音楽活動だけでなく、バックパッカー、フリーマガジンの編集長、ラジオのパーソナリティとして、また最近ではスポーツバイクだけでなくトライアスロンにまで挑戦する等アクティヴな一面も踏まえ、各方面から注目されているボサノヴァ・シンガー小泉ニロ。そんな彼女の待望のオリジナル作品が完成!
●初のオリジナル・アルバムは作詞、作曲もご自身で手掛けられていますね。
小泉ニロ(以下ニロ):実は昔からシンガーソングライターという形に凄く憧れてきたし、自分もリスナーとしてそういう人達が好きだったんですね。弾き語りを始めたのもそういう部分がちょっとあるんですけど、自分の中から出てきた物を形にして、作品を作っていくという行為に凄く興味があるんです。シンガーソングライターの作品はその作品自体がどんな物であるかっていう事と同時に、その作品を通してその人の生き方っていうものに興味や憧れを持てるものだと思うので、ゆくゆく自分もそういう姿になりたいっていうのがあったと思います。それにカヴァーをやっているとどうしても言葉の問題があって、例えばポルトガル語はあまりにも馴染みがないし、英語にしてみてもなかなか伝わらない事が多くて、結果どうしても環境音楽になってしまうんですよね。それでライヴを重ねる度に自分の中に欲求としてもっと聴いている人達に伝わる作品を作りたいというのが大きくなって、次は日本語でっていうのが固まっていきました。また、ボサノヴァのカヴァーをしていて共感出来なかったのが、歌詞にリアル感とか生活感がない所だったんです。私はあくまで現実的な事しか書きたくない気持ちがあって、聴いた人誰もが主役になれなければやっぱり意味がないと思うので、その為には主役になって貰える状況設定が必要なんですよね。それはやっぱり海とかリゾート地ではダメで、本当に殺伐としたコンクリート・ジャングルであったり、電車であったり、汚い部屋であったり、会社だったり、そういう世界じゃないと誰もが自分を重ねられないと思うんです。それに綺麗な事ばかりとか、良い事ばかりは言いたくないっていうのがあって、だから私は毒か薬しか書きたくないんですよ。薬になれなければ毒になるしかないと(笑)。毒にもならない様な中途半端な事なら言わない方が良いって思っています。
●では1曲目の「中心部」はどんな曲になっていますか?
ニロ:この曲は“電車”と“新宿駅”が自分の中でテーマになっています。一時期東京で会社勤めをしていた時に、新宿に通っていた時期があるんですよ。新宿駅っていうのは本当に混雑が凄くて、特に私は地方出身なので慣れるまでに時間が掛かったんですけど、とにかくその強烈な印象をいつか曲にしたいなっていう思いがあったんです。それでサウンド的にも、ガタゴトと電車が揺れているイメージをベースに何となく主人公が電車に乗って新宿に行くイメージみたいな所から物語りっぽく作っていきました。私、新宿に向かう電車に乗っていていつも不思議に思っていたんですよね。なんでみんな新宿に向かうのかな。そこに一体何があるのかなって。確かに会社とかビルとか全部固まっているんですけど、でも実際そこに何か自分の欲しい物とか人生の目指している物とかがあるのかなって。で、たまに全然違う用事で反対の下り電車に乗ってみると、同じ時間なのに凄い空いていて。行く方向によってこんなにも違うんだな〜って。私は人生って勿論大事なものだけど、そんなに深刻にならなくても良いんじゃないかなって思う時が時々あるんですよ。だって、人生なんて本当に恋愛1つでガラっと変わってしまう事もあるじゃないですか。そんなものだし、あまり深刻にならなくても、新宿じゃなくても、きっとやっていけるよっていう、そんなメッセージを込めています。
●2曲目の「窓」はどんな曲になっていますか?
ニロ:この曲は[シックスセンス]や[アザーズ]等の映画がモチーフになっています。映画のストーリー的は、ずっと主人公が家に何か恐いものが居るって恐れているんですけど、でも最後の結末で実は自分が死んでいて、本当は自分が幽霊で周りが普通の人間だったって気付くっていうものなんですね。気付いていなかっただけで、本当はそういう衝撃的な現実だったという。人も同じで、自分はずっとこう思っていたんだけど、実は他人から見たらこうじゃなかったっていう事って沢山あると思うんですよ。こっちが中側だと思っていたのに、実はこっちが外側と思っている人も居たんだって。そういうテーマを、窓を1つのアイテムに持ってきて表現してみました。見方1つで全部が変わってしまうっていう、そういうメッセージを歌っています。
●3曲目の「雨の日、ボーイフレンド」は可愛らしい曲ですね。
ニロ:女の人って不思議ですよね。例えばマンガとか顕著ですけど、のび太君の事が結局ほっておけないとか、[タッチ]だって絶対みんなかっちゃんよりたっちゃんが好きですよね。ちょっと抜けていてダメ男が好かれますよね〜(笑)
●確かに! 母性なんですかね?
ニロ:ですかね〜。まぁこの曲は単純にそんな部分が伝わればって思って書いた曲です。YOKO Blaqstoneさんの曲で、頂いた時から可愛い感じの曲だったので、あまり細かい社会性云々っていうよりは、本当にほのぼのした感じが出れば良いなって思っていましたね。それにこの曲は不思議で、雨のシチュエーションにしたかった訳ではないんですけど、デモに鼻歌みたいな感じでメロディが入っていて、それがどうしても“雨の日”に聴こえてきまして。空耳かなと思って何回も聴いたんですけど、どうしても雨の日に聴こえるんです(笑)。じゃぁ、そのまま“雨の日”にしようって決めて、その後の“フレンズ”っていう部分も“フレンズ”に聴こえてきたんでそのまま何とかフレンドにしなきゃ! みたいな。だから「雨の日、ボーイフレンド」っていうのがメロディから必然的に決まっちゃったんですよ。ヒアリングに忠実にやっていったらあらかた言葉のパズルの部分が埋まっていったという曲ですね。またこの曲はYOKOさんにもコーラスを入れて頂いて、そこでもYOKOさんとコラボ出来た作品になって嬉しかったですね。
●4曲目の「くだらない人生」は、まさにニロさんの思想的な部分が表れた1曲なのでは?
ニロ:そうですね。私の人生観っぽいものが表れていると思うんですけど……、色々日々の事ってくだらなくて(笑)。昨日と今日ってそんなに変わらなくて、で、小さい事を気にしていたり、疲れたりとかしているんですけど、でも総じてそういう冴えない自分だな〜って思っている位がちょうど良いというか、だから多分生きていけるんですよね。私は作家の村上春樹さんが好きなんですけど、彼も他人からはあれだけ文筆業で達成している様に見えると思うんですけど、それでも自分の人生には全然納得していなくて、エッセイの中で“僕は自分の人生をくだらなくて、パっとしない人生だなと思っている事が、ある意味僕の今の人生の達成なんだと思う”っていう事を書かれていて、この曲はそれと似た感じなんですよ。結局くだらないな〜って思っている内には多分ある意味自分の中の何かを達成して生きている事だと思うんですよ。そう思いながら、また明日、また明日って生きていければ良いんじゃないかなと。
●5曲目の「結び」はラストに来ても良い様な、胸に染み入るバラードですが。
ニロ:この曲は結婚をテーマにというか、ウエディング・ソングみたいになったら良いなと思って作りました。そうは言っても普通の“あなたが好きよ〜”みたいなベタな感じはちょっと嫌だなと思ったので、なるべく今の社会とリンクした結婚観みたいな物を出したかったんですよね。特に私達の世代の結婚に対する価値観ってなんかあまり良いイメージがなかったり、昔よりみんな揺れていると思うんですよね。それは得てして個人としての問題というよりも、社会設定の問題だと思っているんです。女性がもっと働き易い社会にならなかったら、結婚、出産っていう所に希望を見出せないじゃないですか。子供の少子化とかもお金の事ばかりが不安になって、“お金がないと子供が産めない、お金がないと育てられない”っていう。でもやっぱり私は家族になるという事は、そういう事ではないと思っているんです。お金とか仕事とかそういうのを抜きで、本当に人を愛する、愛に対して真剣に向き合い考えられる、そういう社会になって欲しいというメッセージを込めた歌です。
※この続きは誌面にて!!
■小泉ニロ OFFICIAL WEBSITE http://www.koizumi-nilo.jp/
|