書いていたんですけど、発表する機会がなくて今まで温めていた曲です。この曲は、イントロに駅で人がざわめいているのと、電車が出る時のプワーという音が入っていたり、サウンド的にはティンパレスの音が入っていて、レゲエっぽい裏打ちのリズムがあって、訴えかけるメロディが、世界で起こっている戦争や色々な問題について書いた歌詞とも合うんじゃないかと思ったんです。駅のざわめきの音を聴いた時、色々な世界に旅立つというイメージが浮かびました。サビの“廻る 叫ぶ この地球(ホシ)には”という部分も、すごく広いイメージが浮かんだ事で生まれた歌詞です。小さい頃に、大人の争い事で子供の命が犠牲になったりしているのをテレビで見た時も、“これは間違っている”と幼いながらも思っていました。自然破壊もそうですけど、“何でこうなるの?”と思う事がたくさんあって……。でもいざ歌詞にしようとすると、今までそういうテーマで歌詞を書いた事がなかったので、言葉の使い方とかで難しかった部分もありました。この曲を聴いて、どれだけの人が同じ気持ちになってくれるかは分からないけど、世界は変わるといいなという思いもあったんです。それから月日が経って、改めてこの曲を聴いた時、すごくショックを受けたんです。この曲の歌詞を書いた当時は“これ以上悪い世の中になったらどうしよう……”と思っていたのに、今はその時よりもっとひどい事になってるじゃないですか。その事がすごくショックでしたね。

●歌詞の中で特に伝えたい部分はありますか?
滴草:“違う国だって 同じ人間じゃない”という所ですね。当たり前の事なのに、お互いに壁を作ってしまったり……。あと“降り積もる憧れ抱いて幼い夢は羽ばたこうと生きてる”という部分もそうです。子供達には何の罪もないのに足を失ってしまったり、亡くなってしまったりしてますよね。その子達には色んな夢があるのに、それが奪われているというのは悲しい事です。歌詞の中では子供達がどうとはストレートには書いてませんけど、そういう意味を込めた言葉を歌詞の中にちりばめていますね。

●以前に作った曲ではありますが、今こうして作品としてリリースされて人に聴いてもらえる様になる事については、どう思いますか?
滴草:聴いてもらえる事自体は嬉しいですね。ただ、歌詞を書いていた時に不安になった事があったんです。それは、私みたいな人間が簡単にこういうテーマで歌詞にして歌っていいのかなって……。争いは良くないとは思っているけど、私はそれを無くす為に特別な何かをしている訳じゃないし、堂々とそれを人々に訴える様な立場にあるのかと……。でも、結果的に若い世代の人が伝えていく事も大切だと思うし、発信していく人も必要だと思ったんです。実際に戦争のまっただ中にいる人の方が外に伝える事が出来ないというか、それどころじゃないと思うし、だったら外の国の人達が伝えていかないといけないんじゃないかなって。

●この他にも「Lovin' You」のカヴァーが収録されますが、この曲は以前取材させて頂いた時にレコーディングしたカヴァー曲の中の1つですか?
滴草:YES!(笑)。この曲はデビュー前からライヴでよく歌っていて、馴染み深い曲だったので、是非CDで聴いてもらいたいなと思ってレコーディングしました。前からファンの方からもカヴァー曲を収録して欲しいという声がたくさん寄せられていたので、今回ようやく1曲だけ発表出来たという感じです。あと、このシングルに関して言えば、「Wonderful World」で歌っている様な素敵な世界にするには、色々な愛が必要という事で、「Lovin' You」を収録したというのもあります。結局は人って愛する人の為に何かをしていると思うんです。戦争に行く人だって、愛する人を守る為だったりする訳で……。

●この曲のレコーディングは楽しかったですか?
滴草:楽しかったですね。自分らしさを出せる様に、原曲の匂いも残しながら、メロディや雰囲気を変えたりしてみました。自分の体に入って自然と歌える様になるまで、じっくり時間をかけました。

●これらの3曲が収められたシングルが、いよいよ発売されますね。
滴草:すごく楽しみですね。今回は絵本も付いて、今までとは違う形態でもあるので、皆さんの反応も気になります。

★本誌企画ページ“YOU KNOW YOU ARE music freak !?”(P.24-25)に滴草由実が登場!! 今回のシングルに封入されている絵本を描く時に使ったアイテムの写真(滴草さんが撮影)や、ブログで馴染みのイラストが 掲載されています!!


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「I still believe 〜ため息〜」

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