2008年12月8日、倉木麻衣はデビュー10年目を迎えた。その頃はライヴ・ツアーの真っただ中。それは、10年目というアニバーサリー・イヤーを駆け抜けるという、彼女の思いの表れにも思えた。そして、1月21日にリリースされるニュー・アルバム『touch Me!』にも、今の彼女の思いがしっかり刻まれている。タイトルからして、“自分の事を知って欲しい”という気持ちが投影されている今作は、今までに触れた事のない倉木麻衣の内面を歌詞に綴った楽曲を数多く収録。悩みや苦しみ、焦りや不安、言葉にすると負のイメージを彷佛させる状況が次々と登場するが、決して湿っぽくなっていない。それは、時に躍動的、そしてドラマティック、更に優しさに溢れたサウンドに乗せて歌われる事によって、彼女から発信されたゆるぎないメッセージとして受け取る事が出来る仕上がりになっているからだ。デビュー10年目に突入し、新たなステージを歩み始めた彼女に、今作について話を聞いてみた。
●『touch Me!』は前作『ONE LIFE』から1年振りのオリジナル・アルバムとなりますが、今作を作る時に意識していた事はありましたか?
倉木麻衣(以下倉木):今までアルバムを出してきて“自分自身をもっと出していこう”と思い始めていたんです。デビュー10年目という節目を迎えるにあたって、もっと自分の内面にある思いをぶつけていくと、それを受け取った人はどう変化していくのかという事も試してみたいなと思う様になったのがきっかけで、もっとダイレクトに1歩前に出た様なアルバムにしたくて『touch Me!』というタイトルにしました。
●今までの作品は、倉木さんが楽曲を通して“みんなと一緒なんだよ”というメッセージを伝えながら、聴き手に近付いていくというイメージのものが多かったと思うんです。それが今回はそういうものを取っ払って“曲を聴いて私に興味を持ってくれるだったら、どんどん来てよ!”という様に感じたんです。倉木さんの中で、そういう意識はあったりしますか?
倉木:今まさにそういう気持ちです。もっともっと私からもみんなに近付いていきたいし、みんなも曲を聴いて私の内面に触れて欲しいという欲求がすごくありますね。それは先程も言ったデビューして10年目という間で色々やってきたけど、今回のアルバムでは今までやってきた事も踏まえながら、新しい倉木麻衣を沢山出していきたいという思いは強いです。
●今作は、今までの活動があってこその1枚だと……。
倉木:そうですね。今まで色々なアルバムを出してきた中で、前向きな気持ちとかを歌に込めて届けていく事が結構多かったんですけど、今回はそれもありつつ、テーマとしては、人って弱さと強さの両方を持っていると思うので、そういった部分をよりリアルに表現して伝えられたら良いなと思って、言葉の感じや詞の世界観は変化させて作っていきました。
●そういう意味では、アルバム・タイトル曲の「touch Me!」は歌詞の内容が今までと違っていますよね?
倉木:この曲は“これから自分はどう変わっていけば良いんだろう”と悩んでいる自分の心の中の葛藤をストレートに書きました。歌詞を書くにあたって、それをどう表現して良いか、弱さを強さに変える言葉をどうやって書けば良いかという事を悩みながら、何パターンか書いてみたんです。それらを実際に歌ってみて、フレーズがしっくりくるものを選んでいって、最終的に口語調で表現したものが1番リアルじゃないかという事になりました。歌詞の書き方って、季語を入れてみたり、物事を比喩したり、色々あると思うんです。今回はそういう部分もありつつも、自分のリアルな話し言葉で書いています。
●言葉数の多い歌詞からも詰め込み切れない思いや、主人公がすごくジタバタしている感じが伝わってきました。口語調の歌詞を歌ってみての感触はどうでしたか?
倉木:歌う時はいつも以上に、言葉の感じや歌い回しが難しかったです。この曲は言葉の響きよりも思いを優先させて歌詞を書いたので、サビも早口で歌っていたりするんですね。でも何度か歌っていくうちで段々自分の中で消化して、自分自身の気持ちにもtouch出来た曲になりました。この曲を作ってみて“こういう曲もアリなんじゃないかな”と思いました。ポジティヴな事を書くのも良いんだけど、自分が見せたくないと思っていた部分を見せるのも良いんじゃないかなって……。そうやって自分を見せる事で、相手もリアルな気持ちをぶつけてくれるかもしれないし。今って触れていても触れていなさそうな微妙な人間関係って多いと思うんです。それが家族だとしても、表面的ではなくリアルに触れる事によってお互いをもっと理解出来るんじゃないかって……。自分の弱さを出す事で、そういう事もみんなに知ってもらいたいなと思って書きました。
●曲もドラマティックな展開になっていますよね。
倉木:この曲は新しい作曲家さんに書いて頂いたものなのですが、今までにはないメロディや曲の流れになっていて、気持ちがグルグル回っている感じだったり、先程おっしゃっていたジタバタしている感じが出ている曲だったので、自分の伝えたい思いを乗せて歌えるんじゃないかと思って、この曲を選びました。
●ちなみに倉木さんはジタバタしちゃったりする事はありますか?
倉木:ありますね。歌詞にもありますけど、テンパっている時とか……(笑)。ツアーの初日とかもそうなりますね。何でもそうだと思うんですけど、新しい事をやるのはすごく勇気がいる事で、ライヴでもちゃんと最後まで出来るのかとか、お客さんにどう受け止めてもらえるのかとか、直前までジタバタして気持ち的にもナーバスになっているんですけど、でも“やるぞ!”という気持ちになって最終的にステージに上がってやり切るという所とかもそうですね。
●「touch Me!」という言葉には色々な意味が込められているんですね。
倉木:ただ単に“触れる”という意味だけではなくて、自分の内面に触れるとか、人それぞれが持っている思いの感触に触れるとか……。
●この曲はアルバムを作り始めた頃からあったんですか?
倉木:そうですね。アルバムのコンセプトを決めて、この曲から作っていきました。
●この曲から作り始めた事で、曲的に広がっていったものはありましたか?
倉木:今回は「touch Me!」を選曲しつつ、他の曲を探していく中で、単純に自分が歌ってみたい、みんなに聴いてもらいたいと思った曲を選んでいったという感じです。
●「Catch」という曲は、「touch Me!」の“touch”と関連があったりするのでしょうか?
倉木:「Catch」はデビューしてから抱いた事のある、自分の中のネガティヴな部分をそのまま出した曲です。ここに出てくる“Catch”は、自分の夢を掴みたくてもがいている状況だったり、曲を作っている時に自分の過去を振り返って、今だからこそこういう曲を書く事で自分自身を受け止める事が出来るんだなと思ったという意味での“Catch”だったりします。この歌詞に出てくる部分がなければ、今の私は居ないと思いますね。
●最初の“16、17と……”という下りから、倉木さん自身の事を書いた歌詞だという事が分かりますよね。言葉選び等で気を付けた事はありますか?
倉木:アルバムのコンセプトが“リアルな自分を出していく”という事だったので、それを重視して書いていきました。もちろん歌ってみた時のフレーズの収まり具合とかは調節しながら書いていきはしましたが、今回は制限するというよりも、自分の中で回想して弱い部分を書いてく事が多かったので、この曲もその中の1つになりますね。
●ここまでリアルだと、歌う時に思う事も沢山あったのでは?
倉木:“16、17と……”という風に、自分の弱い部分を語っていく感じの曲なので、最初は緊張したし、いつも以上にシャイな自分が居たりもしたんですけど、歌っていく中で振り返りながら自分の中の思いを“Catch”していく作業が出来たので良かったです。こういった曲を歌うのは初めてだったので、自分の過去を受け止める作業は新鮮でした。
●この曲を聴かれた方の反応は気になりますか?
倉木:そうですね(笑)。この曲の受け止め方はそれぞれ違うと思うんですけど、16歳、17歳の頃に辛い事や繊細な部分で悩んじゃったりしている人達に対して、そういう時期があったからこそ、倉木麻衣はみんなに支えられながら頑張ってこられたんだよと思ってもらえたら良いなと。みんなも辛い時や悲しい時があっても、前に進んで生きていけば、後でそれを振り返る事が出来るから、全然平気な事なんだよという事を、この曲を通して伝えたいですね。
●もし、16歳、17歳の頃の倉木さんがこういう曲を聴いたら、どう思うのかなと思ったりしたのですが……。
倉木:たぶん“同じ気持ちだ!”と思う部分と、夢を手放そうとしている自分に対して喝を入れると思います。
●思春期の頃って、そういう事を素直に聞き入れられなかったりするじゃないですか。そういう事はないと……。
倉木:私の場合は歌に影響を受ける事が多いので、この曲を聴いていたら、しっかりと受け止めるタイプだと思います。
●「Break the Tone」はまた違ったタイプの曲になっていますが、これを選んだ決め手は?
倉木:アルバム全体を通して考えた時、ハメを外した曲を作ってみたいと思って選びました。この曲は音楽を通して、日頃のストレスや疲れている部分から逃避したいという思いで作っていったというか……。私も自由な感覚で音に身を委ねて、色々なコーラスを入れてみたりして、盛り沢山なアレンジにして楽しい楽曲を作りたいと思っていたんです。それで最終的に思ったのは、この曲はアコギのフレーズからスタートして、ビートとドラムと自分の声が前に出た感じのアレンジが1番しっくりくると思って変えていきました。
●色々な音を入れていく作業は楽しかったですか?
倉木:コーラスのラインが沢山思い浮かんでしまって、“これも、これも!”という感じで色々と試しながら作っていったのは楽しかったですね。中には“ここにこういうのってアリなの?”と戸惑われた時もあったんですけど、私は“これで良いんです”と言って進めていました。そういう意味ではやりたい放題な楽曲になっています(笑)
●やっていくうちに色々なアイディアが出てくるのって楽しいですよね?
倉木:ものすごく楽しいですね。いつも思っている事だったりするんですけど、リードを歌っている時よりも、こうやって遊び心を取り入れて気楽な気持ちで作っていく方が私に合っているのかなって。
※この続きは誌面にて!!
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